
ジュドーとハマーンがくっついてシャアの反乱に出くわしたらこうなったのその2
175 名前:新ストーリー書き:02/08/31 17:56 ID:???
「っててて……。あいつら、ホントにすごい加速かけたな……。
ハマーン、大丈夫か……?」
ようやく加速のGがおさまった、ベースジャバのコックピットのシートから、
ジュドーは身を乗り出し、隣のハマーンの様子を見た。
「……うむ。どうにかな」
ハマーンも、全身をシートに押し付けられた時の鈍い痛みが体に残っているものの、
ジュドーの問い掛けに余裕を見せて答えた。
ベースジャバの後部モニターには既にシャングリラの影は見えない。
大宇宙の空間に、その小さな機体は光の線となって移動している。
「太陽に、地球に、後ろがシャングリラだろ……。月には割と早く着きそうだぜ。ハマーン」
GPS機能で現在位置を確認したジュドーの言葉に、
ハマーンは薄く微笑み、目の前に広がる宇宙空間に目を向けた。
しかし、ジュドーから外したその目は、すぐに鋭く無の世界を貫いた。
「それにしても、カミーユさん。どこ行ってんだろ?
ファさんが代わりに返事くれたっていいようなものなのにな……」
何度カミーユに連絡を取ろうとしても、その返事は返っては来なかった。
カミーユが不在にしても、同居しているファから一報あってもよさそうなものを。
というのがジュドーの思いだ。
176 名前:新ストーリー書き:02/08/31 17:56 ID:???
「仕事、忙しいのかな……?」
精神の病から快復したカミーユは、月面の街グラナダで、フリーの技術屋として生活をしている。
月にはアナハイムという大きな開発会社があるが、カミーユはあえてその道は避けたのだった。
「戦いの道具を創る気は無い」それが元Zガンダムのパイロットの本心だった。
不定期な仕事の依頼では、生活力に欠けはするが、
誰よりもカミーユの苦悩を熟知しているファ・ユイリィが、そんなことに文句を言うわけも無く、
自らも慢性的に人手不足な看護の仕事に就いて、ふたりの生活を守っている。
兵器とは無縁の仕事ばかり受けているとは言っても、
アナハイムエレクトロニクス社のお膝元で、同じ技術開発の仕事をしているのだから、
新型開発の情報や、不穏な因子の動きも察知しているのではないかというのが、
ジュドーらの考えだ。
ジュドーがブツブツとひとり言を言いながら、ベースジャバの操作をする後ろで、
ハマーンはどこまでも続く宇宙の、ある方向を渾身ににらみ付けていた。
(過去の私の行為は過ちであったと分っていように……!シャア・アズナブル!)
ジャイロをセットするジュドーは、
ハマーンから発せられる殺気に気付きながら、気付かない振りをしていた……。
177 名前:新ストーリー書き:02/08/31 17:57 ID:???
宇宙に出たことで、ハマーンの感情はフィルターを介さず、直情的に宇宙を駆け巡る。
それは、遥か離れた位置――スィート・ウォーターの艦艇にも念派のかたちとなって届いていた。
( !? )
アンティークな調度品に囲まれた部屋で、翌日に控えたインタビューの放映のために、
威嚇的にも見えるマントを羽織る正装の袖通しをするシャア・アズナブルの下へもそれは届いた。
「いかがなされました。総帥」
こんな時にも、シャアの周りには政治的な補佐をする油断ならない風の男が囲っている。
明日の放映が事実上の宣戦布告となるのだから、
総帥の側を離れまいという意気込みは分るのだが、その視線は気持ちのよいものではない。
「なに。気にする事ではない」
言いながらも、シャアはその思念の感触を体が忘れてはいない。
(……まさかな。あの女は死んだはずだ)
そして、そんなことを考える自分自身を失笑した。
そこへドアをノックする音がし、制服姿のナナイ・ミゲルが姿を現した。
他の者には目を向けず、真っ直ぐにシャアに向かって足を進め、
その耳元でシャアだけに聞こえる声で用件を短く言う。
「――なに!?」
シャアの衝撃は予想の範囲だったようで、ナナイは落ち着き払った声のまま続けた。
「お会いなさりますか?」
「うむ。待たせておけ」
「はっ」
短く敬礼をしたナナイは、来た時と同じく、シャア以外には目もくれずドアに消えた。
(奴の感覚だったのか……?)
シャアは心中を誰にも見せぬように、その目を閉じた。
193 名前:新ストーリー書き:02/09/03 16:56 ID:???
「ハマーン……、ハマーン!」
「な、なんだ!?」
ベースジャバのコックピットの中、ジュドーの呼びかけにハマーンは我に返った。
「だから、帰ったらビーチャとモンドに絶対、文句言わなきゃな。
あの射出、きっと、かえる運輸の納入前の点検の一種だったんだよ!」
「あ、ああ……。生きて帰れたらな」
一旦は放置しておこうと心に決めたジュドーだったが、辛抱の糸がプツリと切れた。
「ハマーン!!」
突然のジュドーの大声に、ハマーンはその顔を凝視した。
心半分での会話で出たハマーンの本心を、ジュドーは決して許しはしない形相でにらみ付けている。
「なんでハマーンはそんな風に……!」
「覚悟を言ったまでだ」
「――何の覚悟が要るって言うんだ!」
ジュドーがいくら激怒しても、ハマーンは動じない。
「お前にも分っていよう。今の状況を。
私はこの身を捨ててでも、私と同じ過ちをあの男に繰り返させる訳にはいかん」
「そんな考え方、間違ってるって何故分らない!」
「これが私の考え方だ!」
ジュドーはハマーンに向き合い、その両腕をグッと掴んだ。
そして、かつてなら怒鳴るところを、ジュドーは努めて冷静に言葉を選んで発した。
194 名前:新ストーリー書き:02/09/03 16:56 ID:???
「ハマーンはこの5年間、何を見ていたんだ。ハマーンはもうひとりじゃないだろ。
俺も、リィナも、シャングリラには仲間がいる。ハマーンの仲間がな」
ハマーンの視界いっぱいにジュドーの真剣な顔が迫っている。
「死ぬ事なんて考えるな。たとえ、どんな状況であっても、
ハマーンには待っている仲間がいることを忘れるな。
大切な仲間がいるっていうことは、絶対に生きて帰るってことなんだ。
今のハマーンなら分るだろ?俺が言いたいことを」
「しかし、シャアは……!」
視線をずらし、尚も声を荒げるハマーンを、
ジュドーはシートから引っ張り上げ、真正面から全身を抱きしめた。
まるでその場からハマーンが消え去るのを拒むかのように。
「あの男の孤独感に吸い込まれるな!」
「……なんだと!?」
その腕を振り解こうとはしないが、ハマーンはジュドーの理解不能な言葉に顔を歪めた。
「今のシャアの気持ちが、ハマーンには分るって言うんだろ!?」
「私は過ちを繰り返そうとなどと思わん!」
「そうじゃない!そうじゃないんだ……!」
ハマーンの体を引き離し、その瞳を凝視するジュドーは、
想いと言葉のギャップを真っ直ぐな眼力で補おうと無意識のうちにした。
「戦争始めようなんて考える奴は、みんな孤独なんだよ。
大義名分を挙げて人を引きつけるんだろうけど、そんなの、ただ寂しいだけなんだ」
ジュドーは何を言おうとしているのか……。ハマーンはジュドーの瞳から目を逸らせない。
195 名前:新ストーリー書き:02/09/03 16:57 ID:???
「ハマーンにあの時――、ネオ・ジオンを興した時、大切な人や仲間がいたらどうしてた……?
あんな馬鹿な真似、しようとなんて絶対に思わなかっただろ?
どんなに世界の矛盾を感じていても、やり遂げたい大義があっても、
大切な人がいたら、力を行使しようなんて思うはずがない。
戦う相手にだって、守りたい人がいるって分ってるはずだから……!」
ハマーンの脳裏にアステロイドベルトの寒い部屋が浮かぶ。
(孤独が戦いを生む……?)
「俺達は、戦いに行くんじゃない。シャアにその事を気付かせるだけなんだ……!」
この5年間、いつの間にかハマーンを見下ろすようになったジュドーが、
諭すように言った言葉の数々が、ハマーンの心の中に染みてゆく。
今の自分は易々と死を覚悟できないほど、大切な者が増えていた。
この満ち足りた想いがアステロイドベルトにあったならば、
確かにザビ家復興など思いもしなかったかもしれない。
だからこそ、今、軍を興そうとしているシャアがまた孤独だと言うのも分る。
(あの男は己に流れる血のために人の大義を背負おうとする……。
あの男も常にひとりきりだった……)
シャアの人を寄せ付けようとしない背中に夢中になった時期もあった。
それは孤独を分かち合えると感じたからだ。
196 名前:新ストーリー書き:02/09/03 16:57 ID:???
「……私ならば、あの男の孤独を埋めれるかもしれんのだぞ」
長い沈黙の後に出たハマーンの落ち着いた言葉に、ジュドーは目を丸くした。
(――ハマーン!?)
まさかハマーンが、自分よりもシャアを選ぶとは、ジュドーは思ってもいなかった。
それはこの5年間、ふたりで生きてきて培った自信だ。
それなのに、この歳月を棒引きにするほどの影響力をシャア・アズナブルは持っているのか。
「ん?」
涼しい顔で返事を催促するハマーンの嘲笑を前にし、ジュドーは生唾を飲み込んだ。
(俺の本心は……)
ジュドーは無意識に拳を握り締めていた。
「……だったら、俺はハマーンを命懸けで守る。
ハマーンがシャアを選ぼうと、俺にとってハマーンは大切な人には変わりない」
その瞳はまた、一点の曇りも無く、ハマーンを見つめている。
それを見つめ返すハマーンは、どこまでも純粋なジュドーの瞳からフッと目を逸らし、
背中を丸めて細かく体を振るわせた。
「……っくくく」
「ハマーン……?」
震える体の理由がジュドーには想像も付かない。
「……っくく。お前は本当に単純だよ」
やっと言葉を発したハマーンは、片手で口元を覆いながらも、笑いを隠し切れないでいた。
197 名前:新ストーリー書き:02/09/03 16:58 ID:???
「……ハマーン?なんだよ、どうしたって言うんだよ?」
「私が今更、シャア・アズナブルの下へ走ると思うか?
この5年間は何であったのかなあ、ジュドー・アーシタ」
嘲るハマーンに、ジュドーは今までの勇ましさを失い、口は大きく「い」の字で開いている。
ハマーンにしてやられたことは、一目瞭然。指摘されなくとも自覚出来る。
「これは確認だ。今、何が起こるか分らん事態に、お前と私はもう一度ゼロに戻ったのさ」
「ゼロに……?」
「ああ。いい意識確認が互いに出来たであろう」
フッと笑うハマーンを前に、ジュドーは急に気が抜けたように、
空いたハマーンのシートにヘナヘナと腰を落とした。
「……良かったよ。ハマーンがいなくなったら俺……」
先程までの意気込みはどこへやら、シートの上のジュドーは脱力しつつ、
凛とするハマーンを見上げてその腕を軽く引っ張った。
「っな……?」
無重力空間でハマーンの体は抵抗する間も持てず、フワリとジュドーの膝の上に収まる。
一瞬でも、ハマーンを失ったと思った心を静めるには、肌のぬくもりが手っ取り早い。
198 名前:新ストーリー書き:02/09/03 16:59 ID:???
「ハマーンを、誰にも渡しはしない」
ハマーンの胸元に頭を埋めて言うジュドーの背中に、ハマーンもそっと手を回した。
内心、いたずらが過ぎたという反省もしている。
「まさかこのように私が死を恐れるようになるとはな……」
「それは臆病ってものとは違うと思うよ」
「 ? 」
「帰る場所がある人は強くなれるんだ。知ってる?人類で初めて宇宙に出た人たちのこと……」
膝の上のハマーンはジュドーの顔を見た。
「初めて宇宙に出た人は、小さい子供や家族のある人を選んだんだってさ。
守るべき人を持ってる人間の方が、いざという時、絶対に帰るんだという意志から
信じられない力を発揮出来るって。20世紀の人はそう考えたらしい」
ハマーンはジュドーの背中に回した腕に力を込めた。
「私もお前を失いたくはない。あのシャングリラの……、仲間がいる所へ必ず帰るぞ」
「ああ」
宇宙の片隅でハマーンとジュドーが決意を固めている時――、
スィート・ウォーターのシャア・アズナブルは、ひとりの男との対談に望もうとしていた。
208 名前:新ストーリー書き:02/09/05 01:55 ID:???
ジュドーとハマーンのグラナダへの侵入は、結果的には、トラブル無く行われた。
しかし、ベースジャバのコックピットという思わぬところで、思いもせずいい雰囲気になってしまい、
行為に走ってしまったふたりは、そろって爆睡してしまい、月への接近に気付きもしなかった。
生死の話をした後で、肌を重ねるのに抵抗が無かった訳ではない。
スィート・ウォーターの動きももちろん気にはなる。
しかし、それをも忘れて欲望のままに走れるのが若さなのだ。
5年前の、初めて結合した時と違い、ハマーンの体の隅々まで熟知している現在になっても、
それでもハマーンを求めてくるジュドーに対し、年上の女は少なからず喜びを感じ、
若い肉体を受け入れてしまう――。
月のレーダーが機能する距離に接近したことを知らせる警告音に飛び起きた時、
ジュドーは全裸でダミー隕石に機体を隠す操作をすることとなり、
その滑稽さに、ハマーンは笑いを堪えることが出来なかった。
「そんなに笑うことないだろ!俺だって裸で操縦するなんて初めてだよ!」
全裸のまま振り向くジュドーに対し、
「早く服をまとわぬか!」と赤面するハマーンに、
妙にニヤニヤしたジュドーはブツの露出を気にもせず、
「ハマーンが俺の服を取ってるんだろ!?」と迫るのだった。
「よ、よせ!」
ジュドーの上着で裸身を隠していたハマーンは、ますます全身を赤く染めて、
ジュドーのいたずらの反撃に無意味な抵抗の声を上げたのだった。
隕石に見せかけるために、機体を低速で月に接近させるのをいいことに、
ジュドーはそんな何度肌を重ねても初心(うぶ)なハマーンに、
男の本能を刺激されて、2ラウンド目を仕掛けたのだった。
「ダミーと見破られて……、んあっ、捕獲された時に全裸というのは、んっ、御免だぞ……!」
「そんなヘマしませんって……っん」
意思とは関係なく隆起した乳首を口に含まれて、ハマーンの抵抗は空を切った。
「あぁ……。ジュ、ジュドー……!」
19歳のジュドーの体は、ハマーンの熟れた体の魔力に吸い込まれた。
209 名前:新ストーリー書き:02/09/05 01:56 ID:???
さすがに月面がモニターに迫った時にはふたりは平常心を取り戻した。
ジュドーは、月面にいくつも作られている開発後の港口へ、
機体を誰に気付かれることなく移動させ、
空気のあるエリアまで、侵入するのに余裕で成功させる。
万が一、ダミーの見分けがつかなくなったり、放出された時のために、
発信機の取り付けも忘れはしない。
「随分手馴れているもんだな」
「へへーん。何度も経験してますからねって」
実際、この手の行為は経験量が成功への近道らしい。
ハマーンの嫌味を嫌味と感じず、ジュドーは満面の笑みを見せるのだった。
210 名前:新ストーリー書き:02/09/05 01:57 ID:???
「多分、この辺だと思うんだけど……」
カミーユとファの自宅の住所を綴ったメモを片手に、
賑やかなグラナダ市街地の奥にある居住ブロックを、ジュドーとハマーンは歩いていた。
ハマーンも積極的にマップと番地名を照合させる作業を手伝っている。
「ニュータイプって言ったって、家探しひとつ出来ないようじゃな」
「お前はまだ何かニュータイプというものに誤解があるようだな」
最強のニュータイプと自分に思わせておいて、
未だに人間ナビゲーションのつもりでいるジュドーが、
先程までの行為と相乗して、ハマーンの女心をくすぐる。
いくつになっても手を焼く年下の恋人というものは、女には可愛くて仕方のないものなのだ。
ハマーンもそれに例外ではなく、キョロキョロと落ち着かないジュドーを見てひとり微笑むのだった。
「……ったく。プルは人探しは得意なのにな……。俺、ニュータイプ能力が落ちてるのかな?」
「まったく、お前は大した天然だよ」
「何だよ?何のことだよ?」
スタスタと歩き出すハマーンにジュドーが真顔で問いかけるが、
ハマーンは不敵に微笑みを返すだけで、取り付く島を持たない。
「俺、何かハマーンを怒らせるようなこと言ったのか!?」
どうしてこうも直情というか、素直というか。
ジュドーという青年には嘘もごまかしも通じないような気がする。
211 名前:新ストーリー書き:02/09/05 01:58 ID:???
ほとんど傍から見ればジャレているようなふたりがその家の前を通り過ぎた時、
閑静な居住区に突然に、ドアが勢いよく開けられる音がした。
「やっぱり!ほら、ジュドーだよ!」
「ホントだ!見てごらんよ、ジュドーがいるよ!」
唐突に何度も名前を連呼されて、ジュドーはその声の方向を驚いて振り向いた。
「――っんな!?」
通りに面した芝生が豊かな一戸建ての玄関付近で、自分を見て大喜びする少年、少女に、
ジュドーも笑い声を上げながら、ふたりに駆け寄った。
「あははっ!シンタ、クム、大きくなったな!」
まさかここで会えるとは思ってもいなかった小さな戦友に、ジュドーは心底うれしそうに笑った。
グラナダの戦争孤児施設にいるとは聞いてはいたものの、
再会したのは、ジュピトリスⅡの出発日以来だ。
ちょうど成長期だからだろうか、
ぐっと背が高くなったシンタは、それでも昔の面影を残した出っ歯で笑い、
クムはクリクリとした目を輝かせている。
「ジュドーこそ、いい男になったよ!」
生意気を言うところは少しも変わってはいない。
ハマーンもふたりが話では聞いていた、アーガマの小さなクルーと察し、
3人の再会を遠巻きに微笑を浮かべて見ていると、
シンタとクムが出てきたドアから出てくる、ひとりの女性の姿に気が付いた。
「――あなたたち!どうしてここに……!?」
「ファさん……」
「ファ・ユイリィ」
ハマーンとジュドーはその女性――、ファ・ユイリィの質問に答えるべく、歩み寄った。
212 名前:新ストーリー書き:02/09/05 01:58 ID:???
「カミーユだったら、留守なのよ……」
「そうらしいね」
リビングに案内されながら答えるジュドーに、
ファは何故?という顔を一瞬し、その理由に自分で気付いた。
「カミーユったら、取るものも取らずに出て行ったから、
連絡を取りようにも何も端末を持っていないのよ」
「そうなんだ……」
納得をするジュドーの横で、シンタとクムが笑っているのを気にしながら、
ハマーンが少し言い難そうにファに核心を聞いた。
「カミーユはどこへそんなに急いで出かけたのか……?」
「それは……」
ジュドーとハマーンがわざわざグラナダまで訪ねてくる時点で、
ファはふたりの目的を察していた。
ふたりもカミーユが感じた何かと同じものを感じて、ここに来たのだろうと。
しかし、ファはふたりに提供できるほどの情報を持ち合わせてはいなかった。
ファ自身がカミーユが何を感知したのか聞きたいほどなのだ。
ふたりに回答を求められながら、明確な返事が出来ないもどかしさを痛感していたその時――。
今さっき入ってきた玄関で、人の気配がした。
218 名前:新ストーリー書き:02/09/06 00:33 ID:???
「――カミーユ!?」
人の気配で飛び出した玄関でファが見た人物は、ずっと待ち焦がれていたカミーユ自身だった。
「――どこ行ってたのよ!?心配したのよ!」
心なしか放心しているように見えるカミーユの体に、もしや怪我でもあるのではないかと、
全身を確認しようとするファを、カミーユは無言で引き寄せた。
「カ、カミーユ!?」
振りほどくつもりはないが、その腕の力が必要以上に強いことにファが抵抗すると、
「少し……、少しこうしていさせて……」
とカミーユのか細い声がファの耳元に返ってきた。
何だかハッキリとは分らないが、カミーユの心に悲しみが満ちていることだけは
その腕の力からファに伝わってくる。
こんな時、言葉で語らなくとも、感じあえる人をファはうらやましく思う。
誰よりも力になりたい人を救えな時ほど、自分を無力に感じる時はない。
ただその背中を抱きしめるしか出来ない自分を――。
219 名前:新ストーリー書き:02/09/06 00:34 ID:???
「……ん、あ、をっほん!」
「ジュドー、邪魔するなよ……!」
わざとらしい咳払いと、潜めて言うシンタとクムが声に驚いてカミーユはファから離れた。
まさか、ファとふたりの住まいに他の者がいるとは思っていなかったからの抱擁であり、
ましてやその相手がジュドーとは思いもしなかった。
「ジュ、ジュドー……!?」
そして、更にシンタとクムと一緒にジュドーの上着の裾を引いて
制止させようとしているハマーンに、また驚いた。
「ハ、ハマーンも……。どうしてここに……!?」
「邪魔するなって言っただろぉ!?」
シンタのませた気遣いなど相手にせず、
「ど、ども……!」
と片手を挙げて一応挨拶をしているつもりらしい、ジュドーを見て、
カミーユは、ふたりの返事より先に理由を察した。
「……ジュドーたちも分っていたのか」
主旨の隠れた会話に関わらず、ジュドーとハマーンは一変して深刻な表情でカミーユに頷いた。
「カミーユさん、どこに行っていたのか、俺達に話してくれないか」
ジュドーの言葉にカミーユはその瞳をしっかりと据え、無言で頷いた。
220 名前:新ストーリー書き:02/09/06 00:35 ID:???
リビングのソファに向かい合ったジュドーとハマーン、カミーユとファ、
そしてシンタとクムは、今更回りくどい説明は省き、いきなり本題に入った。
シンタとクムを同席させることにファは抵抗を感じはしたが、
「ふたりももう子供じゃない」というカミーユの意見で、
妙に真面目な顔をしたふたりがその場に居合わせることとなった。
実際、子供が成長するには悪環境と言える戦場を経験しているふたりは、
周りの大人たちを驚愕させるほど、しっかりとしたものの考え方をする少年、少女に育っていた。
グラナダの戦争孤児施設にいても、度々訪れるファに対して
「ここは訪ねてくる人が、ひとりもいないような子供が集まってるトコなんだ。
今度からは僕達がファ姉ちゃんの家に遊びに行くから、あまり、ここには来ない方がいいよ」
と他の子供を気遣って先制するほどだった。
この日、ふたりがカミーユ邸に訪れたのも、
電話で話したファの声が浮かなかったのを心配して、様子を見に来たという、
実に子供らしからぬ心使いからの行動だった。
どういう経緯でなのか、クワトロ・バジーナが地球から連れて帰ったこのふたりは、
戦艦で多感な成長期を過ごしながらも、ファを筆頭に、ハサン船医、アンナらの
苦労の賜物なのか、立派に成長を成したということらしい。
カミーユも、ふたりには正しい考え方の出来る大人になって欲しいと思っている。
だから、あえてこの場に同席させたい。
「僕は……」
カミーユの発する言葉に、誰もが集中した。
「僕は、クワトロ……、シャア・アズナブルに会ってきた」
しっかりとした口調で回想するカミーユに、全員が全身の血が沸くような感覚を覚えた。
今まで何の証拠もなく、推測と感覚だけで不穏な動きの元凶を考察していたが、
今、カミーユの口から真相が語られる――。
汗ばんだ手を握り締めるハマーンの拳をジュドーはそっと握った。
221 名前:新ストーリー書き:02/09/06 00:36 ID:???
いちお、時間軸の説明を書いておきます。
★印はこのストーリー上のフィクションです。(みんなフィクションなんだけどさっ)
0092.12.13 ネオ・ジオン、連邦に攻撃を示唆
22 シャア、スウィート・ウォーター占拠
25 ロンド・ベル、結成
0093.02.24 ★ジュドー、ナゾの艦隊ハケーン
25 ★ジュドー・ハマーン、シャングリラ出発
26 ★カミーユ、シャアと対談
27 ★ジュドー・ハマーン、カミーユ宅到着
同日 シャア、インタビューで事実上の宣戦布告
03.03 シャアの艦隊、スウィート・ウォーター発進
04 5thルナ、ラサに激突
06 ロンデニオン和平交渉
12 投降偽装アクシズ地球降下 シパーイ
255 名前:新ストーリー書き:02/09/10 09:40 ID:???
そこはまるで中世のような調度品に囲まれた部屋だった。とても戦艦の一室とは思えない。
もちろん、カミーユが乗船していたアーガマには、こんな部屋は無かった。
(一体、大尉はどんな趣味してるんだ……)
変に辺りを観察するのも良くない気がする。
(今だって、どこかで監視されてるかもしれない……)
まさか、シャアの艦隊がこれほどの規模だとは、カミーユも思ってはいなかった。
グラナダで技術開発の仕事をしていると、それなりに性能のいいものを作り続けていれば、
自然とその道の人間にも知り合いができ、そんな連中との何気ない会話の中から、
カミーユはその情報を偶然に知ってしまった。
あの、シャア・アズナブルが軍の用意をしていると――。
それでカミーユは一心不乱に、今、シャアが軍を興すとすればどの空域が一番最適なのか、
どれぐらいの規模で展開が可能なのか、ありとあらゆるデータを引き出して、推測し、
結果、取るものも取らずにスィート・ウォーターの空域に
開発仲間から借りた自家用シャトルで飛び出したのだった。
その間、共に生活をしながらファの姿はカミーユの目には入ってこなかった。
ファの方も、カミーユが仕事に夢中になると、
食事すらもおろそかになる性分だと分かっているので、
体の心配はするものの、カミーユが目を血眼にする原因を訊ねる事はなかった。
しかし、ある日突然に姿を消してからは、その行方も分からず気が狂うほど心配した。
シンタとクムの訪問は、ファの精神を落ち着かせるには絶妙なタイミングであった。
カミーユはというと、運良く、シャア直属のナナイに接触することが出来たので、
主力艦隊の、しかも、シャアの私室と思われる部屋に案内されることが出来たが、
場合によっては撃ち落されていてもなんら不思議では無い状況だった。
(ファ、心配してるだろうな……。我ながら、無鉄砲なことをした……)
カミーユはその部屋で今更ながら、この数日間を振り返って苦笑した。
(こういう無茶な行動は誰かさんの領分のはずなのに……)
カミーユの脳裏に浮かんだシルエットは、当然、ジュドー・アーシタのニンマリ笑顔だった。
256 名前:新ストーリー書き:02/09/10 09:40 ID:???
部屋に通されて随分経つ――。
カミーユの辛抱が限界に達したとほぼ同時に、そのドアは開いた。
「待たせたな」
聞き覚えのある声がカミーユの耳に響く。
この場で、この状況で、やはりどうしてもこの声を聞かなければならないのか。
重い頭部をカミーユはゆっくりと声の主に向けた。
しかし、その姿は、カミーユが記憶しているものとは違っていた。
カミーユの知る、クワトロ・バジーナと名乗っていた頃の面影は、
光り輝く金髪に残すのみで、正装ではないにしろ、ジオンの制服に身を包む厳しい眼差しの男は、
まさしく、ネオ・ジオンの総帥、シャア・アズナブルだった。
「大尉……、いや、シャア・アズナブル……」
カミーユは自分自身の耳にまで響く心音を聞きながら、ゆっくりと立ち上がり、
6年振りの再会となるシャアを、まっすぐに見た。
脈が荒立つのは、総帥という肩書きに怯えてではない。
クワトロ・バジーナが、シャア・アズナブルに戻り、
成そうとしている行為に対する怒が、全身を駆け巡っているからだ。
その感情は、恐ろしいほど素直に全身から溢れ態度に表れる。
「……っふ。若いな。カミーユ」
「何がおかしいんです……!」
間髪入れずシャアの発言に噛み付くところが、ますます若さを証明する。
カミーユも、シャアがそれを笑っているのだと察知出来るだけに、
収まる怒りも収める場所を持てない。
すぐにでも拳を振り上げ修正してしまいそうになる自分を、
カミーユは、ただそれを握り締めることで、なんとか制止ようと努力した。
そんな思惑すらもシャアに支配されているようで、癪に障ったが、
今ここで事を起こしても何も始まりはしない。
ここがかつての戦友、クワトロ・バジーナ大尉の艦隊の中であろうと、
今は敵艦であるとカミーユの本能が認識させている。
257 名前:新ストーリー書き:02/09/10 09:41 ID:???
「よく、快復したな」
スプリングの利いたソファーに腰掛け、開口一番にシャアがカミーユの病について口にした。
「いろいろとありましたがね」
無愛想に答えながら、何故シャアが自分の病について知っているのか疑問に思い、
すぐにその答えを想像して、また腹を立てた。
(何もかもひとりで分ったような顔をするんだ……。この人は……)
かつては、サングラスにその瞳を隠していたからますますそう感じたのかもしれない。
今は、その正体を隠す必要もなく、青い瞳を晒すシャアに対しても、カミーユは同じ印象を持った。
「どういうことなんです?これは」
ここまで出向いて、世間話をして帰るつもりは無い。カミーユは異常に乾く喉から声を発した。
「どういうこと……か」
ソファーに深く座るシャアの態度に、カミーユは逆に身を乗り出した。
(この人は……!)
大人の対応と言えばいいのだろうか、カミーユ自身も成長したつもりでいるのに、
いつまでもこの男は、自分を子ども扱いする。
(いつだってこうだ……。いつだって……)
カミーユが無意識に奥歯を軋ませた時、ノックの音と同時にまたドアが開いた。
制服姿のナナイ・ミゲルが無言で凝視するカミーユに会釈を返す。
「ナナイ、そこで待機していてくれ。私はカミーユ君と話がある」
「分かりました。大佐」
(こんな時に女を同席させる……!)
「カミーユ君」と自分の事を呼ぶシャアの態度に、怒りが沸いた。
明らかに未だに自分のことを少年兵扱いしているように思える。
そしてナナイの存在だ。
この部屋に案内した時のナナイの雰囲気から、このふたりがただの仕事の関係とは思えなかった。
そして、同時に、それがただの表面的な関係に過ぎないことも。
それを分かる自分はもう子供ではないと自負しているのに、シャアの態度だ。
カミーユの怒りはループとなって膨れ上がる。
264 名前:新ストーリー書き:02/09/11 09:39 ID:???
「さて……。どう説明したら君は納得するかな?」
落ち着き払ったシャアの言葉に、カミーユは奥歯を噛んだ。
「今更、シャア・アズナブルという男の生い立ち話を聞くか?」
「――分かってます」
馬鹿にしたようなシャアの声を封じたくて、カミーユは声を上げた。
「あなたは、シャア・アズナブルに戻るっていうんですね」
「そんな簡単なものではないが……」
「簡単じゃないって事ぐらい、僕にだって分かりますよ!」
――ドンッ!――
ナナイが居るにも構わず、カミーユは、目の前のローテーブルを握りこぶしで打った。
「僕だって元エゥーゴです。あなたが連邦のやり方に納得出来ない気持ちも、
スペースノイドがいかに虐げられていたのか訴えたいって気持ちも分かります!」
スィート・ウォーターで旗揚げする時点で、シャアの主張したいことはカミーユには分かっていた。
宇宙生まれの宇宙育ちには、地球に居るだけのお偉いさんの存在が
いかにうっとおしいかは、体で分かっている。
「だけど――!」
表情ひとつ変えないシャアの態度に、何を言っても無駄なような気がカミーユに襲ってくる。
(この人は戦いをしたがっている……!?)
アナハイムの知人、オクトバーから流れてきた情報では、
シャアが開発させたモビルスーツには、紅赤の機体が含まれていたと聞いている。
そして、カミーユ自身も知っている。この男が総帥という卓上の戦士では済まされないということを。
「ブライト艦長が今、どこの所属か知ってますか?」
「うむ。連邦もここにきて本腰を入れる気になったらしいな」
「だったら、アムロさんの事も」
アムロの名前が出た瞬間、初めてシャアの視線がずれた。
「あなたを止める資格があるのは、アムロさんだけだと言うわけですか?」
「わたくしの感情で軍を興すほど私が愚かに見えるか?」
「僕から見れば、あなたはどう見ても愚かですよ。いつまで経っても過去に縛られる。
僕はあなたのようには絶対になりませんよ!」
265 名前:新ストーリー書き:02/09/11 09:40 ID:???
カミーユの興奮を驚きもせず落ち着いたシャアは、無言で席を立ち、
重厚な作りの窓枠の外に広がる宇宙を見つめ、カミーユの潔癖なまでの性格を羨ましく思った。
(この焦り……、若さの喪失だけが要因ではなかろうに……!)
シャア自身、自分の中に焦りがあるのを自覚している。
なぜ今なのか。なぜ武力行使なのか。
ここまで準備して、核心部分で赤い彗星としての決着を求めている自分もいる。
そんな自分自身そのものが焦りの塊だと、カミーユを見ていると自覚させられる。
「カミーユが言いたいことは分かった。しかし、私には私の大義がある」
「そんなもの、後になって後悔した時には、何の役にも立たないんですよ!」
「後悔など……」
窓に反射して映るカミーユの悲観した顔に、シャアは引っかかるものを感じた。
先程の“あの感覚”も気になる。
「ジオンの名を挙げたことを後悔する存在がいたということか」
( ! )
窓に映るカミーユの表情が硬直するのを、シャアは見逃さなかった。
視線を合わせていないということで、カミーユに油断があった。
(……そういうことか。ハマーン・カーン、生きていたか)
カミーユとハマーンのどこに接点があったかなど、知りようもないが、
シャアは自分が感じた念派の主が、間違っていなかったことに、
妙な苛立ちと、安堵の入り混じった感覚を覚えた。
決してハマーンの生存など望んではいなかったが、
彼女もまた、孤独で薄幸な女であったと、今ならば思えるようになったからだろうか。
しかし、これからの計画を決してハマーンに知られるわけにはいかない。
今は余計な敵は増やすべきでない。
「カミーユ」
シャアはカミーユへ振り返って言った。
「私は私の信ずる道を進むまでだ」
カミーユとシャアの対談は決裂した――。
266 名前:新ストーリー書き:02/09/11 09:40 ID:???
「よろしいのですか?」
カミーユが去った部屋で、ナナイは窓際のシャアの背に歩み寄った。
「……カミーユはシャトルで来たと言っていたな?」
「はい」
「帰還先を念のため、追跡するよう」
「――了解しました」
仕事の顔に徹し、シャアの命令を伝達すべく、退室しようとするナナイの背中に、
シャアは同じく仕事の――、総帥の顔をして問うた。
「本物のニュータイプ……、カミーユ・ビダンの感想はどうか?」
「はっ」
ナナイは腕に持っていたファイルを持ち直してシャアに答える。
「ニュータイプにしては繊細過ぎる神経の持ち主と感じました。
あれでは、戦いに呑み込まれるのも納得できます」
資料通りの解答に、シャアは目を細め、口元を緩めた。
「あまり頭が硬過ぎると、思わぬものを見落とす事になるかもしれんぞ」
そのシャアの発言を、ナナイはかつての戦友を庇護するだけの、大人気ない意見と受け取った。
故に、その表情は崩れもしない。
267 名前:新ストーリー書き:02/09/11 09:41 ID:???
「大佐……。ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
一度は退室しようとしたドアに背を向けて、ナナイはシャアに歩み寄る。
「カミーユ・ビダンの言っていたアムロ・レイの事……。それは目を瞑ります。
しかし、元ジオンの残党が生き残っている事は大佐にとって……」
ナナイへの返事の代わりに、シャアはナナイの腰を抱く。
「なぜそのような事を聞く」
「女の勘です。いけませんか?」
「いや……」
ナナイの栗色の髪に顔を埋めてシャアは、今、ハマーンの隣には誰がいるのかと考えた。
幼い少女だった時、ネオ・ジオンを興した時、いずれもハマーンはひとりきりだった。
しかし、今は誰かの存在があるように、シャアには感じられた。
もちろん、自分はその立場になるはずはないし、なり得ない。
「一度違う角度に歩みだした者同士は、二度と交わりはしない……。そういうことだ」
「男の理屈ですね」
珍しく引かないナナイの耳を、シャアは軽く噛んだ。
「――っん……」
シャアが引き寄せる力以上に、ナナイは自らシャアの腰元に身を摺り寄せた。
シャアが男の理屈をこねるのならば、こちらには女の武器がある。
(大佐を誰にも譲りはしない――)
が、シャアの反応はナナイの思惑の反対のものだった。
「――カミーユのシャトルの進路、見失うなよ」
スッと体を離したシャアの背中を、ナナイは鋭い視線でにらみ付け、
表面だけは「はっ」と短く敬礼だけをして部屋を出た。
「男と女が理屈で片付くものでないことぐらい、知っていように……!
ララアだけではないかの……!?大佐を戦いに駆り立たせる女は……!」
ナナイは手にしたファイルを無駄に力一杯握り締めた。
シャアに噛まれた耳たぶが熱い。
278 名前:新ストーリー書き:02/09/12 09:49 ID:???
カミーユの話を聞き終えた時、ファが出してくれたコーヒーは冷めていた。
内容が内容だけに、お茶をしながら楽しくわい談という訳にはいかない。
「やはり、そういう事か……」
カミーユからシャアとの会話の内容を聞いたハマーンは、ため息をついた。
ハマーンだけではない。
ジュドーもファもシンタ、クムもそれぞれが、今、地球圏を取り巻く
言い知れぬ重い空気の源に対し、怒りは元より、悲しみの感情も胸を付く。
それに追い討ちをかけるように、カミーユが時間を確認して付けたテレビからは、
シャアの地球連邦軍に対する宣戦布告宣言が放映され始めた。
理屈では分かる。シャアが何を訴えたいのかを。
しかし、そのために地球に隕石を落とすなどという発想は、そこにいる誰もを驚愕させた。
「クワトロ大尉は何考えてるんだよ!」
「そうよ!地球は私たちの故郷じゃなかったの!?」
シンタとクムの叫びは、4人の思いを代弁している。
「まさか、隕石落としをするなんて……!」
つい数時間前に話をした時には、そんな事は一言も言ってはいなかった。
もちろん、カミーユにそんな作戦を説明する義理はシャアにはなく、
恨み言を言っても始まりはしないのだが、あまりにも衝撃的な報道内容に、
カミーユもジュドーも叫びたい気持ちだ。
ハマーンは冷酷なシャアの顔から目をそらし、ファはそんなハマーンの肩をそっと抱いた。
戦争の話に熱を上げている男共には気付かない気配りをファが務めている。
ここにいる誰よりも、ハマーンが一番辛い立場であることを、ファは忘れてはいなかった。
279 名前:新ストーリー書き:02/09/12 09:49 ID:???
「カミーユさん!俺もコイツ……、シャアに会わせてくれ!」
「――っんな!?」
突然のジュドーの言葉にカミーユは驚いた。
「俺がシャアを説得する。こんなやり方間違ってるって誰かが言わなきゃ分かんないんだよ!
このバカは!」
「バ、バカって……!?」
シャア・アズナブルをバカ呼ばわりするジュドーに、他の5人は目を丸くした。
思えば、このメンバーの中でジュドーだけがシャアと面識が無いのだ。
だから、シャアがクワトロ・バジーナとして地球を守ろうとしていた時期をジュドーは知りはしない。
「バカ……。うむ……。シャアはバカか……。うむ……」
ハマーンなど、バカという総称に妙に納得すらし掛けている。
「そうだよ!カミーユ!俺も大尉に会わせてよ!」
「そうよ!私たちなら大尉を説得できるかもしれない!」
ジュドーのバカ発言で更に拍車が掛かったシンタとクムが、
ジュドーの意見を支持し、自らも会いたいと豪語しだした。
280 名前:新ストーリー書き:02/09/12 09:50 ID:???
「ちょ、ちょっと待てよ!」
妙に団結し出しているジュドーとシンタ、クムを
まるで保育園の保育士のようにカミーユが大声で制した。
「あの人は……、シャアはアムロさんが倒す以外、止める方法は無いんだよ!」
「アムロ……?」
「アムロさんは、ブライト艦長指揮下のロンド・ベル隊に所属している。
あの人からの挑戦を受けるべくね……」
テレビ画面では、先程のシャアの宣戦布告について、
分かったような顔をした軍事専門家や、政治評論家が
ジオン・ズム・ダイクンの時代からの映像を持ち出して、
さも、シャアがスペースノイドの理想郷を作ってくれようという発言をしている。
それで地球が――、地球に住む罪の無い人々がどうなるかはお構いなしだ。
専門家を気取るならば、隕石の落下で地球の環境がどれだけ変化するか、
どれだけの規模で崩壊が起きるのか、それを説明するのが先ではないか。
苛立たせるだけの画面から目をそらした5人は、カミーユからシャアが魂の奥底の部分で、
ただのパイロットとして、赤い彗星として、アムロと対決したがっているという説明を受けた。
一度は仲間として戦ったシャアとアムロだが、その本質は1年戦争以来のライバルであり、
互いが決着をつけなければならないと思っているということを――。
それは、戦場を経験している者には、薄っすらとでも分かり得る感情だ。
「あの男らしいな……」
ハマーンの寂しげな声に、ジュドーの胸はチンと少し痛む。
281 名前:新ストーリー書き:02/09/12 09:51 ID:???
しかし、それには気付かず、カミーユはシンタに一括した。
「カツの二の舞は御免だ。絶対に勝手な真似はするなよ」
「……分かったよ」
ファの影に隠れるようにして、シンタとクムは小さく返事をした。
まるで叱られた子供のようなふたりに、ジュドーが大人ぶった顔で説教を追加する。
「ああ、そうだ。罪を憎んで人を憎まずだ」
「なんだよジュドー!ジュドーが大尉の事、バカって言い出したんだろ!?」
「そぅだよぉ!」
「げっ」
シンタの即答に、ジュドーは同じ少年のようにおどけて見せた。
「でも、罪を憎んで人を憎まずは正しいよ」
カミーユの援護に、ジュドーは「うんうん」と大げさに頷いてみせる。
そんなふたりのやり取りを見るファの表情は浮かなかった。
311 名前:新ストーリー書き:02/09/16 23:18 ID:???
「カミーユ、シンタとクム、送っていってくれない?」
テレビではまだシャアの発言を検証する番組が続いているが、
やや不機嫌なチクチクとしたファの声が、カミーユの耳に届いた。
「ジュドーも一緒に行ってくれるわよね?」
ファの不機嫌は尚も続く。
「ん?あ、いいけど……」
カミーユの方を窺うと、カミーユもファの機嫌の悪さには気付いているようだ。
「ああ!もうこんな時間!シンタ、早く帰らないとまた寮母さんに怒られるよ!」
クムがリビングの壁掛け時計を見て叫び声を上げた。
外出のたびに、門限ギリギリで寮に帰るふたりは、寮母にマークされているのだ。
「カミーユ、ジュドー!早く早く!」
クムが早くもふたりの腕を引っ張って玄関に向かう後で、ひとりシンタが振り向いてファに言った。
「ファ姉ちゃん、カミーユはちゃんと戻って来たんだから、もう泣くなよ!」
「――余計なこと言わないの!」
ファの叫びがカミーユ宅に響いた。
312 名前:新ストーリー書き:02/09/16 23:18 ID:???
「ファが泣いてたって?」
エレカを運転しながら、カミーユは後部座席のシンタにミラー越しに聞いた。
「当たり前だろ!カミーユが突然にいなくなったんだ。
ファ姉ちゃん心配のし過ぎで、可哀想なぐらいだったんだから」
「そうか……」
「もう!これだから男って駄目なのよね!」
クムが分かったような声を上げるのに、同乗の男共は違うと断言出来ない自分自身に苦笑した。
「カミーユが悪いんだよ!いつまで経ってもファ姉ちゃんに心配かけて!」
クムのお説教はまだ続く。
それに対抗するのは、同じ後部座席のシンタだ。
「けど!男には男の事情ってものがあるんだよ!な!?カミーユ!」
「ん……。あ、ああ」
曖昧なカミーユの返事には構わず、後部座席では「男なんて・男だから」バトル繰り広げられている。
先程までは、カミーユの行動を責めていたシンタが、男女という区分になって、
同じ男として加勢したくなったらしい。この時分の少年にはよくある事だ。
「カミーユさん、本当にファさんに何も言わないでシャアに会いに行ったの?」
「 …… 」
助手席のジュドーの責めるような目が、カミーユをますます追い詰める。
確かに、ファに何も言わなかったのは良くなかった。
しかし、仕事にしろ、何にしろ、夢中になったら他のものは目に入らなくなる性分なのだ。
ましてや、今回は戦争が起きるか起きないかという大問題だ。
ファに話している時間があったら、少しでも早くシャアに会って、
止めれるものなら止めたいところだ。
(ファの奴……。事情も分かって、無事に帰ってきた今頃になって、
何も不機嫌な態度を取ることは無いじゃないか……!)
カミーユの不服そうな顔にジュドーは横で呆れた顔をした。
313 名前:新ストーリー書き:02/09/16 23:19 ID:???
ジュドーたちが出て行ったカミーユ宅では、ファが浮かない表情のまま、
リビングに出したままのカップをキッチンに運び、洗い始めている。
その浮かない表情を気にしながらも、ハマーンは出掛けのジュドーに言われた、
シャングリラの仲間たちへの通信のため、小型の通信端末に向かっている。
ビーチャたちの賑やかな声が後ろから聞こえては来るが、笑顔を装う自信のないファは、
気付かぬ振りで食器洗いに夢中の振りを続けている。
――ジュドーの代わりにシャングリラへの報告を務めるハマーン――
ただそれだけの事にも、つまらぬ嫉妬心を抱いてしまう。
ファ自身、自分でも大人気ないとは思うが、今のファは、
カミーユが無事な顔を見せたことにより緊張の糸が切れ、
自分の感情の抑え方を忘れてしまっているのだ。
シャングリラへの報告を終え、ファの動きを目で追っていたハマーンは、
思いついたようにファの立つ流しの隣に立った。
314 名前:新ストーリー書き:02/09/16 23:20 ID:???
「手を焼く男も困りものだが、自立し過ぎるのも寂しいものだな」
ファは、ハマーンの言いたい事の意図をつかめずに、その横顔を見た。
視線に気付いているものの、
ファと目を合わせることなく洗い終えたカップを手近な布巾で拭くハマーンは、更に言葉を続ける。
「余計な心配を掛けたくはない。言葉にせずとも分かってくれる。
カミーユはそう思っていたのではないか……?」
ファの洗い物の手は完全に止まっていた。
拭き上げが担当のハマーンも仕事が無くなり、布巾を手持ち無沙汰に角を合わせて折り合わせている。
ハマーンも、こんな会話は自分の領分ではないと自覚しているのだ。
「でも……、そんな事、口に出して言ってくれなきゃ分からないわ。
私はあなたたちみたいにニュータイプなんかじゃない……!」
勢い余って握り締めたスポンジから泡がジワジワと溢れ出ている。
「確かに、ニュータイプとは便利な生き物と言えような……」
言いながらハマーンはスポンジを握ったままのファに、
流しに置き去りにされたカップを指差し、作業を進めるよう促す。
「しかし、互いに理解し合おうとうい意志が無ければ、人は進化できないのではないか……?」
「私だって、カミーユの事、ちゃんと理解しようとしているわ!」
思わずハマーンを凝視するファを、ハマーンは冷静に、「作業作業」とまたカップを指す。
素直にそれに従うファを、ハマーンは内心可愛いと思った。
一途にカミーユを想っていたという少女は、ただ毎日を共に過ごすのが当たり前になった今、
宇宙に漂い始めた戦いの匂いも手伝って、不安になっているだけなのだ。
共にいる時間を悪戯に重ねれば、理解し合える仲になるとは言い難い。
幼馴染から発展した関係というのは、ともすると恋人を通り越して家族になってしまう。
「お前が、何故こんな風に苛立ったり、不安になっている事はカミーユには伝わっているさ」
「本当に?」
「ああ……。言ったろ?私はニュータイプだ」
ハマーンはジュドーのニュータイプ理論を拝借してみた。
時にはこんな説得の仕方もあるのかもしれない。
ファは、ハマーンが多少無理をしているのを感じながら、笑顔を見せてみた。
その顔を見たハマーンは、心底ホッとした表情を初めてファに見せたのだった。
341 名前:新ストーリー書き:02/09/20 10:20 ID:???
シンタとクムの元気な「バイバーイ!」の声が発進したエレカの後ろからまだ聞こえてくる。
あの笑顔ならば、じきにふたりはショックから立ち直るだろう。
思えば、どういう経緯であのふたりはクワトロと共に宇宙にあがったのだろうか?
カミーユは今頃になって、首を傾げたが、それを答えることの出来る唯一の人間は、
今は、「総帥」になっている……。
(実際、シンタとクムが大尉に会うのがいいのかもな……)
あまりにも現実的でない思いが頭を掠めたが、それをすぐに打ち消した。
(やっぱり、アムロさんしか……!)
運転するカミーユの横、わざわざ後ろ向きに座り、
ふたりが見えなくなるまで手を振っていたジュドーが、
スピードに乗って吹き付ける風を受けながら向きを直して、ポツリと言った。
「俺は、今回の事しか知らないけどさ。
ファさんが大事だったら、もっと色んな事、話すべきじゃないかな。俺はそう思うけど」
カミーユの表情はまだ不機嫌だ。
「話さなくても分かるだろうっていう信頼は、
それだけ相手の事を理解してるって、自信がある人しか使えないんじゃない?」
カミーユはますますふてくされ、ジュドーの方を見ようともしない。
ただまっすぐに、夕日のグラデーションを天井に描くグラナダの道路を見据えて運転している。
しかし、これぐらいの態度で根を挙げるジュドーではない。
組んだ腕を後頭部に回して風を受けながら、カミーユが聞こうと聞くまいと構わず、思いを続けた。
何か、シンタとクムを送るのに、カミーユだけでなく、自分を便乗させたのは、
ジュドーに自分の思いを代弁してもらいたいという、ファの意志があったのではないかと、
ジュドーはひとり勝手に使命感に燃えているのだ。
342 名前:新ストーリー書き:02/09/20 10:21 ID:???
「俺は、カミーユさんとファさんの関係をうらやましいって思うよ」
やはり、カミーユは目線をずらしはしない。
「俺とハマーンってさ、目隠しでロープを渡っているような……、そんな関係なんだよ」
カミーユの眉がピクリと動いた。
「俺はもちろん、ハマーンの事を、ひとりの女として好きだと思ったし、
一緒にいたいと思って、5年間、そうしてきたつもりだ」
赤信号でふたりのエレカが停止する。
しかし、カミーユはハンドルを握り締めた手を黙って見つめている。
「けど、時々思うんだ。ハマーンは本当に、今の生活を望んでいるのかって」
エレカが止まる交差点を、アナハイムエレクトロニクス社のロゴの入ったトレーラーが横切る。
グラナダではよく見られる光景だ。
その荷台の上の見覚えのある装甲を目で追いながら、ジュドーは続ける。
カミーユの目も、無意識に荷台に横たわるものに視線を走らせていた。
「俺はただのジャンク屋だ。人が戦争して、たくさんのモビルスーツや戦艦が沈んで、
それをハイエナみたいにたかって生活してる。
ハマーンはこんな俺と一緒にいていい人なのかって」
信号が変わり、無言のカミーユはエレカを再び発進させた。
「ハマーンは、前の戦いを後悔しているよ。これは本当だ。俺が保証する。
でも、ハマーンはもっとデッカイ事がしたいんじゃないかって思えるんだ。
今回のシャアの動きを追ってるハマーンは、そりゃ、凛々しかった。
ハマーンがシャアの事に夢中になるのは、自分と同じ過ちをしようとしている
シャアを止めたいっていう思いだっていうのは分かってる。
だけど、俺、自分でもつまらない男だって思うけどさ、
そこまでハマーンを夢中にさせられるシャアに嫉妬しちゃうんだよな」
カミーユは黙ったままエレカを右折させた。
グラナダの繁華街からは外れ、行きには通らなかったルートだ。
ジュドーは不思議に思ったが、さほど気には留めずに話を進める。
343 名前:新ストーリー書き:02/09/20 10:21 ID:???
「あ……、話、ずれちゃったな……。
その……、俺はさっ、なるべく何だってハマーンに話そうって思ってるよ。
そりゃぁ、シャアにつまんない嫉妬してるなんて事は、恥ずかしいから言えないけどさ。
俺が黙ってたら、ハマーンは俺が何考えてるのかってすっごく不安になると思うのね。
あの人、人一倍寂しがり屋だからさっ。ファさんだって、一緒じゃないの?」
「――ん」
初めてカミーユが反応を示した。
エレカの走る道路は徐々に華やかなグラナダの町並みから遠ざかっている。
ジュドーが周りを窺い始めた時、カミーユは黙ってエレカを停止させた。
目の前には透明のクリアシード越しに、星々が輝く宇宙が広がっている。
いつの間にか、月都市グラナダの最端部まで走って来ていたのだ。
もちろんこのようなところ、他に人の気配は無い。
やはり黙ったままエレカから降りたカミーユを、ジュドーは慌てて追った。
カミーユは侵入禁止を示すバーに腹部を押し付けてもたれ掛かり、
上半身を目一杯、宇宙空間に近づけようと伸ばした。
その光景は背後のジュドーからは、まるで本当に宇宙空間にいるように見える。
ジュドーは勧められてもいないのに、
カミーユの動作を真似して宇宙の感覚を味わうように深呼吸してみた。
「っん――!!」
カミーユと星の瞬きを見るなど、久しぶりだ。
371 名前:新ストーリー書き:02/09/30 02:12 ID:4ZsFgLPw
「僕も……、ジュドーのように素直になれたらな……」
丸く作られたクリアシードの中なので、カミーユのその声は異常に響く。
「ダメなんだよ……」
自信無さ気なカミーユの声に、ジュドーはカミーユの顔を覗いた。
「ファは僕の側にいて当たり前なんだ。気が付いたら子供の頃から、いつも側にいた。
シンタの言う通り、僕はファに甘えてしまう……」
今度はジュドーが黙ってカミーユの話を聞く番だ。
「ほら、ファってお節介なところがあるだろ?
アレに慣れすぎちゃうと、言葉が足りなくなっちゃうみたいだな……」
「ふぅん」という表情で自分の横顔をジッと見ているジュドーに気付いて、
カミーユは薄明かりの中で僅かに頬を染めた。
4つも年下の、危なっかしいとばかり思っていた少年に、
自分の腹の中を晒しているという現実に、恥ずかしさを感じたためだ。
エレカの上で言いたい事は言い尽くしたジュドーは、
カミーユの告白を聞いても、相槌以上の発言はしようとしない。
ただ黙って、カミーユの言葉のひとつひとつに頷いてくれる。
(なんか、ジュドーの奴、成長しなよな……。大人の女と一緒だからか……?)
カミーユは少年が、落ち着いた青年に成長するのに、少なからず苦労があったのだと思った。
ジュドー自身が言うように、ハマーン・カーンなどという、
かつては宇宙一危険な女と呼ばれた者と愛し合うのは、並々ならぬ苦労もあったのだろう。
372 名前:新ストーリー書き:02/09/30 02:13 ID:???
(目隠しでロープを渡る……、か……)
エレカの中でジュドーが自分自身とハマーンの関係を言った言葉だ。
多少、詩情過ぎているとは思うが、それが本当の所なのだろう。
(代わりに僕には家庭があったという訳か……)
カミーユはファと暮らし、気付かずに、一番求めていた「安らげる家庭」を手にしていたのだった。
両親とは築けなかった、幸せな家庭を。
(でも、今のままじゃ、僕も親父と同じ……)
仕事に夢中で家庭を顧みなかった両親。
このまま気付かなければ、同じ過ちを繰り返すところだった。
「……分かった。反省するよ」
カミーユにとって、それは本心であり、親身になってくれるジュドーにだから言える言葉だ。
いつの間にか、自分を追い越して立派な男になっていた後輩だからこそ――。
「エヘヘ。ファさん、喜ぶよ」
カミーユの思いとは裏腹に、ジュドーの笑顔は少年のままだった。
この笑顔にハマーンも救われたのだろう。カミーユにはそう思えた。
「さてと……!グラナダ名物、月面ピザでも買って帰るか!?」
照れ隠しでカミーユは、話題を変えた。
「月面ピザ!?」
別に騒ぐほどの物でもないのに、声を上げるジュドーをカミーユは怪訝そうに見たが、
「ちょっとね……」
僅かにその顔が沈んだように見えたので、カミーユはそれ以上その話題に触れようとはしなかった。
ジュドーは戦争に巻き込まれる一般人の理不尽さを知っている――。
373 名前:新ストーリー書き:02/09/30 02:14 ID:???
再びグラナダの市街地を走るエレカの後部座席には、テイクアウトにした月面ピザが乗っている。
立ち寄った、かつてセシリアが働いていたピザハウスは改装され、
彼女がいた頃の面影が残っていないことを、ジュドーは寂しいと思った。
戦争で民間人が犠牲になるのはナンセンスだ。
たとえ、結果的にガ・ゾウムを落とし、ゴットンの乗った輸送船を巻き沿いにしたとしても、
それはジュドーにとっても、エゥーゴにとっても、決して喜べるものではない。
ジュドーはセシリアの最期を記録したZZのモニター映像は、決して誰にも見せはしなかった。
もちろん、トーレスにも。
それは今でも正しい選択だったと思える。
(けど、俺はセシリアさんの事、覚えているからな……)
ジュドーは、ピザの箱を横目で見て、思った。
(戦争を起こそうなんて考える奴は、やっぱり間違ってる!)
ジュドーは改めてシャアに怒りを覚えた。
「カミーユさんっ、やっぱり俺、シャアの所に行けないかな!?」
「ジュドー!?」
思い出したように言い出すジュドーに、カミーユはハンドルを握ったまま目を見開いた。
シャアを止められるのはアムロだけだと、散々説明したはずだ。
「俺、どうしてもシャアを止めたいんだ!」
セシリアはもちろん、戦争孤児のシンタやクム、
他にも、地球で出会ったアヌ、心の行き場をなくしたマサイ、キケロのルチーナ……。
戦争に加担する気は無くとも、巻き込まれる民間人の数は決して少なくはない。
「取り返しが付かなくなる前に、俺がシャアを止める!足だったら心配要らない。
ビーチャが用意してくれたベースジャバがあれば、多少の距離なら……!」
「ちょ、ちょっと待って!」
熱弁を振るうジュドーの言葉のひとつに引っかかって、カミーユは慌ててジュドーを制した。
374 名前:新ストーリー書き:02/09/30 02:15 ID:???
「ベースジャバって何の事だよ!?」
「ベースジャバって言ったらベースジャバだよ!」
「それって……、まさか連邦の最新型じゃないだろうな……!?」
恐る恐る頭の中の情報を整理して言ってみる。
「当 た り!」
ヘナヘナと全身の力が抜けるのをカミーユは感じた。
一方でジュドーは意気揚々と、シャングリラの仲間は友情に厚いとか、
ベースジャバの精度が以前に比べてどれだけアップしていたとか、我が物顔で語っている。
「……駄目なんだよ、ジュドー……」
カミーユは悪ガキに無駄な説教をするかのように、落胆しながら言った。
「ジュドーが使ったっていうベースジャバ……、それ、たぶん、
僕の知り合いの技術者が、連邦の依頼で開発してテスト飛行していた代物なんだよ……」
「へぇ~!世間は狭いね!」
あっけらかんとしたジュドーの反応にカミーユは頭痛が襲ってくる気がした。
主力のモビルスーツではないにしろ、開発中の戦闘兵器を紛失するなど、
アナハイムエレクトロニクス社始まって以来の大失態をやらかしてしまったと、
カミーユはつい先日、当の本人から聞いたところの話なのだ。
始末書どころでは済まされない、減俸、減給、首すら飛ぶところだったと。
まさかそれにジュドーをはじめ、シャングリラのジャンク屋連中が関わっていたとは……。
しかし、今更「ごめんなさい」と品を持参して済む話ではない。
ヘタをすれば軍議ものだ。今更、軍を離れた身で修正されるなど真っ平だ。
375 名前:新ストーリー書き:02/09/30 02:16 ID:???
「いいかジュドー、その話、絶対に誰にも話すなよ」
「何のことだよ?」
「だから、その機体の事だよ……!」
グラナダの市街地だ。どこにアナハイムの関係者がいるとも限らない。
カミーユは自然に声を潜めてしまう。
「とにかく……!ベースジャバの事は絶対に秘密だ!それがお前のためなんだ!」
更に「いいな!」と念を押すカミーユの態度を、
ジュドーは呑気に不思議そうな表情を浮かべて眺めている。
カミーユは顔を引きつらせたまま、それでも何とか動揺を収めようと、
大きく息を吐いてからハンドルを握りなおした。
――と、その瞬間、カミーユの乗る運転席側の横っ腹に一台のエレカが滑り込んできた!
「っな!?」
「カミーユさん!」
その存在に気付くや否や、カミーユはアクセルを踏み込み、
ハンドルを大きく右に切ってそれを避けようとするエレカを操作した。
キ、キ―――――!!!
ジュドーは、それによって、遠心力で車体の右側が浮かぶのを察知して、
全身をカミーユに預けるようにし、車体を水平に保たせる。
一瞬、車体を45度近くまで傾かせたエレカは、ジュドーの重量移動で横転を免れ、
ショーウィンドーの手前で、何とか何も破損させずに停止した。
無言のままの連係プレーは、ほんの一瞬の出来事だったが、
グラナダの市街地で、接触事故が起きずに済んだ事は明らかだ。
寸前の所まで迫っていた相手車両の男は、ハンドルを握り締めたまま呆然としている。
「おじさん!どこ見て走ってんのさっ!」
エレカが安定するや、シートに飛び乗り怒鳴るジュドーの声で男はやっと事態を把握した。
「ちょっとおじさん!聞いてるの!?」
エレカの男は全身から汗を噴き出したまま声の方を見た。
「カミーユ!?」
男は交差点で起きた出来事を忘れ、今の事態に、偶然にカミーユに会えた事を感謝した。
387 名前:新ストーリー書き:02/10/01 01:01 ID:???
「カミーユ!お前を探してたんだ!」
男は交差点の真ん中にいることを忘れ、エレカから離れ駆け出そうとしている。
「オ、オクトバーさん!?」
尋常ではないオクトバーの動きにカミーユは、
その男が本当に自分の知っているオクトバーかと目を疑った。
「ちょっとおじさん!とりあえずエレカ退けろよ!」
ジュドーの指摘に慌ててエレカを路肩に移動させている姿は、
いつものオクトバーのイメージからはかけ離れている。
いつの間にか集まった野次馬を気にする余裕も感じられない。
(大尉の動きでアナハイムは大騒動って事か……?)
オクトバーのエレカを冷静に誘導させながら、
カミーユは作戦が開発を待ってはくれぬ戦争が始まった事を痛感した。
そして、オクトバーをおじさん呼ばわりして怒鳴り散らすジュドーに対し、
(お前がアナハイムの人間にそんな態度取っていいと思っているのか……?)
と、ベースジャバを紛失した責任を負わされた社員を思うと、失笑するしかなかった。
388 名前:新ストーリー書き:02/10/01 01:02 ID:???
「納期を10日も繰り上げられたんだ!」
カミーユに向き合うや否や、オクトバーはいきなり本題に入った。
「シャアのインタビューは見ただろ!?」
「ああ」
「あれで連邦の上の連中、完全にビビって、νの開発はまだかって今になって大騒ぎで……!」
「けどアレは、アムロさんの設計で大方、出来上がっていたんじゃないんですか?」
カミーユの回答はオクトバーと違い、いたって冷静だ。
「紙の上の設計と実物が、計算通りにいかない事はカミーユだって分かってるだろ!?
特に、νはサイコミュー搭載なんだ。誤算だらけだよ!」
「――アムロさん、やっぱりサイコミューを……!?」
「だからνの開発にはカミーユの協力が必要なんだって!
現場の都合は考えずに、戦闘状態前に工場の配置換えまで要求するんだよっ、連邦は!」
それで先程、グラナダ市街をアナハイムのトレーラーが走行していたという訳だ。
ジュドーとカミーユが無意識ながらに注目していたのは、ガンダムそのものだったのだ。
「いくら同じ組織内でネオ・ジオンのモビルスーツも開発してるからって、
企業姿勢を信用してないって証拠だろ!?
それなのに、納期の繰上げだけは平気な顔して言ってくる!」
オクトバーの勢いは止まらない。
技術的に限界に達していたところへ納期の繰上げが来たので、半分パニック状態だったのだ。
389 名前:新ストーリー書き:02/10/01 01:03 ID:???
「νって……?」
完全に蚊帳の外にされていたジュドーは、聞き慣れない名称に横槍を入れた。
「ああ……。νっていうのは……」
「――なあ、カミーユ!手伝ってくれよ!サイコミュー部分だけでいいんだ!」
ジュドーに説明しようとするカミーユの声すら、オクトバーは遮ってしまう。
「サイコシステムはいくら技術屋だからって、能力がある人間でなきゃ扱えない……!
このまま戦闘状態にでもなったら、アムロ大尉がいつこっちに到着出来るかなんて分からないだろ!?」
「――ちょっとおじさん!」
今度はジュドーがオクトバーを制する番だ。
「俺がカミーユさんに聞いてるだろ!?νって何なんなのよぉ!?」
完全にジャンク屋不良少年の人相に戻っているジュドーの勢いに、オクトバーはしばし呆然とした。
その隙にカミーユが短くνガンダムの説明をする。
そのほとんどは技術屋仲間のオクトバーからの受け売り情報だ。
実物のνガンダムを見たわけではないが、さすがにオクトバーの説明は的確で、
カミーユの頭に中にはνガンダムの全貌が見えている。
390 名前:新ストーリー書き:02/10/01 01:04 ID:???
オクトバーは前々から、カミーユの技術力と経験、人間性を買って、
アナハイムへカミーユを誘っていた。
話の端々からカミーユにパイロット経験があることは察してはいたが、
さすがに、Zガンダムのパイロットだったと聞いた時には度肝を抜いた。
ガンダムのパイロットと言えば、軍ではエースパイロットだ。
その本人が、まさか、グラナダで技術屋を……、
しかもフリーでしているなどと想像もしなかった。
そしていくら誘っても、兵器を開発するアナハイムへの入社を頑なに拒む。
オクトバー自身、驕る訳ではないが、
技術屋にとってアナハイムエレクトロニクス社は最高峰の組織だ。
最新の設備の中、最新の技術開発が思う存分に出来る。
もちろん、戦争の道具を建造しているということに、何も心が痛まない訳ではないが、
技術屋として生きている以上、最高品質のものを造れるというステイタスは
どんな倫理をも超越してしまう。
それを経験できるだけの技術力を持ちながら、そのお膝元に暮らしながら、
誘いを断り続けるカミーユの精神がオクトバーには理解できない。
技術屋仲間として誘うだけではない。
アナハイムの技術者として、Zガンダムのパイロット経験を持つカミーユが
νガンダムの開発に携わることは、相当な利点が生じると判断できる。
「頼む!カミーユ!νの納期まででいいんだ!」
ジュドーへの説明が一通り終わるのを待って、オクトバーは両手を顔の前で合わせて、
カミーユを拝むように懇願した。
「オクトバーさん……」
カミーユの表情は複雑だ。
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