
ジュドーとハマーンがくっついてシャアの反乱に出くわしたらこうなったのその4
488 名前:新ストーリー書き:02/10/15 17:52 ID:???
「何かあったんだよ!行かせてくれ!」
νガンダム開発ルームに響くジュドーの声に、
作業スタッフの視線が、オクトバーとジュドーのもつれ合いに集中した。
「だから、何の話なんだ!一体、お前……!?」
突然にオクトバーが連れてきた青年は、誰の許可も得ずに開発中のνガンダムに乗り込み、
動作機能しか完成していないその機体を、いとも簡単に操り、
頭部の無い起立するそれを、無傷で作業台に横たえる操作をやり遂げたのだ。
しかも、その直後の、有能な作業員の誰もに理解不能なフィンファンネルの動き。
それは、同じコックピットに居合わせたオクトバーには、
衝撃的な光景で、急に意味不明な声を上げるジュドーが、化け物かのように見えもする。
「――だから!変な気配が……!」
「何の事なんだ!お前、サイコシステムに何した!?」
「サイコシステム!?そんなの知るかよ!」
オクトバーの腕を振り切ろうとするジュドーと、
それを押さえ込むふたりの押し問答は、進展制が見えない。
「ベースジャバの事は後でちゃんと謝るから、今は見逃してよ!」
「ベースジャバぁ?何言ってんだお前!?」
「あ、いや……、何でもないって!」
思わず口を出た言葉を引きつった笑顔でごまかして、
尚も開発ルームから抜け出そうと、オクトバーの空いた脇にスルリと上半身を滑らせた。
「あ、こらっ、待てって!」
オクトバーの手は、ギリギリのところでジュドーのジャケットの手前の空を切った。
その隙にジュドーはドアの開閉スイッチに手を伸ばし、
それに反応して開いた通路に勢いよく飛び込んだ。
489 名前:新ストーリー書き:02/10/15 17:53 ID:???
ドス――ン!!
「「うわっ!」「キャッ!」」
開いたドアの向こうから同じく駆けて来ていた体に、ジュドーは思いっきり体当たりしていた。
「ご、ごめん!」
相手の声が女でなかったら、この非常事態だ、怒鳴っていたかもしれないが、
どうも、ジュドーは女には甘い性分らしい。
尻もち付いた体を起こしながら、手元に落ちていた丸メガネを手に、
ジュドーは、ヘナリとしゃがみこむ女性に申し訳無さそうに歩み寄った。
「大丈夫?怪我無い?」
先に急ぎたい気持ちは競るが、女性に怪我を負わせたのでは後味が悪い。
「ええ。大丈夫……」
ジュドーはようやく上げた女の顔に、メガネを差し出して、ギョッとした。
「ミリィさん!?」
「え……?ジュ、ジュドー!?」
メガネを受け取り、付けたミリィは、目の前にいる青年が、
かつての少年、ジュドー・アーシタが成長した姿であることはすぐに分かった。
「どうしてここにいるのよ!?」
そばかす顔もかつてのままで、歳を取ることを忘れたような幼顔は、
明るく、かつての仲間との再会に、目はキラキラと輝いている。
「ミリィさんこそ、どうして!?」
「私はここの社員だからよ」
「え?ミリィさんって、アナハイムの人だったの?」
ジュドーの陳腐な質問に、ミリィは、膨れっ面を見せて、反論した。
「私はこれでも、アナハイム所属のメカニックなのよ。失礼しちゃうわね」
「ヘヘ、そうだっけ?」
490 名前:新ストーリー書き:02/10/15 17:53 ID:???
ドギマギとするジュドーを前に、ミリィは、それも仕方なしと、笑顔を見せた。
先の戦闘中のジュドーはまだ14歳だった。
モビルスーツの操縦に長けてはいても、中身は多感期の少年なのだ。
ラビアンローズのメカニックの誰がどこの所属で……、などという話に関心など持たなくて当然だ。
「ミリィ、ジュドーは一体、何者なんだ?」
いつの間にかふたりの会話を聞いていたオクトバーの声に、
ミリィはおどけた笑顔でサラリと答えを言った。
「やだぁ、知らないんですか?オクトバーさん。ジュドーは、元ガンダムZZのパイロットですよ」
オクトバーの口があんぐりと開いたのは言うまでも無く、
「あれぇ?俺、言わなかったっけ?」
と、ヘヘーンと若干自慢げに鼻を擦るジュドーを、恨めしそうにギロリとにらみ付けた。
496 名前:新ストーリー書き:02/10/17 10:13 ID:???
「おっと、そうだ!俺、のんびりしてられないんだよ!」
「駄目だ!」
ミリィとの再会に浸る間も無く、
再び駆け出そうとするジュドーの腕をオクトバーがガシッと捕まえた。
「頼むよぉ。怪しいものじゃないって事は分かったでしょ?」
懇願するが、オクトバーの表情は硬いまま、決してその腕を放そうとはしない。
「一体、何を急いでいるのよ?ジュドー」
「何って……」
答えかけてジュドーは言葉を呑み込んだ。ハマーンの生存について不用意に人に話せない。
「あ、まさか、またガンダムを盗もうって言うんじゃないでしょうね?」
「はあぁ?」
思いもしない突飛な発言にジュドーは、ミリィを呆れた顔で覗き込んだ。
一方のオクトバーは、ミリィの言葉の意味を分からないながらも、
過敏に反応し、ますますジュドーの腕を捕る力が強まっている。
「あのねぇ、俺がそんな事する訳ないでしょ!?」
過去の記憶を抹消したかのような言い方に、ミリィも黙ってはいない。
「トーレスから聞いたわよ。ジュドーはZガンダムを盗もうとしたって!」
「――ったく。そんなの大昔の事でしょ!
自分が出撃させられたからって、そんなの根に持つなよなぁ……。
俺が今焦ってるのは……!」
喉元まで出た言葉を、やはりジュドーは口には出さなかった。
威勢の良いジュドーの姿の印象が強いミリィは、
ジュドーの心中にどんな心配があるのかと、その顔をジッと見つめた。
真剣な表情に嘘は無いと、見ればすぐに分かる。
ミリィは、オクトバーに背を向けて、耳元に顔を近づけ小声で言った。
「どうしたのよ?力になるわ」
「ミリィさん……」
497 名前:新ストーリー書き:02/10/17 10:14 ID:???
ミリィの後ろで、オクトバーは明らかに膨れているが、ジュドーは彼女の配慮に感謝した。
つい数時間前に会ったオクトバーはともかく、ミリィは、戦乱の中を共に過ごした事もある人だ。
リィナが行方不明になった時も、親身になって心配してくれた。
多少……、いや、かなり危なっかしいところもあるが、
真面目そうな丸メガネの知った顔がジュドーを安心させる。
「実は俺……、ハマーン・カーンと一緒にいるんだ」
「えぇぇ!?ハ、ハマー……フガフガ!」
聞いた言葉を大声でオウム返しするミリィの口を、ジュドーは慌てて塞いだ。
(ほんっと、この人って!)
オクトバーの耳に入らないようにと、自分から配慮しておきながら、その口でそのままを喋る。
「ジュ、ジュド……ゲフゲフ!」
取り乱したジュドーに、口と鼻を同時に塞がれたミリィは、真っ青な顔になっている。
「おいこらっ!これ以上したらミリィが窒息するぞ!」
オクトバーが仲裁に入って、ようやくジュドーはミリィの口から手を離した。
「だってミリィさん……!」
「ケフ……。ごめん、ジュドー」
ジュドーの言い訳より先に、ミリィはジュドーに素直に謝罪した。
「ちょっと驚いちゃったのよ。でも、力になりたいって言うのは本当よ」
「ああ……。俺の方こそ、ごめん」
ふたりのやり取りをやはり膨れたまま見ていたオクトバーはそこで、
ジュドーにとって、思いもしない言葉を口にした。
「何だか知らないが、俺も力になろう」
「えぇ?」
「カミーユも、Zに乗るようになるきっかけは、MK-Ⅱを奪回したからだって聞いた事がある。
どうやらガンダムのパイロットっていうのは、ガンダムを奪ってなんぼらしいからな」
さっきまでジュドーの腕を必死に捕まえていたオクトバーの照れた笑い顔に、
ジュドーは満面の笑みで答えた。
「ありがとう。オクトバーさん!ミリィさん!」
その笑顔を見たら、ふたりともつられて笑顔にならざるを得ない。
498 名前:新ストーリー書き:02/10/17 10:14 ID:???
ジュドーの説明を、ふたりは息を呑んで聞いた。
エゥーゴの元パイロットが、敵の大将と解り合い、共に暮らしているなど、
信じろと言われても、そう簡単に信じられる話ではない。
しかも、ジュドーが今、急いでいる理由が、
νガンダムのコックピット内で、同じグラナダとはいえ、
居住区にいるはずのハマーンの危険を察知したというのだから。
しかし、ジュドーが元ZZのパイロットで、
当然ニュータイプと言われる人種であろうと考えれば、
フィンファンネルの不可解な動きも、ハマーンの危険を察知したという言葉も、
更にはハマーン・カーンと解り合うというのも、理解できる。
オクトバーは、ただのカミーユの追加品として見ていたジュドーの
秘めたる事情と力に、この日何度目かの身震いをした。
515 名前:新ストーリー書き:02/10/19 09:55 ID:???
「分かった。ジュドーが、その……、ハマーンがどうしても心配なんだって言うなら、
カミーユの家へ戻る事を許可するよ」
ジュドーの説明を聞き終えたオクトバーは、キリッと締まった顔をしてジュドーに言った。
νガンダムの全貌を見られたからといって、ここまで真剣にひとりの女の身を心配する者を
拘束することは、男としてオクトバーには出来ないことだ。
「ありがとう。オクトバーさん」
「いや、男なら当然の事だ」
急に芽生えた男同士の友情を噛み締めるよう、
互いに手を差し出し、固く握手をするジュドーとオクトバーに、
脇で見ていたミリィは、携帯端末を手に、あっさりと発言した。
「とりあえず、連絡を取ってみればいいんじゃないの?」
「「え?」」
516 名前:新ストーリー書き:02/10/19 09:55 ID:???
手を握り合ったままのふたりは、ミリィの言葉に、そろって間の抜けた顔を向けた。
言われてみればその通りなもので、何も気を急いて現地に走らなくとも、
状況を確認すればいい事なのだ。
「グラナダ市内で何か大きな事件でも発生すれば、社内アナウンスもあるだろうし、
それに、今は何も感じないんでしょ?」
丸メガネの下のクリクリした目が、矢継ぎ早にジュドー訴えている。
「そ、そうだな……。今は何も……」
コックピットで感じた、嫌な感覚は確かにもう無い。
「ね?だから、とりあえず、安全を確認したら?」
「あ、ああ……」
グイッと端末を差し出すミリィが、以前よりもかなり「お姉さん」に見える。
直情的なように見えて、案外、冷静に物事を判断できる性分なのかもしれない。
彼女だからこそ、エマリーの補佐役が務まったとも思える。
親切に提供してくれる端末に手を伸ばそうとしたジュドーは、
やっと、自分がまだオクトバーと固く手を握り合っている事に気が付いた。
「うわっ!ちょ、ちょっとおじさん!」
「な、何だよ!」
慌てて互いに手のみならず、体を離すジュドーとオクトバーは、
自分の手のひらに残る相手の湿度に堪らず、手をブンブンと振った。
「お、俺はそんな趣味ないからなぁ!」
「俺だって、ハマーンがいるのに、オヤジなんかに興味あるかよ!」
フンッと他愛も無い状況に慌てるジュドーの第六感は、
もはやハマーンの危険は回避されたと証明しているようなものだった。
517 名前:新ストーリー書き:02/10/19 09:56 ID:???
「まったく、お前の心配性はどうにかならんものか」
アナハイムエレクトロニクス社内、νガンダム開発ルームに足を踏み入れたハマーンは、
子犬のような勢いで飛びついてくるジュドーに、呆れたように冷たく言った。
ナナイとギュネイが去った後、カミーユの説明を受け、アナハイムに向かうエレカの中で、
ハマーンはジュドーからの通信を受信し、小型モニターいっぱいに心配顔を見せるジュドーに、
つれなく「事態は収拾した」と回答したのだった。
「だけど……!シャアの部下がハマーンを襲ったんだろ?本当に大丈夫だったのかよ?」
「私はこの通り、無傷でお前の前にいるが?」
ハマーンの冷めた答え方は変わりはしない。
そんなふたりの様子が少し離れた位置に立つオクトバーとミリィには、何とも妙な光景に見える。
「本当にハマーン・カーンなんだな……」
「ええ……」
狐に抓まれたようなふたりに、カミーユがファを紹介しながら歩み寄った。
「ジュドーからハマーンの事は聞いたんですね」
「ああ」
と答えながら、オクトバーは相変わらず、
熱っぽいジュドーと、クールなハマーンの、奇妙なやり取りに目を奪われている。
「前の戦いの時……、ジュドーはハマーンが憎くて戦っていた訳ではないんですよ」
あまりにも唐突なカミーユの言葉に、オクトバーとミリィの視線はカミーユに向けられた。
「ジュドーは、ハマーンが戦いを生む源だと感じていた一方で、
ハマーンの中の悲しさや寂しさも同時に感じていた……」
ミリィの知っているジュドーは、確かにそうだった。
兵士というにはあまりにも幼すぎる少年は、妹の救出という目的を失った後でも、
大人が生み出した戦争を終結させるために出撃するのを拒まなかった。
それは、ハマーンという悪しき根源を絶てば、戦いが終わると信じていたからだ。
「今のハマーンからは戦いの臭いは感じません。
それはもちろん、ネオ・ジオンが再び立ち上がった状況においても」
カミーユの言葉を照明するように、ハマーンに寄り添うジュドーが声を出して笑うのが見える。
「ニュータイプが戦場を去った後で、何が出来るのか……。
ジュドーはそれをハマーンに見つけたんですよ。
孤独と戦いで深く傷付いていたハマーンを救う……。しいてはそれが宇宙の平和につながると」
518 名前:新ストーリー書き:02/10/19 09:57 ID:???
確かに、ジュドーが笑う横で、ハマーンも薄っすらとだが、微笑んでいる。
感情をストレートに表すのは苦手なようだが、概念無く見れば、
とても今のハマーンを、元ネオ・ジオンの摂政だとは思いつかないだろう。
オクトバーも、ミリィも政治家ではない。戦争責任などと今更口にする気は毛頭無い。
もちろん、エマリーを失った時の悲しみをミリィは忘れた訳ではない。
しかし、それを謝罪させるために、ジュドーから引き離そうとは考えられない。
人は前に進まなくてはならないのだ。
ジュドーに言った「力になる」という言葉に嘘はつけない。
「愛って偉大なんですね」
複雑な表情から一変して、スッキリと考えがまとまった顔になったミリィの迷言ぶりに、
カミーユは「え?」と困ったような顔でオクトバーを見た。
見られたオクトバーは「こういう奴なんだ」と目で訴えている。
「はは……。愛は偉大なんだよ。だから僕はファを連れて来ました。
ファが側にいればいい仕事が出来るって確信したからです」
「カミーユ……!」
真っ赤になるファとは対照的に、ぬけぬけとファの肩を抱き寄せるカミーユに
当てられたオクトバーは、ゲンコツを握り締め、頭上で構えるポーズをとった。
「こいつっ!」
「あはは!」
心の底から笑うカミーユを見て、オクトバーは、カミーユの笑い顔を初めて見た事に気が付いた。
いつも冷静で優秀な技術者は、知人にといえど、ポーカーフェイスが常だったのだ。
(それもこれも、あのジュドーの影響なのか?)
不思議と憎めないジュドーの笑顔と、カミーユの笑顔を同じ視界に入れ、
オクトバーは、このふたりが本気になったら、最強のνガンダムが出来ると確信した。
536 名前:新ストーリー書き:02/10/23 11:09 ID:???
ジュドー、ハマーン、カミーユがνガンダムの開発に尽力しはじめ数日が経過した。
開発などという慣れない土壌での作業に必死になるジュドー、
終日、頭の中にプログラミングを走らせるカミーユ、
ハマーンの計算付くの冷めた言葉はふたりの男を奮い立たせ、
時に、自らもまた、意表を付く提案をする。
そしてそんな3人に癒しを与えるファ。
4人の加勢により、νガンダムの開発はしっかりとした足取りで前進し始めた。
537 名前:新ストーリー書き:02/10/23 11:09 ID:???
カミーユとファ、ハマーンが合流したあの日、
4人を開発に加えるに当たり、オクトバーは開発を任されるリーダーとし、
νガンダム担当スタッフに召集をかけた。
蜂の巣を突付いたような騒ぎで作業のため飛び交っていた
νガンダム開発ルームの作業員は一同に、頭部を結合されたνガンダムの前に立つ
オクトバーに視線を向け、起立した。
その中にはジュドー、ハマーン、カミーユ、ファの姿もある。
急に現れた民間人を訝しげに見るスタッフに対し、
「オホンッ」
とνガンダム担当のリーダーとし、
オクトバーはこれからの発言に威厳を加えるために咳払いをしてみせた。
「モビルスーツの開発はもう10年来の歴史を持つ。
二足歩行の宇宙用工作機を作れって言われれば、そこらのジャンク屋にだって出来る業だ」
全ての作業が中断し、静まりかえったピットの中にオクトバーの声は響く。
「しかし今度のガンダムには、パイロットのアムロ大尉の提案で、サイコシステムを導入する。
これの出来で他のモビルスーツとの性能の差が出ると言っても過言ではないが、
だからこそ、開発には相当な能力と労力を必要とする」
オクトバーの声は凛とし、更に声を強めた。
「納期が10日早まった事は痛いが、諸君らの力量を十二分に発揮し、
ガンダムの名、アナハイムの名に恥じぬモビルスーツを共に造ろう!」
まるで演説のようなオクトバーの声に、スタッフは揃ってこそいないが、
「はい」「分かりました」「がんばります」などと口にしている。
これが軍隊ではなく、エンジニア集団の結合というものなのだ。
オクトバーも、それを分かっているので、バラバラな反応にも満足し、
「中断させてすまなかった。作業続けてくれ!」
と次の指示を出すのだ。
538 名前:新ストーリー書き:02/10/23 11:10 ID:???
散ってゆく作業員の中にはもはや、ジュドーらを好奇や不信の目で見る者はいない。
4人を同席させた場でのオクトバーの奮起発言で、彼らがνガンダムの開発に必要な要員である
ということは提示されたようなものだからだ。
モビルスーツの開発というものが、共同作業である以上、いい製品を造るためならば、
素性など知ろうが知るまいが、超越できる性分をエンジニアは潜在的に持っているのだ。
自らもそういった人種であると分かっているからこその、
ややうやむやにしながらのジュドーたちの紹介をオクトバーは選んだ。
パイロットであることを辞め、静かに暮らすことを望むカミーユとファ、
更には、今はその生存すら極秘事項であるハマーンと、彼女と共に生きるジュドーを
νガンダムの開発に加わらせるに必要な紹介は、これで十分だ。
アナハイムに関わることでハマーンの身に危険が及ぶ可能性を
内心、危惧していたジュドーは、オクトバーの演説に感謝した。
559 名前:新ストーリー書き:02/10/25 09:42 ID:???
「ナナイ!自分のした事を分かっているのか!?」
民間船に偽装した小型輸送艇がネオ・ジオン主要艦に着艦するや否や、
ホルスト・ハーネルの声がうるさくナナイに向けられる。
「作戦仕官の名が聞いて呆れるぞ!」
「全て大佐に報告の後に伺います」
輸送艇内で軍服に着替えたナナイは変わらぬ丁寧な口調だが、
内心うるさそうにネオ・ジオンの政治を司る“老人”に言い放った。
「ニュータイプ研究所所長の名だけで十分じゃないのか!?総帥が甘やかすからこの様だ!」
わざと聞こえるように言う陰口をナナイは目を閉じて聞き流し、
体をシャアのいる私室へ泳がせる。
「はい、ごめんよ」
ナナイの後から出てきたギュネイも、仏頂面でホルストを邪魔そうに抜ける。
グラナダ以降、機嫌はすこぶる良くない。それでもシャアへの報告は命令だ。
たとえナナイの独断でのグラナダ潜入だったとしても、
目の前にいた、ネオ・ジオンにとって邪魔な存在を抹消する事が出来なかったのは
兵士として叱責されるに値する。
ハマーンの気迫とカミーユの機転、それと謎のプレッシャーに負けた。
それを分かるから尚のこと、ギュネイは苛立ちに歯を噛み締めた。
560 名前:新ストーリー書き:02/10/25 09:43 ID:???
「失礼します」
ナナイとギュネイが揃って入室しすると、シャアはデスクに落としていた目線を上げた。
総帥としてのデスクワークも、最近では板に付いてきたが、
しかしそれは、やはり、本来の姿ではないと本人も含め、多くの兵士が思っている。
「戻ったか」
「「はっ!」」
「報告を聞こう」
ふたりの敬礼を解き、シャアはいきなり本題に入った。
「大佐、ギュネイを勝手に使った事……!」
「報告は」
ナナイが謝罪しようとする言葉を、シャアは表情ひとつ変えず、低いトーンで繰り返す。
釈然としないナナイをよそに、ギュネイはシャアの命令に従った。
元々、上官であるナナイの命令でカミーユの追跡をしたのだ。
自分までもが独断行動を咎められるつもりはない。
ナナイよりも一歩前へ歩み出たギュネイは、軍人らしい切れのある声を発した。
「カミーユ・ビダンの所在はグラナダで間違いありません。
フリーのエンジニアとして、玩具や家電の開発、修理などが主な仕事です」
「うむ」
「同居人はファ・ユイリィとハマーン・カーン」
ハマーンの生存という重大な報告もギュネイは事務的に伝える。
それを受けるシャアも、既出事項の確認のように動じる様子をふたりには見せない。
「そうか」
実際に、シャアはカミーユに向けた誘導で予想は付いていた。
事を興そうという自分にプレッシャーを掛けられる者など、そうそういはしない。
シャア自身、戦いの混乱の中、生き延びたのだ。
ハマーンがそうしていたとしても不思議ではない。
ただシャアは、自分とハマーンが今、生きる理由が決定的に違うことを知りはしない。
再びジオンの名に身を置くシャアと、ジュドーというひとりの男のために生きるハマーン。
ハマーンがジュドーを見つけ、通じ合えたように、
シャアも第二のララアとなる人を探し出せたのなら、今の事態は生じていなかったかもしれない。
561 名前:新ストーリー書き:02/10/25 09:44 ID:???
それを知らしめるかのように、ギュネイが報告を追加した。
「ハマーン・カーンに銃口を向けた時、強烈なプレッシャーに襲われました。
カミーユ・ビダンのものとは違う、ストレートな感情の波動でした」
「カミーユとは別の……?ニュータイプか?」
「間違いありません」
ギュネイの報告にシャアは初めて怪訝そうな顔をした。
あの潔癖なカミーユがハマーンを許し、共に生きているとは考え難い。
ならば、他の誰かがハマーンを救出したのだろうと想像は出来る。
しかし、誰が――。
調べようと思えば、工作員をグラナダに潜り込ませれば済む事だ。
だが、ネオ・ジオンにとって、今のハマーン・カーンなど気にするに足らん相手だとシャアは思う。
今はハマーンに気を取られている時でもない。
「ギュネイ、ご苦労だった」
「はっ!」
何の咎めも無く報告の義務を終えたギュネイは、短い敬礼をし、シャアに背を向けた。
すぐ前に顔を歪めるナナイがいる。
(大佐に完全無視で、さすがの女史も穏やかじゃいられない……、かっ!)
通過しながらもう一度横目で見て、ギュネイは鼻で笑った。
が、それをみすみす許すナナイではなかった。
「戦場で敗れてから、強烈なプレッシャーでしたでは済まされんぞ。
任務ご苦労。訓練に戻るように」
その声は少しも卑下していない。
(くそっ!ただの女が!)
ギュネイはナナイには目を合わさず、退室した。
572 名前:新ストーリー書き:02/10/28 01:40 ID:???
「大佐、私は……!」
ギュネイの気配が消えると同時に、ナナイはシャアに弁解の言葉を言いかけた。
しかし、何をどう言い訳すれば良いというのか。
作戦仕官の肩書きを考慮すれば、どんな言葉をもってしてもナナイの取った行動は、
シャアの昔の女の生存を危惧し、嫉妬に狂った情けない女の暴走としか言いようがない。
「私は……」
ハマーン・カーンを仕留めていたならば、ネオ・ジオンのための作戦だと言えるかもしれないが、
結果はギュネイを無傷で戻せたから良いようなものの、何の利もない。
「まだ報告事項があるのか?」
ナナイの言いたい事は分かっていようが、シャアは事務的な対応を維持している。
その態度がナナイを不安にさせる。
自分はただの部下ではないはずだ。シャアとは一線を越えた関係である。
(大佐は私を切り捨てるのですか……!?)
たった一度の理性を失った行動が、シャアの逆鱗に触れたのか……。
ナナイは目の前が真っ暗になる感覚を覚えたが、次に出たシャアの言葉に目を見開いた。
「ふたりが無事だったのだ。私はナナイを咎める気は無い」
「大佐……?」
「いや、むしろ……」
言いながらシャアは絶望的な表情を浮かべるナナイにフワリと近づき、その腰を抱く。
「私は不思議な優越感すら感じている。冷静なナナイの心を乱した事にな……」
先程までの総帥の顔を剥ぎ取ったシャアの顔は、ナナイにとって、
今は自分だけが知っているひとりの男の顔をしている。
強い男と見せかけながら、その瞳の中に寂しさを漂わせるこの男の表情に
自分がいかに魅了されているか、ナナイは思い知らされる。
(大佐の心は今、確かに私にある……?)
絶望から不安に変化したナナイの瞳にシャアは無言のままそっと口付け、その瞳を閉じさせると、
次は妖艶な艶やかさ漂うナナイの唇に自分のそれを重ねた。
彼女が抵抗しない事を熟知した上での行動であり、
今回の行動の全てを許し、もうこの話題に触れさせまいという、文字通りの口封じだ。
573 名前:新ストーリー書き:02/10/28 01:40 ID:???
しかし、唇の愛撫を受けるナナイの心にはハマーンの冷たい言葉がよぎる。
『貴様もいつか、自分が利用されただけの人間だと気付くだろう。
あの男は、人の愛し方を知らんのだ』
ハマーンにそう言わせるシャアの腕の中、ナナイの心の混乱はますます渦を巻く。
自分はシャアにとって最後に行き着いた泉であると信じたい思い。
同時に、このキスですら、自分を利用しようとするシャアの策ではないかと疑う思い。
(大佐の本心は……)
首筋に降りてくるシャアの息がナナイの体を熱くさせる。
「……っんぁ」
心の葛藤とは関係無しに体が反応すると、シャアはその身を離した。
「私にはナナイが必要だ。私のためによく働いてくれ」
「……はい」
全身でシャアの息遣いを感じていたナナイの酸欠状態の脳は快楽に比重を移し、
一時的にしろ、抱く疑惑をうやむやにしたまま忘れさせらていた。
シャアの作戦勝ちだ。
「ホルストが手ぐすね引いて待っていたぞ。老人の小言は聞く振りだけでもしてやってくれ」
「了解しました」
硬い言葉で返すものの、シャアに吸われた首筋がまだ熱い。
言い終えたシャアの目が柔和な笑みを含んでいるのを、ナナイは心底嬉しく思う。
握られた手と首筋の熱が、今夜にでも肌を重ねようという意志を伝達してくる。
「報告、ご苦労」
スッと手をシャアが手を引くのに合わせ、ナナイは敬礼をし、部屋を出た。
ナナイの瞳にとりあえず安心が浮かんでいるのをシャアは小さく笑い、
何事もなかったように、執務用のデスクに戻るのだった。
574 名前:新ストーリー書き:02/10/28 01:41 ID:???
ギィィ……。
シャアが深々と腰を下ろした直後、シャアの私室の内ドアのひとつが
タイミングを見計らっていたかのように、ゆっくりと開き、
やや頬の痩けた男がわざと茶化すようにシャアに言った。
「相変わらず、女にもてるようで」
「いや……」
謙遜ではなく、この男には自分の策の全てを見透かされているようで、シャアは曖昧に答えた。
実際、この男はシャアの今まで、そしてこれからの全てを知りうる人物なのだ。
592 名前:新ストーリー書き:02/10/30 00:58 ID:???
「金に困ったら『シャア総帥の女遍歴』とでも題打って出版しますかね?
ご婦人どもが飛びつきそうだ」
遠慮なくシャアの私室に入る男は、口元には笑みを浮かべながらも、その目は鋭い。
「はは。政治専門のジャーナリストが何を言うか。カイ・シデン君」
軽口でシャアを笑わせた男――、
カイ・シデンはややよれかかった白いスーツの上に、
やはりくたびれたトレンチコートを羽織っている。
自分が飾り上げられた道化のように、総帥の威厳を保つよう身を固められているシャアは、
カイの外観がそのまま、彼の自由さを表しているように思い、少し羨ましくすら思う。
「わざわざ私に報告するために宇宙(そら)に?」
「いや、俺はあなたの私兵じゃない。報告の義務なんて背負っちゃいない」
シャアのデスクの前まで来たカイは、椅子に深々と腰を落とすシャアに対し、
デスクに両手を突き身を乗り出した。
目の前の男が“赤い彗星”だというのに、不思議と、さほど緊張していない。
あの頃は言葉通り、その存在に震え上がっていたというのに。
立場が変わればこんなものなのだろうか……。
カイはアムロとハヤトが、カラバでシャアと共に戦ったという事実が理解出来る気がした。
593 名前:新ストーリー書き:02/10/30 00:58 ID:???
「あなたの言う通りにしましたがね、あれは余りに無責任だって言いに来たんですよ」
その顔は真剣で、言葉以上に訴えている。
しかし、シャアはカイの機嫌よりも、カイに依頼した内容の結果に関心は惹き付けられている。
「では、アルテイシアに……」
「会いましたよ。苦労しましたがね」
シャアの反応がカイは気に入らない。
自分にとってセイラ・マスという女性は、
あくまでも元ホワイトベースのクルーのセイラであって、
ジオンの忘れ形見、シャアの妹、アルテイシア・ズム・ダイクンとは見ていない。
それが彼女のためだと思うし、生死を共にしてきた仲間としての礼儀と思っている。
が、シャアからの一通の私信により、カイはセイラをシャアの妹として探す羽目になった。
なまじフリーのジャーナリストなどという、組織に捕らわれない仕事をしていると、
カイ・シデンの名で流す政治に対する記事は酷評となり、それなりに評価されている。
恐らく、それがシャアの目にも留まったのだろう。
元々、面識が無いという訳ではない。最も、敵同士ではあったが。
フリージャーナリストの捜査力と行動力、そして何よりセイラとの面識があるカイに、
シャアは新生ジオン軍が公となる前に、内密にある依頼をしたのだった。
607 名前:新ストーリー書き:02/10/31 15:38 ID:???
「セイラさん……、彼女に全てを委ねるっていうのは、どうかって思いますが」
カイはあくまでもセイラをセイラと呼ぶ。それが彼の意思を主張している。
「また私を卑怯だと言うかね?」
「言いたいですね。俺はあなたに、こんな形でシャア・アズナブルに戻って欲しくはなかった」
カイにはシャアが憎いほどに冷静に対応しているのが分かる。
自分の軍艦の中で、いち民間人が何も出来ないと分かっているからなのか。
それとも、ホワイトベースの元クルーと言っても、アムロ以外は眼中になど無いと言うのか。
どの道、そんな相手にこれ以上熱を上げてはならないと、カイは自制しながら言葉を発した。
「俺のようなジャーナリストが、戦争だって言ったら、まず、何から調べるかご存知ですか?」
「ふむ……。何かな?」
「地球圏に浮遊する隕石、要塞、コロニーの所属ですよ」
シャアの表情は歪みもせず、それが逆にポーカーフェイスを保とうとしているとカイに思わせる。
(やはりな……)
「移動が容易で、それなりの重量のある石は皆、連邦軍の管理ですがね」
「それが……?」
当たっては欲しくない読みが当たり、カイは内心舌打ちをした。
シャアはかつての戦争と同じように、隕石落としをする――。
連邦政府に対する牽制は、やはり脅しではない――。
「俺はあなたを買い被っていたようですね。あなたなら、もっと別の方法で、
スペースノイドとアースノイドの共存社会を実現出来ると思ったが……」
「地球にはもう限界が来ているのだよ。
それは君らの発信するジャーナリズムも、謳っている事だろう」
確かに、カイの書くコラムに、地球環境の悪化や政治腐敗といった内容が無い事は無い。
しかし、それとこれは別だ。
カイは自分の事を保守的な人間だとは思ってはいないが、
シャアがかつて、地球のために戦ったクワトロ・バジーナと同一人物だと思うと、
ますます、今の彼がしようとしている事に矛盾を感じざるを得ない。
608 名前:新ストーリー書き:02/10/31 15:39 ID:???
「俺はセイラさんがアムロに付く事を期待しますよ。
そして、アムロがあなたの感傷染みた作戦を失敗させる事をね」
「臨むところだな」
シャアの口元に笑みが浮かぶのをカイは不気味な光景のように見え、思わず地が出る。
「あんた……、死に場所を求めてるのか?」
「私はそこまで馬鹿ではない。これは世直しだよ」
理解不能なシャアの笑みは、カイにはやはり捨て身のあやふやさに見える。
これ以上、この男に何を言っても無駄だ。カイはシャアのデスクから身を離し、
「色々とお忙しい時に、邪魔したな」
わざと言葉を嫌味っぽく強調して、カイはシャアに背を向けた。
はじめから、赤い彗星と分かり合おううなどと、無理な話だったのだとカイは苦笑する。
(俺は敵とでも理解し合おうなんてニュータイプになんか、なりたかないね)
あくまでコツコツと床に足を付けてドアに向かいながら、カイはふと思い出して足を止めた。
「ハマーン・カーンが一緒にいる男、誰だか知りたいかい?」
「 …… 」
どっちにせよ、即答出来ないシャアに、カイは笑った。
「教えてやらない。あんた、少しは女を大事にした方がいいと思うからな」
レコア・ロンド――。
彼女の口からクワトロの名を聞いた事がカイにはあった。
シャアと関わった女性は、誰もが不幸になっている。
「せいぜい、自分が捨てた女が、他の男と一緒に、
あんたと一緒にいた時よりも幸せそうにしているのを想像して、勝手に妬いてな」
「 ! 」
カイは、シャアの顔を見ずにドアの外に出た。
最後の最後に男の情けのつもりだが、それを分かるシャアは、ますますひとり不快な顔をした。
「言いたい事を言う……」
しかし、シャア自身、否定出来ない事実でもある。
609 名前:新ストーリー書き:02/10/31 15:40 ID:???
ドアに背を付けたカイは、周りを警戒して、
ジャケットの内ポケットのレコーダーのスイッチをそっとオフにした。
(どの隕石を落とすかなんて、言うわけないか……)
カイは、改めて、セイラの行動に期待した。
もちろん、彼女は、誤った行為に走る兄の道を絶つ術を選ぶと思っている。
セイラとアムロ――。
シャア本人が選んだ、彼の生に終止符を打つべき人物に任せよう。
(これが俺の性分には合ってるんだ……。軟弱者って怒りますかね?セイラさんは)
時代が変わっても、ヒーローにはなれない自分の立場をカイは割りと好きだと思った。
総帥直々の特別入船証をかざすカイに対し、
歳若い兵士たちが、ばかに丁寧にデッキの小型シャトルに案内する。
(俺にもあんな時代もあったんだよな)
ただの少年だった人間がモビルスーツに搭乗する時代――。
アムロもシャアも、まだその時代の延長線上にいる。
(いい加減、これで最後にしてくれよ……!)
カイは、同じ宇宙空間のどこかにいるであろう、ロンド・ベル隊のアムロに向けて願った。
670 名前:新ストーリー書き:02/11/11 17:02 ID:???
「勝手な事して!後でジュドーに怒られたって知らないんだからね!」
「っんだよ!気に入らないなら、乗らなきゃいいだろ!」
シャングリラから発進した小型輸送船のブリッジでは、
出港から後、ずっとビーチャとエルの言い争いが続いている。
いい加減、計器を確認するモンドとイーノは相手にする事すら止めにした。
いわゆる『どうせいつもの痴話喧嘩』という奴なのだ。
「大体!なんでジュドーに怒られるんだよ!?俺たち立派な大人だぜ!
仲間が心配で出て行くのに、どうしてジュドーの許可がいるんだよ!?」
「あんた、自分が立派な大人だなんて思っているの!?
私がいなきゃ、なんにも出来ないガキのくせに!」
「なんにもって何だよ!お前が勝手に世話焼いてるだけだろ!?」
それにしても、よくもまあ、ここまで喧嘩を繰り返していながら、
一緒に生活しているものだと、リィナは単純に感心してしまう。
(きっと、本質的には合うものがあるのよね……)
さて、どうなのだか……。
「あぁ……。もう、いい加減、静かにしてよね」
イーノが呆れたように言うのにも、誰が任命した訳でもないのに、
自ら決められたようにキャプテンシートに身を置くビーチャは、
「エルがギャーギャーうるさいんだよ!」
と火の粉を振っている。
いつの間にか、ヘッドフォンで流行のラジオでも聴いているモンドの頭が
リズムに合わせてふわふわ揺れる後ろで、ビーチャは声高らかに命令を下した。
「目標、グラナダのジュドーとハマーン!全速前進!」
「「もう、やってるよ!!」」
さすがにその罵声にヘッドフォンを外したモンドと、
うんざりした顔のイーノは、声をそろえて憤慨した。
(あああぁ~。大丈夫かしら?)
リィナは、どこまでも続く宇宙の彼方に存在するであろう月の表面に想いを馳せ、
心配のため息をもらした。
671 名前:新ストーリー書き:02/11/11 17:02 ID:???
ビーチャがエルの反対を押し切って、
ジャンク屋組合共有の小型輸送船で、シャングリラから出港したのは、
ハマーンからふたりが無事、カミーユに再会したと連絡があった直後である。
シャアが地球連邦軍に宣戦布告した事は、ハマーンとの会話の前に、
グラナダのジュドーたちと同じく、テレビ放送で知った。
通信でハマーンは心配無いと言ってはいたものの、やはり、宇宙全体が緊張している状態である。
絶対に大丈夫とは言い切れない不安が胸に残る。
「心配してたってしょうがない。俺たちもジュドーとハマーンに合流しよう!」
唐突なビーチャの提案に、別れの挨拶も無しに旅立っていたジュドーを、心配していたリィナと、
そんなリィナを不憫に思ったイーノは、すぐに合意し、
「戦争になったら、どこにいたって同じだもんね」
と、モンドは軽く答えた。
エルだけが、保守的な意見を持ってはいたが、そうと思えばすぐさま実行の
連中に押し切られて、文句を言いながらも輸送船に乗り込んでいたという訳だ。
672 名前:新ストーリー書き:02/11/11 17:03 ID:???
「ハマーンが一緒なんだから、大丈夫でしょぉ!?」
エルの文句はシャングリラを遠く離れても終わりはしない。
「ハマーンが一緒だから、逆にジュドーが危なっかしくなるんだよ!
あいつ、ハマーンの事となると見境無くなるだろ!?」
「そうそう。爆弾巻いて敵艦に乗り込むぐらい、何てことないんだもんな」
ビーチャの反論に、モンドも加わる。が、それはすぐにイーノに否定される。
「それは、リィナの時だよ」
「あれ?そうだっけ?」
言った本人が惚けているのか、ウケを狙っているのか……。
ブリッジが寒い空気に包まれたのをかき消すように、
ビーチャがキャプテンシートに立ち上がって熱弁を振るった。
「とにかく!ネオ・ジオンなんて危ない存在が現れたんだ、ハマーンが無茶しないとも限らない。
そうなったら、ジュドーだってジッとしちゃいないだろ!?
そんな時、俺たち仲間がジュドーとハマーンの力になってやらなくてどうする!
これは、ネェル・アーガマ艦長の命令なの!分かった!?」
今頃“ネェル・アーガマ艦長”なんて持ち出されても知りはしないのだが、
ここはビーチャの性分を分かり切っている仲間内、一同にビーチャを仰ぎ、
「「「「了解!」」」」
と言って“あげる”のだった。
その雰囲気に、ビーチャが大きく鼻から息を出し、満足する――。
と、同時に、ブリッジ内に、『フォンフォンフォン』と警告音が鳴り響いた。
682 名前:新ストーリー書き:02/11/12 23:25 ID:???
ビーチャ率いるシャングリラの一行が、宇宙空間に飛び出したほぼ同時刻――。
地球から一機のシャトルが、月を目指し重力圏を抜けようとしていた。
深くシートに身を任せ、地球のGに耐える気品ある女性――、セイラ・マスは、
真下に潤いを見せるその星を視界に納め、ひとり深いため息を漏らした。
この蒼い輝きは永遠のものであって欲しい。
シャアの宣戦布告映像から後、宇宙に上がるシャトルのある空港はパニックが続いている。
そんな中、セイラがすんなりとシャトルに乗り込めたのは、
パニックの元凶、兄、キャスバルの計らいにあることをセイラは複雑に思う。
乗り合わせた面子の大半が、世論への影響を配慮してか制服こそ着ていないが、
連邦政府の高官関係者であると、軍属の経験のあるセイラには雰囲気で分る。
傲慢な態度でふんぞり返る連中は、特権で得た地球危機の情報から、
一般人よりもいち早く宇宙行きのチケットを入手したのであろう。
(だから兄さんに叩かれる……)
単純な発想だが、それは分る気がした。
しかし、そんな面々が宇宙に逃げれば、地球に残るのは罪の無い一般市民なのだ。
(ミライはどうするのかしら……?)
出発の慌しさで、そこまで配慮出来なかった自分をセイラは悔いた。
が、自分とて、本意ではないが、
兄の手引きがなければ宇宙へ上がる事は不可能だったのである。
(兄さん……)
膝の上にしっかりと組まれた手には、小ぶりなハンドバッグがある。
それをギュッと握り緊めるセイラの脳裏には、カイを通し、
兄、キャスバル・レム・ダイクンから受け取った文章の内容が、堂堂巡りしている。
(今になって私にこんな選択をさせるなんて……)
この目的がなければ、セイラは地球に住み続けることが危険だと分っていても、
宇宙に上がる事は選ばなかった。
683 名前:新ストーリー書き:02/11/12 23:25 ID:???
突然にカイがセイラの元に訪れたのは、ふた月も前の事だ。
カイに文章を渡されてから、実際に宇宙に上がるのにこれ程の時間を要した事を、
セイラは自分自身、情けなく思った。
地球の自宅のテレビ画像にて、シャアの連邦軍に対する宣戦布告を目にするまで、
心のどこかで兄を信じたいと願ってしまった。
(キャスバル兄さん……、アムロ……、ブライト……)
セイラの決断は重力をまとわぬ体となった時、ハッキリと固まった。
684 名前:新ストーリー書き:02/11/12 23:26 ID:???
これより約2ヶ月前――。
地球でひとり、ひっそりと暮らすセイラにとって、
かつての戦友、カイ・シデンの訪問は懐かしく、
うれしい出来事であって欲しいと切望したが、
それが、許されぬ事であるとも、セイラ自身がよく分っていた。
自分の生ある限り、ジオンの名は本意でなくともついて回る。
政治ジャーナリストのカイが、わざわざ居場所を探してまでも訪れるとなれば、
それは談笑で済む話ではないと、セイラは笑顔の下で覚悟を決めた。
「久しぶりだね……」
昔と同じはにかんだ笑顔を見せるカイが発した言葉は、
やはりもうひとりの、ジオンを父に持つ存在、キャスバル・レム・ダイクン――、
シャア・アズナブルからの伝言だった。
「申し訳ないけど、内容は確認させてもらったよ」
ただの伝令役であるつもりはないというカイの姿勢を、セイラは嫌な顔せず了承した。
そして、文章を読み、自分ひとりで背負えそうにない内容に驚愕した。
「兄は何をしようと?」
手紙を持つ手が若干震えているのを、カイは見ない振りをした。
「スィート・ウォーターが占拠された。まだ連邦内でも極秘事項らしいけどね。
それと、月のアナハイムエレクトロニクス……、あそこが妙に最近忙しそうにしてる」
「そう……」
それだけでセイラには十分な情報だ。兄、キャスバルは再び動き出そうとしている。
セイラの視線が無意味に空間を泳いだ。
685 名前:新ストーリー書き:02/11/12 23:27 ID:???
「セイラさんを宇宙(そら)に上げたいって事は、つまり、そういう意味だろうね」
セイラが困惑するのを分っていて、カイは率直にものを言う。
彼女ならば、どのような判断も冷静に下せると見越しての態度だ。
戦場を離れて長いとはいえ、セイラにはそうあって欲しいという
かつて“軟弱者”と、頬を打たれた者の願望も含まれている。
カイは、文章と共に同封されていたマイクロチップを指先で摘み、
シャアをセイラの兄と分っていて自分の希望を口にした。
「罠とも考えられる。けど、赤い彗星ほどの男がそんなケチな事すると思えない。
これがアムロの手に渡れば、シャア・アズナブルを墜とせるかもしれない」
「アムロ……!?」
セイラはかつての戦友、アムロの名に反応した。
「ああ。宇宙は放りっぱなしの連邦も、やっと本腰入れる気になったらしい。
ブライトの指揮でロンド・ベルって隊が結成された。そこにアムロの名前も挙がっている」
ジャーナリストとしての伝手を最大限に利用して得た情報の数々は、どれも信憑性がある。
「アムロとブライト……」
セイラにとってもふたりは何があっても忘れられない存在だ。
1年戦争を共にホワイトベースで戦った仲間――。
彼らが再び兄と対決しようしているという話は、
政治からも戦いからも疎遠するセイラにとって、どこか遠い世界の話のようにも聞こえる。
しかし、このマイクロチップを望まなくとも手にしてしまった以上、
他人事では済まされない立場に自分は再び立たされている。
セイラの全身を貫く覚悟は、その身を震わせた。
「自分の首を絞めるかと妹に訊ねる兄なんて……、あっていいものかしらね?」
失笑するセイラの言葉に、カイは慰めを含めて言葉を返した。
「自分の行為に負い目があるから、
最愛の妹、セイラさんにだけは懺悔しておきたいんじゃないかね?
俺は、シャアって人は、悲しいぐらい不器用な人だって思うよ」
「不器用……。そうね」
“赤い彗星のシャア”とも“クワトロ・バジーナ”とも言われた男を
不器用と形容するカイにセイラは悲しいかな納得した。
686 名前:通常の名無しさんの3倍:02/11/13 07:33 ID:???
セイラ「アムロのチンポ・・。ああっ待ち遠しいわ!
離れていてもいい・・たくましく育っていてほしい・・。」
694 名前:新ストーリー書き:02/11/15 15:08 ID:???
ビーチャ率いるシャングリラ発の輸送船で警告音が鳴り出した時、
地球発シャトルのシートに身を埋めるセイラも、ただならぬ気配にハッと身を起こした。
「――危ない!?」
宇宙に出たからか、セイラの第六感はシャトルのアナウンスより先に、
身の危険を瞬時に知らせたのだ。
――そして、もう一機の緊急事態の輸送船では、鳴り続く警告音の中、
「何事だよ!?」
とビーチャの叫び声が飛び、慌てて計器を確認するイーノが、青ざめた声を上げた。
「地球からのシャトルが急接近してる!」
「なにぃ~!?エル、モンド!急速回避!」
「「もう、やってますってば!」」
いつの間にか操舵席に付いていたエルがビーチャの遅い判断に、モンドと口を揃える。
「リィナ!」
急に不安定な動きになったブリッジで、ひとり担当のシートを持たないリィナを、
イーノは咄嗟に腕を引っ張り、シートに座ったまま小脇に抱えた。
「なんで発見出来なかったんだろう……!」
オペレーターの役割をする自分が、安全な距離から感知していれば、
騒ぎになどなるはずのない、初歩的なミスだ。
珍しく自分を責めるよう悔しそうな顔をするイーノの体に、リィナは腕を回して体勢を整え、
逆に励ますように、力強く、揺れる艦内で頷いて見せた。
「リィナ……」
リィナの顔が鎮静剤の役割を果たしたのか、イーノの顔がいつもの穏やかな表情に戻った。
695 名前:新ストーリー書き:02/11/15 15:09 ID:???
「うわぁ~!間に合うのか!?」
意味も無く、キャプテンシートで頭を抱えて衝突を回避しようとするビーチャに
「間に合わせる!」
とモンドはギリギリの距離を保って、シャトルの背面スレスレに輸送船を交差させ、
目の前の光景に、ブリッジの全員が冷や汗を流しながら、回避の瞬間を待った。
モニターにはスペースノイドの一同にも知れる、
メジャーなシャトル会社のエンブレムが極大に写り、
更にはハッチのノブまでもがハッキリと見えていたが、それがゆっくりと移動してゆく。
うるさく鳴り響いていた警告音がピタリと止んだ。危険回避という意味だ。
「ふうぅ~」
何の仕事もしていないビーチャが真っ先に安堵のため息を漏らした。
他の4人も全く同じ心境だ。
戦乱は生き抜いたのに、宇宙で交通事故では死んでも死に切れない。
「そ、そういや……。この船、レーダーが故障しているって
貸してくれる時、チマッターさんが言ってたような……」
ビーチャがキャプテン席で恐縮しながら思い出して言った。
「ビーチャ!そういうの、早く言ってよね!」
当然、イーノの逆鱗に触れたのであった。
696 名前:新ストーリー書き:02/11/15 15:10 ID:???
「だから僕が点検してから出発しようって……!」
珍しくイーノが罵声を上げるのを止める者は誰もいない。
ビーチャのおっちょこちょいは、少しぐらいきつく言われた方がいいのだ。
「さぁってとぉ……、相手は大手の定期便飛行会社だ、
ここはこっちの整備不良って事で、艦長として低ぅく謝っておこうかなぁ~」
イーノのお叱りをごまかすように、既に低姿勢のビーチャは、
キャプテンシートの脇の通信機を操作し、接触間際だったシャトルへと回線を繋いだ。
『バカヤロー!』
当然、手にした通信機から聞こえた言葉は、シャトルの操縦士の罵声と、
損害賠償請求のため、責任者をシャトルによこせとの声だった。
717 名前:新ストーリー書き:02/11/18 16:56 ID:???
渋々渡ったシャトルのブリッジで、ビーチャは散々な説教を、
アーガマ時代に培った“右から左”で聞き流しで決め込んだ。
確かに自分の機体に不慮があったのだ。
ここでいくら、ねちっこい嫌味の連発とはいえ反発してはならないと、
20歳のビーチャには判断が出来るようになっていた。が、
「こっちも色々と面倒な客を乗せているんだ。
客席で一言詫びを入れてくれれば、賠償金額について、考えなくもない」
という人の足元をみる発言には堪らず、
「ちょっと、おたくらも急いでるんじゃないのかよ!?」
と反抗の声を上げた。。
「なぁに、お客さん、地球の大地から足が離れてりゃ安心できるんだろうよ」
その言葉でビーチャには、地球が今、どのような状況で、
このシャトルの乗客がどのような職種の者たちなのか判断できた。
シャアの思想に賛同するつもりはないが、エゥーゴに加わり、
地球に住み続ける連邦政府高官がスペースノイドの事を、
さも軽く考えているのには腹が立つ。
そんな連中に頭を下げるのは納得できないが、
リーダーたるもの、仲間の生活のため、時には辛抱も必要だ。
(どうせ俺の頭なんて、どれだけ下げても上がって来ちゃう軽い頭だ。
高い賠償金払わされると思えば、いっくらでも下げてやるっつーの!)
幸い、シャングリラの仲間は誰ひとりシャトルには移っていない。
身内の誰にも見つからずに、頭ひとつで解決するなら。
と、ビーチャは言われるままに客席へと向かった。
718 名前:新ストーリー書き:02/11/18 16:57 ID:???
乗客は案の定、誰もがビーチャの一番嫌いとする、態度の大きなおじさん連中だった。
「こちらの整備不良で運行の妨げを致しまして、申し訳ありませんでしたー!」
内心舌を出して、それでも、ポーズだけは深々と頭を下げるビーチャは、
既に頭の中では金策の検討を始めている。
(ちぇっ。俺たちも運が無いねぇ~。一生ジャンク屋かなぁ~。
もうちょっと俺もしっかりしなきゃ、エルにいい生活させてやれないよなぁ~)
傍目には鋭角にまで頭を下げる、礼儀ある青年に見せかけてはみたが、
中身はジャンク屋リーダーのぼやきでいっぱいだ。
もう良かろうかと頭を上げたビーチャは、
ふっと、他の乗客とは明らかに雰囲気の違う女性をその目に捕らえた。
(え!?)
それはセイラも同じ反応だ。
(この子……、知っている……!?)
そして、俊敏に働いた思考回路が記憶の隅の残る少女の姿を映し出す。
(リィナ……、アーシタ……?)
「あ、あなたは……」
口をポカンと開けるビーチャにセイラは黙ったまま頷いた。
719 名前:新ストーリー書き:02/11/18 16:57 ID:???
「お久しぶりです。セイラさん」
シャトルからビーチャが戻るのと一緒に、輸送船に乗り込んできたセイラに
リィナは目頭に涙すら浮かべ、万感の思いで言った。思いもしない再会だ。
ジュドーが木星へ旅立つ予定だったあの日、セイラの一押しがなければ、
リィナはジュドーに元気な姿を見せることが出来なかった。
そして何よりも、怪我を負った上に、被弾したモビルスーツの落下という、
到底助かりそうに無い状況から救出してくれたセイラには、
言葉に表しようの無い感謝を持っている。
「大きくなったわね。元気そうで嬉しいわ」
短い言葉の奥にどれほどの感情が隠れているのか、
リィナの心優しい性格を理解しているセイラは、
以前と変わらぬ優しい姉のような表情で、リィナに微笑を返すのだった。
743 名前:新ストーリー書き:02/11/20 16:12 ID:???
来訪者呼び出しで、アナハイムエレクトロニクス社内
ミーティングルームに入ったカミーユは、
そこにジュドーのシャングリラ仲間に混じって、知らない女性がいる事を怪訝に思った。
落ち着いた物腰でカミーユとファに対し会釈する大人の女性は、
シャングリラの連中の知り合いとは、到底思えない雰囲気を持っている。
(誰、なんだ……?)
その謎は、機械油の匂いを漂わせ、
カミーユの肩越しから室内を眼中にした、ジュドーの一言により払拭した。
「セイラ・マスさん……!?」
黙って頷く女性の顔を改めて見て、カミーユの頭脳は絡まった糸を解くように、
アーガマのブライト艦長と、カラバのハヤト・コバヤシから
その名を聞いた事がある事を思い出した。
聞いたと言っても、どちらもクワトロ大尉と両氏が話しているのを
たまたま耳にしただけの経験だ。
しかし、その内容は衝撃的だったのでハッキリと覚えている。
クワトロ大尉……、シャア・アズナブル、
すなわち、キャスバル・レム・ダイクンには妹がおり、
その妹は1年戦争時、地球連邦軍のホワイトベースに乗り、兄と戦ったと――。
その人の名がセイラ・マスだった。
なるほど、その金髪はシャアと同じ色合いで輝いている。
(この人が……。でも、なぜこの時期にアナハイムに……?)
カミーユの目が厳しさを孕むのに、対してジュドーは何の考えもない様子で、
セイラに……、シャアの肉親に歩み寄るのだった。
744 名前:新ストーリー書き:02/11/20 16:13 ID:???
「リィナの事、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるジュドーは5年前、木星に旅立つ予定だった時には、
十分にお礼の言葉を言えなかった、妹、リィナの命の恩人に、改めて礼を言った。
「いいのよ。もう、随分昔の事だわ」
ジュドーに頭を上げさせるセイラは、その真っ直ぐな瞳が、
かつてのアムロの眼差しに似ている事に気付き、頼もしく思える。
なるほど、14歳にして、兄の去った後のエゥーゴで
ネオ・ジオンを潰した主力パイロットだけある。
それから5年が経った今のジュドーは、更に別なる強さを増し、
立派な青年へと成長しているように見える。
シャトルの中でのビーチャの潔い対応といい、
シャングリラから仲間の安否を心配して、
宇宙が戦場となりつつある状況であっても飛び出して来る、
この仲間意識を、セイラは、純粋に美しいものだと思える。
745 名前:新ストーリー書き:02/11/20 16:14 ID:???
が、そのように見られているとは露知らず、
思わぬところにジュドーらがいることについて、
「ったくよぉ、ジュドーもハマーンも、アナハイムに協力してるならしてるって、
早く言ってくれよなぁ~。グラナダの街中探し回るところだったよ」
と、ビーチャのぼやきが先程からずっと続いている。
「ごめん、ごめんってば!ドタバタしてて、言うタイミングがさっ」
平に謝り通しのジュドーの事を、とっくに許してはいるくせに、
いつまでもくどくどと言うのは、ビーチャ流のコミュニケーションというものだ。
「けど、セイラさんを先にアナハイムに送り届けようって思って良かったよ」
イーノはもちろん、セイラがアナハイムに何用なのかは知らずに、のんびりと口を開いた。
「ホント、ホント。
ビーチャのおっちょこちょいが無かったら、セイラさんとも会えなかった訳だし!」
「ま、災い転じてってヤツかな?」
「ほんとよぉ」
エル、モンド、リィナの追加をジュドーが不思議そうな顔で事情を問おうとするが、
「な、何でもないんだよ!」
とビーチャが慌てて口止めするのでますます怪しい。
結局、イーノからシャトルとの接触未遂騒動を聞いたジュドーは、
更に、その賠償金で納品したばかりのかえる運輸からの入金分が全て消えると聞き、
逆にビーチャを平謝りさせるのだった。
746 名前:新ストーリー書き:02/11/20 16:14 ID:???
「あぁ!かえる運輸と言えばっ、ビーチャ、お前、俺とハマーンが出発する時の射出、
アレ、納品前のチェックに使ったろ!?」
「あ?分っちゃった?」
急に思い出したようにまくし立てるジュドーに、ビーチャがあっ気らかんと答えるので、
ふたりのコミュニケーションに拍車が掛かる。
「あんなG、首が折れるかと思ったぞ!」
「お前とハマーンは頑丈に出来てるから、絶対、大丈夫だって計算の上さ!」
「そんな計算あるかよ!?」
ドタバタと狭いミーティングルームを駆け回る大の男ふたりに、
シャングリラ仲間は、また始まったかと呆れ顔をしている。
そんな中、カミーユはセイラの来訪の目的に不安を抱き、
もうひとり、ハマーンは、セイラの思いつめた表情から、
現状と、彼女の立場から想像出来るその心理に胸を痛めた。
768 名前:新ストーリー書き:02/11/24 17:29 ID:???
(兄さんに、こんな風に解り合える仲間がいたなのなら……)
セイラの思考はどうしてもシャアに結び付いてしまう。
兄は今までどんな思いで生きてきたのか。
ただの一度も連絡を取らなかった自分にも、今の事態の責任があるように思える。
「お兄ちゃん!こんなところでいい加減にしなさいっ!」
子供同士の戯れのようになっている、ジュドーとビーチャを一括したのはリィナだ。
その一言で、ジュドーはシュンッと静かになる。
しっかり者の妹に叱られてバツが悪そうな表情は、誰もの心を和ませる。
「もうっ!」
と膨れるリィナには頭が上がらないといった態度のジュドーが、
シャングリラを離れる時、リィナに一言も無かったことを、今更ながらに謝罪した。
「リィナ、黙って留守にして悪かったな」
改めて確認するまでも無く、健康そのもののジュドーに、
リィナは胸に、僅かながらに抱えていた不安が一掃した。
何も分らなかった前の戦争の時には、兄を軍艦に乗る事を勧めてしまう幼い妹だったが、
いくつもの悲劇を目の当たりにして成長した今は、
戦いに行く訳ではないにしても、ほんの数日であろうと、兄の身の安全が心配だった。
「ううん。お兄ちゃんもハマーンさんも無事なら」
心配していた心境を隠して笑顔を見せる妹の姿には、セイラは目が熱くなる思いがする。
(どうして私と兄さんは違う道を……)
そして今、セイラの抱えるハンドバッグの中には、兄を撃つための秘策が納まっている。
769 名前:新ストーリー書き:02/11/24 17:29 ID:???
ジュドーとリィナ――。
この兄妹ならば、妹が兄の命を絶とうなどとは、何があっても思わないだろう。
それに比べ、自分と兄は、笑顔で会話を交わした記憶さえ、
もう色あせた遠い昔の記憶となっている……。
(いつか解り合える時が来るかと思ったけれど……)
悲しいかな、アーシタ兄妹の姿はセイラにとって拷問のようになっていた。
「思い詰めるは、良くない」
いつの間にか厳しい形相になっていたセイラに、ふっと声を掛ける者がいた。
「あなたは……、ハマーン・カーン……」
不確かなものの確認のように、その名を口にするセイラに、
ハマーンは落ち着いた微笑を見せた。
その存在をセイラは、ミーティングルームに彼女が姿を現した時点から気付いていた。
騒ぐ連中を遠巻きに見守る姿は、気高く、知性が溢れている。
770 名前:新ストーリー書き:02/11/24 17:30 ID:???
ビーチャ指揮する輸送船の中、セイラはネオ・ジオンのハマーン・カーンが生存し、
元ガンダムZZのパイロット、すなわち、リィナの兄と共に生きている事は聞いた。
もちろん、信じられない思いはしたが、戦いの中でお互いのニュータイプ能力のためなのか、
敵同士であろうと惹かれあう者があることは、
ホワイトベースのクルーであったセイラには、理解出来る話でもある。
そして、改めてその本人を目の前にし、
かつてメディアで見ていた印象と違っているという思いを、セイラはそのまま顔に表していた。
それを理解出来るハマーンは、セイラを前にまた微笑を見せた。
「ふっ」
やや顔を伏せたものの、その姿に、セイラは適当な言葉を見つけられない。
微妙な雰囲気を先に破ったのはハマーンの方だった。
「困惑するも無理は無い。今の私は滑稽に見える事でしょう」
「そんな……」
決して、相手を軽視している訳ではないセイラは、
ジュドー、ビーチャらの喧騒の中、ハマーンと自分、
ふたりだけが異世界の渦に送り込まれたように感じた。
ハマーンの目を見ると、その中に自分が吸い込まれていくように思える。
それは、セイラにもニュータイプの素養があるが故の現象であり、
互いにそれぞれの立場を理解し、労わろうという思いがあるからこそ、その渦は深くなり、
それをカミーユは喧騒の端からそっと見守っていた。
784 名前:新ストーリー書き:02/11/25 17:23 ID:???
「私は、あの者たちに人として生きる道を教えられた」
「 …… 」
あまりにも唐突なハマーンの言葉に、セイラはやはり返す言葉を見つけられない。
それを解りながら、ハマーンは更に続けた。
「本気で戦った相手だった。本気でネオ・ジオンの邪魔になる者は倒すつもりだった」
ハマーンの目は、相変わらずビーチャやイーノと戯れるジュドーを、真っ直ぐに捉えている。
セイラも、その視線に倣った。
無邪気さを失わないジュドーの笑い顔が、今の沈んだ心に光を灯す。
「しかし、あの子は最後の最後にもこの私に情を掛けるのだよ」
ハマーンのその言葉はセイラの脳裏に、戦闘中の連邦軍のモビルスーツ、ガンダムと、
ジオン軍のとんがり帽子、エルメスを浮かばせた。
殺し合う対象である敵同士でありながら、閃光がきらめく宇宙空間で、
あの2機はまるで互いに求め合うように接近していたように思えた。
それが、ハマーンとジュドーの間でも起きていたと言うのだろうか……。
「ジュドー・アーシタの純粋なニュータイプ能力は、荒んだ私の心を、
馬鹿げた血の世界観に捕らわれず、ひとりの女として生きよと導いてくれた」
ハマーンの言うそれは、先程、真っ直ぐな瞳で礼を言われたセイラには分る気がした。
純粋で優しさに満ちた強さを持つ青年だと直感出来た。
ゆえにセイラはハマーンに対し頷いて見せた。
785 名前:新ストーリー書き:02/11/25 17:23 ID:???
「私は数え切れぬ人間を不幸にしてきた。
あの者たちの中にも、戦いの中、愛する者を失った者さえいる。
しかし、そんな私を仲間だと言ってくれる」
ハマーンから見えるモンドの後ろ姿は、仲間をそっちのけに、
アナハイムの内部をなんとか覗こうと、
作業エリア側のシャッターの制御装置にドライバーを向けている。
(相変わらず、たくましいものだ)
ふっと頬が笑むハマーンの横顔に、
セイラはしかし、ハマーンに対し抱く釈然としない思いを述べてみた。
「地球で怪我をしたリィナ・アーシタを見つけた時、正直、驚きました。
こんな幼い子が、戦いに巻き込まれているのかと」
その目は、ハマーンを責めているようにも見える。
噂に聞いた通り、セイラ・マスは潔癖な性分であるらしい。
しかし、それをハマーンは当然のように受け止める。
今更、過去は取り消せはしないのだ。
「話を聞けば、エゥーゴに参加する兄と引き裂かれ、
ジオンの捕虜になっていたなど……!」
セイラの視線は確実にハマーンに対し、責任追及に及んでいる。
リィナの一件は、グレミーの独断ではあり、
“捕虜”という言葉も適当であるとは思えないが、
ハマーンはそれを自罪のように目を伏せた。
自分もジュドーの切り札としてリィナを使うつもりはあった。
全ては戦いの混乱ゆえの悲劇ではあったが、
10歳足らずだったリィナの負った傷は決して小さくはない。
786 名前:新ストーリー書き:02/11/25 17:24 ID:???
「ネオ・ジオンの勝利のためなら、たとえ幼子であろうと利用する。
それがあの頃の私だった」
決して言い訳するではなく、かつての自分を振り返るハマーンにセイラは息を飲んだ。
リィナの事だけではない。
戦いで死んだ者、傷を負った者、悲しみを背負った者、
全ての不幸を、ハマーンは自らの幸せの中、忘れようとはしていない。
決して取り消す事の出来ない過去の過ちを十二分に知り、心を痛め、懺悔しながら、
それでも、新しい世界を真っ直ぐに見つめようとしている。
セイラには、自分の揺さぶりに動じないハマーンに、真の強さを感じずにはいられない。
これが、自分をその瞳に吸い込ませる原動力なのか……。
787 名前:新ストーリー書き:02/11/25 17:25 ID:???
そんなふたりの雰囲気に遠慮なしにエルの声が飛び込んできた。
「銃口向けられたって、ハマーン、大丈夫だったのー!?」
どうやら、ファと話していたエルは、
カミーユ宅でギュネイとナナイに襲われた一件を聞いたようだ。
「なに、大した事はない」
いつものように冷めたハマーンの口調に、ビーチャの声が続く。
「ったく、無理するなよなぁ!俺たちの前では、いい加減、その鎧、脱いでもいいんだぜ!」
「っふ。お前には見せずとも、見せるべき相手には見せている」
切り替えしがハマーンの方が一枚上手だった。
「ホントかよ!?ジュドー、ハマーンが甘える事なんてあるのか!?」
「それ、聞きたいねぇ!」
話題は摩り替わり、純情に赤面するジュドーが男共に質問攻めにあっている。
その光景に不敵に笑うハマーンは、もはや、すっかり、
シャングリラの青年たちの輪の中に入っているのだとセイラに窺わせた。
そして彼らの存在が、ハマーンを後悔の苦しみから救っているのだとも。
810 名前:新ストーリー書き:02/11/27 15:08 ID:???
ふたりの会話が終わるのを待っていたかのように、
カミーユはハマーンとセイラに歩み寄った。
「はじめまして、セイラ・マスさん。僕は……」
「知っているわ。カミーユ・ビダンさんね」
自己紹介するより先に言うセイラに、
カミーユは「はい」と短く答えて片手を差し出した。
しかしその目は鋭く、セイラの表情の変化を探そうとしている。
相手はよりにもよって、シャア・アズナブルのたった一人の肉親だ。
妹の命の恩人だか知らないが、ジュドーのように能天気に歓迎できる相手かどうかは分らない。
そんなカミーユの疑りを知った上で、セイラはその手を握り返した。
心の隅々までこのニュータイプに見られても構わない。そう意識しての握手だ。
そのあえて開け広げたセイラの思いは、そのままにカミーユにも伝わっていた。
(シャアのスパイではない……?)
それはもちろん、カミーユにもνガンダムを開発するアナハイムにも安心出来る事ではあるが、
第一喚問を通過したというだけだとカミーユは気を引き締める。
そして、黙ったままその手を引いた。
811 名前:新ストーリー書き:02/11/27 15:08 ID:???
「単刀直入に聞きます。シャアが軍を動かしているという今、あなたが何の用でここに?」
カミーユの言葉に、セイラは手にしたハンドバックを握り直した。
女性特有のゆったりとした動きで即答しないセイラの態度が、カミーユを苛立たせた。
十分に言葉を選ぶ必要のあるセイラの事情には構っていられない。
「失礼な言い方ですみません。でも、時間が無いんです。
今、あなたのお兄さん、シャア・アズナブルが何をしようとしているか、
知らないわけではないのでしょう!?」
「カミーユ!そんな言い方……!」
いつからか、カミーユの言動に注意していたファのその声に、
ミーティングルームの一同が一斉に、カミーユとセイラに注目した。
「言い方なんて構ってられるか。今はνの開発を一分一秒でも早く進めたいんだ!」
ファに言い返すカミーユの言葉はこの事態において尤もであり、ファは更なる言葉を飲み込んだ。
「こんな時に、あのシャア・アズナブルの妹を歓迎なんてしてられるなんて、おかしいんだよ!」
それはシャングリラから押し寄せて来た一行と、ジュドー、
更にはハマーンに対しても向けられたカミーユの苛立ちでもある。
812 名前:新ストーリー書き:02/11/27 15:09 ID:???
その発言に対し、声を上げたのは意外にもイーノだった。
「ちょっとカミーユさん、そんな言い方ってないんじゃないかな?」
普段、人に対して……、ましてや、カミーユに対し、
意見などする事のないイーノの言葉は柔和な言い方ではあるが、その行為だけで人を驚かせる。
「カミーユさんは知らないかもしれないけど、セイラさんは、リィナの命の恩人なんですよ。
その人が、悪い人だなんて、僕は疑いたくもない」
プイッとそっぽを向くイーノの見慣れない態度に、ビーチャやエルはあっ気に取られているが、
カミーユがそれで引き下がりはしない。
「ここがどこで、何をしている所か知らない訳じゃないだろ?
子供っぽい感情だけで人を判断していると、取り返しのつかない事になりかねないんだよ!」
「カミーユさん!」
喧嘩口調になるカミーユに声を上げたのはジュドーだ。
「なんだよ!?」と睨み付けるカミーユに、ジュドーは珍しく真面目な顔で言った。
「危機感が無いのは悪かった」
カミーユの言いたい事は、共にνガンダムの開発に汗してきたジュドーには理解出来る。
「でも、セイラさん……、この人、悪い人じゃないよ。カミーユさんだって分ってるはずだ」
「っん……」
それは指摘されなくとも、先程の握手でそれはもちろんカミーユは把握している。
しかし、今の事態を考えれば、子供の友達選びの感覚でいてはいけないのだ。
813 名前:新ストーリー書き:02/11/27 15:10 ID:???
ミーティングルーム内の雰囲気を、著しく悪化させた元凶である自分をセイラは責めた。
恐らく先頭に立ち、ロンド・ベルの新型モビルスーツの開発に励んでいる
カミーユ・ビダンの心配は当然の事であり、
それなのに自分を庇おうとするハマーンを救った青年、ジュドー・アーシタの優しさは、
ますますセイラの自責の念を駆り立てる。
セイラは、無言のまま握り緊めたハンドバックの中から一枚のマイクロチップを取り出し、
目の前の苛立つカミーユに差し出した。
その行動を全員の目が追う。
「なんです?これ……」
それがセイラがここに来た理由である事は分るが、その中身は分りようがない。
受け取ったカミーユは、揺れる金髪の中のセイラの青い瞳を覗いた。
若干、潤っているのが確認出来る。
それだけこの小さなマイクロチップには重大な意味が含まれているのだ。
「これで……」
言って、セイラの瞳がギュッと意識して閉じられた。
それはシャア・アズナブルを兄に持った妹の、大いなる決意の一瞬であった。
そして、次に顔を上げた時のセイラは、決意の末の迷い無い瞳をして言った。
「これで兄を……、シャア・アズナブルを殺して下さい」
その言葉は、全ての者の耳に届き、それぞれの胸に衝撃を与えた。
826 名前:新ストーリー書き:02/11/29 16:29 ID:???
「どういう意味です?」
まるで全員の代表をするように、問題のマイクロチップを受け取ったカミーユが口を開いた。
シャア・アズナブルを……、自分の兄を殺して欲しいなどという言葉は余りにも穏やかではない。
「このチップの中には、兄のモビルスーツと対等に戦えるための資料が入っています」
「 !? 」
それを手にしているカミーユは、セイラの話が途中なのを構わずに、
ミーティングルーム内にあるマシンに飛び付いた。
挿入したマイクロチップの内容はすぐに起動し、モニター上に現れる。
「こ、これは……!?」
カミーユがその内容に目を奪われているその間にもセイラは説明を続ける。
「アムロとは対等なモビルスーツで決着を付けたい。
そんな感情、お分り頂けないと思うけれど……」
セイラの言う言葉の意味は、確かに、理解し難い内容だ。
シャアは自分の首を絞める結果になるかもしれないと分っていて、
ロンド・ベルに新型モビルスーツの秘策を伝えようなどと考えているなど。
「シャアって奴は相当な自信家なのかよ!?」
「同じ百式に乗ってた人とは思いたくないね!」
「敵に情報を与えるなんて、普通じゃないよ」
ビーチャやモンドらの言うことは当たり前の見解だ。
ただひとり、ハマーンだけが分ったような顔をして苦笑を見せた。
それをジュドーは膨れた顔で遠巻きに見ていた。
(ハマーンにはシャアの気持ちが分るって言うの?)
それは、ハマーンの心を独り占めしていると自負する者には、気に入らない事だ。
827 名前:新ストーリー書き:02/11/29 16:29 ID:???
しかし、そんな事を言っている暇は無い。
周りのざわつきを気にもせず、マシンに向かうカミーユのキーボードを弾く動きに導かれるように、
ジュドーもモニターを覗きこんだ。
カチッ!カミーユの指の動きがピタリと止まった。
「どうなの、カミーユさん……?」
その内容が本当にνに搭載できる秘策なのか……、それとも罠……?
さすがのジュドーにもシャアの理解できぬ行動には疑いの余地を持ち合わせていた。
「ザッと見ただけだけど……」
カミーユの言葉に全員が注目する。
「確かにこれを使えば、サイコシステムの動きは格段に良くなる」
言っている本人も信じ難い結果だ。
「それじゃあ……」
“罠ではないのか”セイラの前でその言葉を飲み込むジュドーに、カミーユは頷いた。
「これをネオ・ジオンが搭載してくるなら、こっちも使わなければ、勝てない」
その断定形の言葉は、カミーユ自身にも、ショックという言葉では済まされない衝撃だ。
この、材質に応用する技術を使えば、
アムロの言う敵の波動を強化してキャッチするというアイディアも活かせる。
しかし、それはシャアの慈悲にすがる行為に値し、技術屋としても敗北に値する。
(いつもいつも、こうやって人を見下す……!)
カミーユは無意識のうちに握った拳をデスクに打ち付けていた。
しかし、それを止めよと言う者は誰もいない。
シャアと面識のある無いに係わらず、ネオ・ジオンの総帥のやり方に、
誰もが少なからず元、戦士として苛立ちを抱いていたからだ。
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