
ジュドーとハマーンがくっついてシャアの反乱に出くわしたらこうなったその1
96 名前:新ストーリー書き:02/08/24 09:26 ID:???
「な、おかしいと思うだろ?ハマーン」
「うむ……。この光……、確かに艦隊だな」
ジュドーが挿入したチップから画面に映し出された映像には、
ガレキが漂う空間のはるか遠くに、薄っすらと光を発しながら
ゆっくりとした速度で移動する船が見て取れる。
「拡大した映像は無いのか?」
「残念!これが最大望遠なの!
これでも、ジャンクの中からこんなの見つけるの大変だったんだからなぁ!」
「……そうか」
寝室の片隅に置かれたモバイル型の情報端末のモニターを、
頭を寄せて食い入るように見ていたジュドーが、ハマーンの無理な要求に頭を抱えて仰け反った。
組んだ片方の足先をデスクに引っ掛けて、回転チェアに全体重を預けて体を揺するジュドーは、
相変わらず映像をにらめ付けているハマーンに、軽口で訊ねた。
「今、この空域に展開している連邦の艦隊ってあったかな……?確かそんな情報無かったよな」
「……また頭から落ちるぞ」
ハマーンの表情は硬く、その回答は、ジュドーの質問の的を得ず、
隣で不安定な体勢をするジュドーに警告するものだった。
「大丈夫って!」
ハマーンの警告を聞かず、チェアを軋ませるジュドーは
身長は伸び、骨格も「少年」から「男」へと成長したにも関わらず、
19歳という年齢のくせに、相変わらず無邪気さが残っている。
ハマーンの方は、5年前と少しも変わらず、見た目に生活観は無く、
凛とした美しさを保ち続けている。
97 名前:新ストーリー書き:02/08/24 09:26 ID:???
ジュドーとハマーンが共に暮らし始めてもう5年になる。
どこのコロニーに行っても、生活が落ち着く頃になると、
ハマーンを元ネオ・ジオンのハマーン・カーンかと訪ねてくる者が現れ、
慌ててコロニーから脱出するという生活が、5年も過ぎたということになる。
そんな慌しい生活に文句も言わず、逆に楽しんでいる風のジュドーに、ハマーンは心から感謝した。
このところは、「灯台元暮らしって言葉もあるぜ」というビーチャの誘いに乗って、
ジュドーにとっては古巣のシャングリラに腰を落ち着けている。
ジャンクの山の一角という、あまりよい環境とは言えないが、
小さいながらも、勝手知ったる場所に住まいを構え、
ジュドーはジャンク屋家業を、ハマーンは過去・現在の軍の動きから
戦闘があったエリアを割り出し、ジュドーらのジャンク回収の能率が上がるよう
バックアップ体制を取っている。
98 名前:新ストーリー書き:02/08/24 09:27 ID:???
かつてネオ・ジオンを指揮していたハマーンがジャンク屋の情報屋ごときに
成り下がっていると、元ジオン兵が見たら悲観するかもしれないが、
政治的、あるいは指揮官の立場からデータを見るので、ハマーンの情報処理能力は正確で、
「あの時の連邦の立場なら、この空域はあえて放棄しただろう……。
ジオンは地球降下に焦っていた。敵艦を回収する余裕は無かったと思われる……。
この空域、巡洋艦タイプが2隻は浮遊していよう」
そう言われてジュドーが、ビーチャ達を伴って言われた空域へ向かってみると、
本当に無傷に近い巡洋艦が、回収されるのを待っていたかのように漂っていた時には、
正にマジックか、女狐に抓まれたような気がしたものだった。
ハマーン自身も、まさか自分がジャンク回収のために1年戦争時からの戦闘を
改めて検証することになろうとは思ってもいなかったが、
すっかりジャンク屋に戻っているジュドーや、その仲間達と共に、笑って、
時には喧嘩もしながら過ごすことを楽しいと思えるようになっていた。
この日も、連邦の機密にハッキングしながら、次なるジャンク回収のエリアを模索している時だった。
額に冷や汗を浮かべて戻ってきたジュドーが、
「妙なものを見たんだ」と、例の画像をハマーンに見せたのだった。
99 名前:新ストーリー書き:02/08/24 09:28 ID:???
「この艦隊の進路……。気になるな……」
「だろ?今更、連邦があの空域へ御一行さんで遠足……、なはずないもんな。
恐らく連邦のものじゃない艦隊がこの進路……。ハマーンも気になるだろ?」
ジュドーにもハマーンの深刻な表情が伝染し、
足をデスクに引っ掛けたままの不安定な体勢だが、さすがに椅子の揺さぶりを止めた。
「この進路……、スイート・ウォーターか」
「ああ」
搾り出すようなハマーンの声に、ジュドーは落ち着いた声で返事をした。
111 名前:新ストーリー書き:02/08/25 11:22 ID:???
「お兄ちゃん!いるんでしょ!?」
「――うわぁ!!」
突然の大声に、背後の寝室のドアを振り向いたジュドーは、
途端にバランスを崩して回転チェアから頭から床に落っこちた。
「あいっ、イタタタタ……」
「大丈夫!?お兄ちゃん!」
慌てるリィナとは対照的に、
ハマーンは無残にもコブを作ったジュドーを、冷ややかに見下ろしている。
「言っただろ?」とでも言いたげな視線を感じながら、
ジュドーは無理してでも、平気な素振りを見せるのだった。
「何だよリィナ!ビックリするだろ!?」
「何回も呼んだわよ!
それなのに、全然お兄ちゃんもハマーンさんも返事してくれなかったんでしょ!」
「……ん、あ、そうなのか」
リィナがまさか嘘をつくわけも無く、ジュドーはリィナにまで弁解じみた返事をするのだった。
「よっぽど大事な相談事でもしてたようね!?」
絵に描いたようなプンプン!とした態度のリィナの言葉に、ジュドーは今の事態を思い出した。
「――そうだ!カミーユさんだったら情報、持ってるかもしれないな!」
「そうだな」
リィナはそっちのけで慌てて情報端末に向かうジュドーとハマーンに、
リィナはやれやれといった風に肩をすくめると、黙って寝室を後にするのだった。
112 名前:新ストーリー書き:02/08/25 11:22 ID:???
――小一時間ほど過ぎた頃……。
「なんか、腹減ったな」
「うむ……」
出来得る全てをし尽くしたジュドーは、どういう訳か、
自分の家のキッチンから漂ってくる美味そうな匂いに、
自分の空腹を思い出した。ハマーンもそれは同じだった。
「お兄ちゃん、ハマーンさん、夕飯の支度が出来たわよぉ」
絶妙なタイミングでキッチンからリィナの声。
「ラッキー!」
ジュドーは先程までの難しい顔とは打って変わり、ニカッと笑ってデスクから離れた。
ハマーンもそれに倣って、キッチンへと向かった。
113 名前:新ストーリー書き:02/08/25 11:23 ID:???
「ハマーンさん、今夜のメニュー、トマトの煮込みスープで良かったんでしょ?」
既にセッティングされた食卓には、美味しそうな料理が並んでいる。
「すまない、リィナ」
「ううん。ほとんどハマーンさんが下準備してあったから、少しお手伝いした程度よ。
あ、これ、お借りしちゃいました」
そう言って、ハマーンのエプロンを外すリィナは、普段は物置になっている
予備のダイニングチェアを引き寄せて、自分も食卓に着いた。
「リィナの料理、久しぶりだなぁ!」
本当に嬉しそうに言うジュドーは、スプーンを持ってフライング気味である。
「お兄ちゃんったら!あの大量のトマト、またドーラさんから頂いたの?」
リィナも、久々の兄とハマーンとの食事を嬉しそうに笑っている。
「そうそう!モンドが定期メンテに行ったら持たされたんだってっ。
ドーラさん、相変わらずすごいパワーらしいぜ」
ムーン・ムンに住むキャラ・スーンの母、ドーラの豪快な笑顔を思い出し、
クスリッと笑うリィナに、ハマーンも目を合わせて微笑んだ。
114 名前:新ストーリー書き:02/08/25 11:24 ID:???
「それはそうと、リィナ、学校はいいのかよ?」
ひとしきりリィナの料理を褒めちぎった後、ジュドーは思い出したように訊ねた。
「今日はウィークエンドでしょ。寮も外出が許可されてるのよ」
ジュドーにスープのお替りを手渡しながら、リィナが答えた。
5年前、ジュドーとハマーンがムーン・ムンからシャングリラに戻り、しばらく絶った時、
リィナは突然に山の手の全寮制の学校へ行きたいと言い出した。
元々、リィナをいい学校へ行かせるためにアーガマに乗ったジュドーは、
リィナの向学心には大賛成したのだが、全寮制と聞いて驚いた。
リィナが自分の足手まといになるまいと、そう選択したことは火を見るよりも明らかだ。
ジュドーはもちろん反対したが、リィナの意思は固く、
結果的に、決して「ジュドーの邪魔にならないように」という本心を言わずに、
「勉強に集中できるから」と主張するリィナの言葉を鵜呑みにした。
というスタイルで、承諾したのだった。
しかし、それは後々のことを考えると、良い選択だったのかもしれない。
ハマーンと共にとあっては、ジュドーもシャングリラに早々長居も出来ず、
他のコロニーに移る日は直ぐにやって来たからだった。
今は、数年ぶりに、シャングリラに腰を落ち着けたので、
リィナは時々、寮の外出許可日を選んで、ジュドーたちの下へ遊びに来るのだった。
皮肉にもグレミーのレディー教育の賜物なのか、山の手の学校へ行っても、
他の生徒に退けを取らないリィナは、ますます聡明な少女へと成長している。
123 名前:新ストーリー書き:02/08/26 13:29 ID:???
「お兄ちゃん達こそ、カミーユさんがどうとかって、何の話しなの?」
リィナの問い掛けに、ジュドーもハマーンもその顔から笑みが消え、
その急変に、リィナも、ただ事ではないと、身構えた。
「スイート・ウォーターの空域に、所属不明の艦隊が集結しようとしているらしいんだ」
リィナにはジュドーの表情が、兄の顔から戦士の顔に変化しているように見えた。
「所属不明って……」
「こっちは民間だから、調べようにも限界がある。
カミーユさんにも聞いてみようとしたんだけど……、
ほら、あの人、技術屋だろ?軍の情報が入ってるんじゃないかと思って。
でも、連絡取れないんだ」
「そう……」
リィナの顔がみるみる曇っていくのを、ジュドーは胸をギュッと握られる思いで見つめた。
またこの宇宙で戦いが始まろうとしている――。
ジュドーとハマーンは直感的にそれを感じていた。
124 名前:新ストーリー書き:02/08/26 13:29 ID:???
「もしかして……」
小さく喋りだしたリィナは、自分の発言の内容の重さからなのか、ポツリポツリと言葉を続けた。
「もしかして……、その艦隊の動きっていうのには……、シャアっていう人が関わってるの?」
まさかリィナの口からシャアの名前を聞くとは思わなかったふたりは、息を呑んだ。
リィナの脳裏には、グラナダでブライトに引き合わせてくれた
セイラ・マスが言っていた言葉が浮かんでいたのだ。
「兄はいっそ死んでくれた方が……!」
それは、ジュドーの無事を切に願っていたリィナには理解出来ない兄妹の関係だった。
その時、もしも、宇宙に再び閃光が走るような事態が起きるとしたら、
このセイラの言っているシャア・アズナブルが関わってくるのではないかと、
密かに胸に思っていたのだ。
「シャア・アズナブル……。恐らく、奴の企みだと私も思うな……」
押し殺した声で答えるハマーンを、ジュドーは複雑な思いで見つめた。
125 名前:新ストーリー書き:02/08/26 13:30 ID:???
翌朝、いつもの工業用ハッチ付近にジュドーとハマーンが向かうと、
回収したジャンクの修理作業を既に始めていたビーチャとモンドには、
既に謎の艦隊の存在は知れていた。
昨日の回収作業を、ジュドーと組んでいたイーノから聞いたとのことだった。
「なんかヤベーことにならなきゃいいけどな」
真面目な表情でふたりを見るビーチャとモンドに、「ああ……」と、ハマーンは曖昧な返事をした。
既に事態は動き出していると、第六感が教えているからだ。
が、深刻なムードは長くは続かなかった。
「リィナはどうしたんだよ?昨日はこっちに戻ってたんだろ?イーノが言ってたぜ」
「ああ、夜のうちにイーノが寮まで送って行ったよ。……ったく。泊まってけばいいのにな」
「シシシッ……!気を使ってるんだよ、リィナも」
いやらしい目で笑ったビーチャに構わず、ジュドーは尚も素っ気無い妹の行動に文句を言った。
「それにしたって……、俺が送ってやるっていうのに」
「送り狼にならなきゃいいけどねぇ~」
「――っんなこと、イーノに限って無いだろ!?」
横から同じくニソニソして口を挟んだモンドは、ジュドーが大真面目に食い付くので、
慌ててビーチャの影に逃げ込んだ。
「どうだかな!イーノだって男だし、
リィナだって、お前がハマーンとよろしくなった時と同じ年齢になってるんだぜ」
「――っんな!」
遠慮ないビーチャの分析にジュドーの思考回路は、頑固親父と化していた。
その横でハマーンは黙って頬を染めてそっぽを向いた。
126 名前:新ストーリー書き:02/08/26 13:31 ID:???
5年の歳月が経過しても、ジュドーとビーチャ、モンド、イーノ、エルとの関係は変化していない。
リーダー格のビーチャと紅一点のエルは、
相変わらず喧嘩をしながらも、時々目が当てられないほどイチャイチャしている。
モンドは小柄で童顔のままで、それを気にした本人が口ひげを蓄えた事があり、
周りの全員から「いんちきチャイニーズマフィアだ!」と言われて
泣きながら剃り落としたという事件もあった。
イーノとリィナに進展があったかどうかは、誰にも分ってはいない。
ふたりとも自分のこととなると口が堅くなる者同士だからだろうか。
そんな相変わらずのメンバーの中に戻ったジュドーとハマーンは、
泣いたり笑ったり怒ったり、いわゆる普通の青春を共に送っているのだった。
――普通の青春――それは、ハマーンにとっては既に諦めていた時代だけに、
やや出遅れはしたものの、この時を大切にジュドーと過ごしていゆきたいと切に願っていた。
ところがだ、今回の所属不明の艦隊の存在が、ハマーンの真っ白だった心に、
黒い一点の墨汁のように落ち、それが不安と憤りとなって徐々に広がろうとしていた。
その黒点の元にあのシャア・アズナブルがいるのかと思うと、
尚の事ハマーンの心中は乱れそうになるのだが、側にいるジュドーの存在が
それをどうにか落ち着かせる役目をしている。
131 名前:新ストーリー書き:02/08/27 17:15 ID:???
「大変大変!ビックニュースよ!」
エレキバイクを飛ばしながら叫ぶエルが、ほとんど廃棄物のような鉄屑の山の間から現れた。
エルの暴走ぶりに、後席で必死にエルの腹にしがみ付いているイーノの姿も見える。
「なぁんだよ!例の艦隊のことなら出遅れたぜ!」
急停止したバイクにプリプリ怒りながら、イーノをエルから引き離しながら言ったビーチャが、
「なんでお前がエルと一緒なんだよ!?」と続けてイーノに小言を言っている。
「イーノはそこでたまたま拾ったのよ!あ、ジュドー、ハマーン、おはよ!」
「ん?ああ、おはよ」
「うむ」
エルの落ち着きの無さも、5年経っても成長無しということらしい。
「大変って、何があったのさ?」
回収した未使用のバリュートの破損部分を補修していたモンドが、
作業用のバイザーを外して、なかなか本題に入らないエルに訊ねた。
「そうそう!ビックニュースなの!」
居合わせた全員がエルにジッと注目した。
「ジャンク屋組合の会合で聞いた話なんだけど、
今、どこかの組織が、すごい勢いで実戦投入出来そうなジャンクを買い漁ってるんだって!」
「実戦投入出来そうなジャンク……?」
「けど、うちのサイドの組合には、そんな話来てないんだろ?」
「そうよ!だから今まで気付かなかったんだけど、サイド3でもサイド4でも、
そういう儲け話がゴロゴロしてるって!」
エルは先週からシャングリラの代表としてジャンク屋組合の会合に出ていた。
そこで同業者から聞いた情報なら、誤報ということはあるまい。
132 名前:新ストーリー書き:02/08/27 17:16 ID:???
「どう思う……?ハマーン」
黙ったままのハマーンをジュドーは見つめた。
「実戦投入を目的にしているとなると……、艦隊の動きといい、気になるな……」
口元へ手を持っていき、考える仕草をするハマーンの横で、モンドが自慢気に口を開いた。
「最近のジャンク屋は腕がいいからね。退役した軍のメカニックの人を抱えてる場合も多いし」
「状態のいいものを回収出来れば、作業用のモビルスーツぐらいなら、簡単に作れるからな」
「結構、戦闘用を作っても、今まで平和だったから買い取ってもらえなくて、
行き場のないモビルスーツがゴロゴロしてるんじゃないの?」
現に、モンドが今補修しているバリュートは、民間のレジャー会社が、
スペースノイド向けの「大気圏突入体験ツアー」で使用するために買取が決まっている品だ。
時代が時代なら、物資の足りない軍が欲しがっても良さそうなほどの良品に仕上がろうとしている。
「確かに、思想とカリスマだけでは軍は動かせん。
泥臭い話だが、軍を旗揚げするには技術者も金も要る」
「さすが、旗揚げした人は分ってらっしゃる」
ハマーンの言葉をビーチャが茶化した。
「けど……、そういうこと……、なんだよな」
ジュドーが全員に確認するように言うと、その場は重苦しい空気に包まれた。
133 名前:新ストーリー書き:02/08/27 17:16 ID:???
「どうしたらいいの?」
沈黙を破ってエルが言った。
「ブライト艦長に連絡を取った方がいいんじゃないのか?」
「それが駄目なんだ。昨日、ハマーンともしようとしたんだけど、繋がらないんだ」
ビーチャの提案はジュドーによって直ぐに消去された。
「カミーユ・ビダンもな……」
言われるより先にハマーンが追加する。
「ルーも、退役しちゃったしね……。もう!こんな時に限って!」
どうにもならない事なのに、ルーの事となると
エルは腹を立てるというのは条件反射のようなものだ。
5年前、ジュドーと共に木星へ旅立てなくなったルー・ルカは、
ブライトに嘆願して正規パイロットとして復帰した。
しかし、1年ほど前、突然にシャングリラに訪れたルーは、
新しい彼氏とやらを紹介してケロッと軍は退役したと言ったのだった。
そして、そこに居合わせた者は、ルーのパートナーを見て絶句した。
その人物が、あまりにもグレミー・トトに似ていたからだった。
育ちの良さそうなお坊ちゃん風の青年は、心底ルーにベタ惚れらしく、
「ルーさん!ルーさん!」と言っては、ルーの機嫌を取っている。
そんな彼をルーはうるさそうにしながらも、満更でも無さそうな心中が伝わってくる。
ルーはジュドーへの失恋と、グレミーを殺めたというトラウマを同時に克服したということらしい。
134 名前:新ストーリー書き:02/08/27 17:17 ID:???
「ブライト艦長も、カミーユさんも、ルーも駄目。こりゃ八方塞だな」
お手上げのポーズをとるビーチャに、ジュドーもため息をついた。
「でも、どうしてうちの組合には買い取りの話が来なかったんだよ?」
よほど自信のあるマシンが在庫しているのか、モンドが根に持った。
「当たり前だろ?俺が軍を興すにしたって、お前から買おうなんて思わないよ」
ジュドーの返事にモンドが「何でだよ?」と食い付く。
「連邦軍のブライト・ノアの指揮下でパイロットをしていた人間からなど、
たとえいい品であろうと、買えぬということだよ」
「そういうこと!」
ハマーンとジュドーの説明に、モンドはやっと自称、凄腕のジャンク屋として安心した。
141 名前:新ストーリー書き:02/08/28 09:58 ID:???
「……だったらさ、こっちからカミーユさんトコ、お邪魔しちゃえばいいんじゃない?」
名案浮かんだり!と手を顔の前でポンッと打ったエルが、自慢気に提案した。
「そうだよ。もし、本当に戦闘状態にでもなったら、ブライト艦長は忙しくなるだろうしね」
「ああ。このまま状況が分らないんじゃ、こっちも仕事の支障が出かねないし、
ちょっこっとふたりで情報収集して来てくれよ」
「うんうん」
イーノ、ビーチャ、モンドが口々にエルの提案に賛成する。
「……あのねぇ、行きたいのは山々だけど、
カミーユさんがいるのは月だって知ってて言ってるの?」
「大丈夫だよ、ジュドー。今の月の軌道ならシャングリラからでもそんなに遠くはないよ」
イーノから月位置の説明をされて、話は急に具体性を帯びる。
「ジュドー。カミーユ・ビダンが不在というのも気になる……。
エルの言う通り、月に向かってはみないか……」
「ハマーンまで……」
ハマーンが今の状況に心中穏やかでいられないことは、ジュドーにも分っている。
シャングリラでじっと情報を待っているよりも、手探りででも、
シャアが関わると思われる、今の事態の状況を少しでも早く知っておきたいのだろう。
それをつまらない男の嫉妬で阻むようでは、ジュドー・アーシタの名が廃る。
「リィナのことなら、任せておいてよ」
イーノの申し出に(無邪気な顔してお前が言うなよ……)と、
ビーチャとモンドの半分、冗談の会話を真に受けてジュドーは複雑な顔を返す。
「“足”だったら、心配ないからさっ」
モンドが何故だか嬉しそうに言うのを、ビーチャが不思議そうに顔を見る。
そして、長年の悪友仲間としての経験がビーチャにモンドの企みを直感させる。
(ニヤリ……)
「そうそう!こんな事もあろうかと、ちゃ~んと、いい機体を用意してあるからさ!」
言いながらビーチャとモンドは、
ジュドーに有無を言わさず、工業用ハッチの奥へと一行を連行して行くのだった。
142 名前:新ストーリー書き:02/08/28 09:58 ID:???
「ジャ――ン!驚いただろ!?」
自慢気な顔でカバーをビーチャが剥がすと、そこには黒くまっ平らな機体が固定されている。
「ビーチャ、これって……」
口をあんぐりと開けてその機体を指差すジュドーに、ビーチャはますます鼻を上に上げて答える。
「そ。ベースジャバ」
まさかハマーンも、こんなものをビーチャが回収しているとは思ってもいなかった。
しかも、この様子だと、機動性も保障済みのようだ。
「ま、俺達が使ってた頃のよりも、多少改良はされてるみたいだけど、
お前なら余裕で使えるだろうからさ」
「――ってビーチャ、お前、こんなのどうしたんだよ!?」
「どうしたって、俺たちゃジャンク屋だぜ。拾って来たに決まってるだろ?」
「改良されてるってことは、連邦が現役で使ってるヤツだろ?
そんなもん、そこらに落ちてるわけないじゃないか!」
「ん……?まあ、なぁ……」
「――ビーチャ!あんたコレ、盗んで来たの!?」
「人聞き悪いこと言うなよ!」
エルも、この機体のことは聞いていなかったらしく、ビーチャのはっきりしない様子に怒りだす。
それにモンドが反発する様子からして、
またしても、ビーチャとモンドの悪巧みコンビが独断暴走の結果らしい。
143 名前:新ストーリー書き:02/08/28 09:59 ID:???
「連邦の連中、飛行訓練のつもりだったらしいけど、
機体にトラブル発生しちまって、置いてっちまったんだよ」
「最近のパイロットってダメだよねぇ~。自分で修理のひとつも出来ないなんて」
どういう根拠でか先輩面して説明するビーチャとモンドに、イーノが冷静に口を挟む。
「でも、それって、後で回収に来るつもりだったんじゃないの……?」
「――っだ~から、急いで拾ってきたんだろ!?」
「それを泥棒って言うんだよ」
ジュドーがふたりをにらみ付けるが、そんなことは気にするようなビーチャとモンドではない。
「どうするんだよ?これ、使うのか?使わないのか?」
逆にジュドーに向かって凄んでくる。
「もしかしたら戦闘が始まるかって時なんだぜ。
こんな現役連邦の機体に乗ってたら、狙い撃ちされるのがオチじゃないのか?」
「大丈夫!ちゃんと、民間の発光信号に変えてあるからさっ」
「それに、砲座だって生きてるんだぜ」
「故障してた部分は完璧に修理してある」
「お前のランチなんかより、絶対、パワーがある」
ふたりはこれ以上ないほどの自信をこのベースジャバに持っている。
ジュドーとて、この機体には魅力を感じる。
「 …… 」
ジュドーは、チラリとハマーンにお伺いを立てた。
「少しでも早くカミーユ・ビダンに接触したいのだろ?使ってみるか」
ハマーンの了解に、ジュドーの顔は無意識に笑みが出ていた。
それを目にしたビーチャとモンドは、もう次の行動に出ている。
工業用ハッチの外に通じる通路に走りながら、ジュドーに大声で指示を出した。
「最大加速射出してやるから、乗ったら例の船まで来いよ!エル、イーノ、お前達はこっち!」
呆気に取られるジュドーとハマーンの前を
「ちょっと待ってよ!」とエルとイーノが追いかけて行く。
「……どうする?ハマーン」
「っふ。いくつになっても元気な子たちだな。行くぞ」
ジュドーを置いて、先に覚悟を決めたハマーンは、ベースジャバへと足を向け、
ジュドーは慌ててその後を追った。
161 名前:新ストーリー書き:02/08/30 12:00 ID:???
「飛行点検だって?精が出るなぁ、ジュドー!」
ハッチの開放をしてくれたチマッターは、ビーチャの嘘八百を鵜呑みにしたらしい。
もうひとつのシートに、足を組んで思い詰めた表情で座るハマーンを隣に、
「あはは、行ってくるよ」とジュドーは、引きつった笑顔を返し、
ベースジャバの操縦桿をギュッと握り、素早くその場を飛び去った。
外に出ると、ビーチャの言っていた「例の船」はすぐに分った。
以前、ハマーンの指示で向かった空域で回収して来た巡洋艦のことだ。
ベースジャバが飛び出したのを確認して、カタパルトに誘導灯が焚かれている。
しかし、その見た目は、とても1年戦争時のものとはいえ、巡洋艦には見えない。
この船を回収してすぐに、エルが民間の運送会社と売買の契約を取次ぎ、
宇宙規模で展開している「かえる運輸」に納入が決まっているその船は、
全体のペイントは、かえる運輸のイメージカラーの緑色に塗られ、
船の顔とも言えるブリッジには、ウインクをするかえるのキャラクターが愛らしく描かれている。
これでは、当時この船に搭乗していたクルーにとっては遺憾だろうが、
ジャンク屋サイドとしては、これはなかなかいい金になったのだった。
「それにしても……。これでは死んでいった者たちも浮かばれんぞ……」
カタパルトデッキにベースジャバを移動させると、
真横に大きく見える“ウインクかえる”にハマーンはため息を漏らした。
「ゴミにしておくよりはマシでしょ?リサイクル屋なんだよ、ジャンク屋って」
「ものは言い様だな」
今更ジャンク屋のいろはをジュドーと議論する気の無いハマーンは、
今見たウインクかえるの映像は、頭の中から削除しておこうと、ひとり思った。
162 名前:新ストーリー書き:02/08/30 12:01 ID:???
『さっすがジュドー、ブレもせずカタパルトデッキ着艦、上出来だな!』
着艦と同時にブリッジからのビーチャの音声が、ベースジャバのコックピットに入って来た。
「まあな」
『月がちょうどいい角度で入って来てるんだ。とっとと射出するぞ』
『……だよ……これじゃGが……ジュ……だって……』
ビーチャの声の後ろで雑音混じりのイーノの声が聞こえるが、ジュドーとハマーンには聞き取れない。
「どうしたイーノ?何かあったのか?」
『なんでもない。こっちのことだ。そっち、準備いいのか?』
「ああ。こっちはいつでも……」
隣のハマーンに確認すると、コクリと頷き返した。
「準備OKだ」
『了解した。早く着きたいんだろ?加速付けてやるから、衝撃には備えとけよ』
「分ったよ」
ジュドーはシートに深く座りなおし、ハマーンも組んだ足を解いた。
『ジュドー、ハマーン、気を付けてね!』
『じゃ、頼んだぞ』
「ああ。頼まれた」
「うむ」
ブリッジからの声に答えて、ジュドーがおもむろに操縦桿に手を掛ける。
「ジュドー・アーシタ」
「ハマーン・カーン」
「「行きまぁ~す!」「出るぞ!」」
163 名前:新ストーリー書き:02/08/30 12:01 ID:???
ジュドーの発進操作で、ベースジャバは一気に加速し、かえる運輸のカタパルトから射出された。
その加速は、本来モビルスーツの足として使うベースジャバに備わっている強力な加速力に加え、
カタパルトデッキに装備されているモビルスーツの射出装置の力も相乗して、
相当な加速度をベースジャバに与え、当然、コックピットのふたりにはかなりのGが全身に掛かる。
「うぐぐぐ……」
「っく……」
歯を食いしばってそれに耐えるふたりの音声は、かえる運輸のブリッジに届いていた。
「もう少し負荷を増やしておいた方がいいみたいだね。ビーチャ」
「そうだな。ジュドーとハマーンでもやっと耐えてるんじゃ、
普通の人間だったら今頃失神してるな」
ビーチャとモンドはそう言って、ブリッジから射出の加速調節のレバーを操作している。
それで全てを察したイーノが、堪らず大声を上げた。
「だから僕はそんな加速、無茶だって言ったじゃないか!」
「納期が迫ってるんだ。ちょうどこれのチェックがしたかったんだよ!
あいつらだって急いでたんだ。感謝すらされたいね!」
「ビーチャ!あんたジュドーとハマーンを何だと思ってるのよ!」
エルも、やっと全ての状況を把握して、ふたりの非情に声を裏がえて怒る。
「お前が取ってきた契約だろ!?実益を兼ねたチェックしただけじゃないか!」
「そうそう、ジュドーもハマーンも、これぐらいのG、どうってこと無いさ」
全く反省する素振りの無いビーチャとモンドに、エルはプイッとソッポを向いた。
「ベースジャバをくれてやってるんだぜ!これは俺達にとっちゃ、大きな損失だろ!?」
「ビーチャ、あんたねぇ!そんな気持ちでジュドー達を見送ったの!?」
半分涙声になっているエルの言葉に、ビーチャの勢いはピタリと止んだ。
164 名前:新ストーリー書き:02/08/30 12:03 ID:???
「バカ……。そんなわけないだろ……」
「ビーチャ……?」
今まで怒鳴り合っていた分、ブリッジが急に静まり返った。
ビーチャの急変にイーノが心配そうにその顔を覗き込む。
「こんな状況分んない時に、あのハマーンと一緒に出てったんだぜ。ジュドーは。
自分の女がどんなに危険な存在なのか、あいつ、分ってないんだよ……」
「それって、ハマーンが裏切るってこと!?」
「――っんなこと俺だって思っちゃいないさ!
この5年、俺なりにハマーンを観察してたつもりだ!けど……」
ビーチャ自身が自分の言いたいことが、うまく言葉に出来ないもどかしさを感じている。
「ハマーンの奴、自分だけ分ったような顔して……。
放っておいたら、ひとりでここを出て、シャアって奴のトコに出向く顔つきしてたろ!?」
「え……?ん、あ……」
エルに同意を求めても、エル自身、そこまでハマーンを理解してはいなかった。
「ちったぁ強引なぐらいでジュドー押し付けておかなきゃ、
ハマーンは平気な顔で自分の幸せなんか棒に振るんだよ」
「そんなぁ……」
イーノがハマーンという女の本質を不憫に思う声を上げた。
「ビーチャ、あんたそこまで……」
エルの目頭に溜まった涙をビーチャの指先がそっと拭った。
165 名前:新ストーリー書き:02/08/30 12:04 ID:???
「こんな時に丸腰で送り出せるかよ……。運良くベースジャバが手に入ってて良かったよ……」
「ビーチャが素直じゃないってことぐらい、分ってるでしょ?エル……」
ブリッジのシートに座っていたモンドが、立ち上がって背後のエルに向いた。
ベースジャバを押し付けるようにふたりに与えたのも、
ギリギリの加速で射出したのを、チェックのためだと豪語するのも、
全て友の“出撃”を心配する感情を、素直に表現出来ない性格故のものなのだ。
「ビーチャ……」
ストンとビーチャの肩に頭を置いたエルの腰を無言のビーチャが引き寄せ、
ふたりはベースジャバが消えていった宇宙に目を向けた。
「素直じゃないのは、モンドも一緒でしょ」
イーノの指摘にモンドは照れ臭そうに、同じ宇宙に視線を運ぶ。
「必ずふたりで戻って来いよ。ジュドー、ハマーン」
今度は正直な感情をビーチャが口にした。
かえる運輸のブリッジに立つ4つの影は、いつまでも宇宙を見つめていた。
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