
ジュドーとハマーンがくっついてシャアの反乱に出くわしたらこうなったのその6
604 名前:新ストーリー書き:03/01/23 16:24 ID:???
νガンダムの開発エリアの片隅にジュドーとハマーンの声が響いていた。
「だから、なんで走って逃げたりしたのさぁ~」
「別に、私は逃げてなど……!」
「あっれぇ~?そんな事言うの?俺の顔見て走り出したくせに」
一時の抱擁の後のジュドーは、ハマーンに対し極めて意地が悪い。
せっかく仲直りしたというのに、ハマーンの気を逆なでするような事を平気で言うのは、
ハマーンの本心を十分過ぎるほどに知った安心感があるからだ。
「サイコミュのテストがまだ終わっていない。行くぞ!」
ハマーンは硬い言葉でその話題を遠ざけようとするが、
こんなチャンスを手にし、ジュドーが引き下がりはしない。
仕事に戻ろうとするハマーンの横を、わざわざ顔を覗き込むようにして付いて来る。
「俺の事、迎えに来てたんでしょ!?」
ニッコニコと満面の笑みを浮かべるジュドーを、
ハマーンは最高に鋭い目つきで睨みつけるものの、
他の誰かならともかく、今のジュドーに対しては効果は皆無だ。
実際、ハマーンがチェーンを連れて戻って来たジュドーを見るなり、
その場から駆け出した理由が、ジュドーの言う通り、
彼が戻るのを待ち切れなくて、様子を窺いに出たところを発見されたので、
気恥ずかしくなり走り去ろうとしたのだから、
ハマーンの凄む睨みも全開とはいかないらしい。
605 名前:新ストーリー書き:03/01/23 16:25 ID:???
「大丈夫!」
何が大丈夫なのか、上機嫌のジュドーはハマーンの肩を抱き、
反対の手は、子供のように手を振ってムンズムンズと行進の真似をしている。
「俺とハマーンは仲良し!何があっても仲良し!」
「 !? 」
「ね!」
「……っくく」
一瞬あっ気に取られたものの、目の前で快活な口調で言われ、
ハマーンの口元にも笑みが浮かんだ。
今にも戦争が始まろうとしているこの状況で、
しかも兵器開発会社の一角で、笑っている自分が信じられないが、
ジュドーの竹を割ったような性格は、ハマーンにひとりの女として幸福感を与える。
「そうだな……。お前となら、何があっても乗り越えられる気がする」
ハマーンの笑みに、ジュドーはエヘヘッといつもの笑い顔を返すのだった。
(何があっても……。そう、何があってもだ)
ハマーンが心の中で思いを繰り返していた時――。
606 名前:新ストーリー書き:03/01/23 16:26 ID:???
「始まったらしいぞっ!」
ふたりの横を、既に顔馴染となっているピットクルーのひとりが、声を上げて駆けて行った。
「始まったって、何が!?」
「シャアが動いたって!」
「「 !! 」」
ついに……!
ふたりの顔に浮かんでいた笑顔は一瞬にして消え去った。
「テレビで報道されてるらしい!」
既に随分と先を走っているクルーが、上半身だけ振り向いて言うのに誘発されるように、
ジュドーとハマーンの足もひとりでに走り出していた。
662 名前:新ストーリー書き:03/01/27 17:06 ID:???
「どうなってるの?」
開発ピットのすぐ脇――、クルーの休息のために設置されている休憩室には、
ジュドーとハマーンが駆け込んだ時、既にテレビを中心に数名の人だかりが出来ていた。
臨時ニュースとして放映されている風のその映像は、トップのキャスターの解説を既に終え、
宇宙(そら)に浮かぶ艦隊のリアルタイム画像と、
『ネオ・ジオン、スィート・ウォーターを発進する』のテロップ、
画面の左隅には先日のテレビ報道と同じ“総帥”の格好をしたシャアが映っている。
『尚、このネオ・ジオンの動きに合わせ、
地球連邦軍所属ロンド・ベル隊は既に追尾の態勢に入っています』
画面が切り替わり、原稿を読むキャスターのバックには相変わらずシャアの艦隊だ。
ロンド・ベルの画像は無く、ネオ・ジオンだけがクローズアップされるのは、
予めジオンはマスコミに情報提供していたのだろうか。
スィート・ウォーターの独立を……、宇宙と地球の政治の分離を訴えるシャアの思想は、
繰り返し様々なキャスター、解説者の口から発せられ、
冷然と見れば、その様子は情報操作によるマインドコントロールにも見える。
「シャアめ……!」
思わずハマーンが口に出すのは、その手口を経験として分るからだ。
地球では地球連邦軍の都合の放送を流しているのだろうからお互い様だが、
人の思想に大いなる影響を及ぼすメディアを制する策は、
知っていて見る身にとっては、気持ちの良いものではない。
「これじゃ、コロニーがシャアに味方しようって気になっちゃう訳だよな」
ジュドーの目にもその放映の矛盾が理解できていた。
663 名前:新ストーリー書き:03/01/27 17:07 ID:???
「いよいよだな」
「けど、νはまだ未完だぜ」
「だからとっとと造れって、あのチェーンって姉ちゃんが来たんだろ?」
「オクトバーもペコペコしちゃってさ」
「あのアムロ・レイの機体を造ったとなりゃ、ネームバリューが付くからじゃないの?」
苦い表情で画像に見入るジュドーとハマーンの横、
意外にもアナハイムのクルーは、思考が冷めている。
実際、両軍のモビルスーツの開発を一手に担っている企業ともなれば、
戦火が拡大しようとしまいと、ここが危険に晒されるという心配は皆無だからだ。
彼らは、ここアナハイムエレクトロニクス社において、
この安心と、エンジニアとしてのステイタスを得て長くなればなるほど、
画面の中の戦争の風景は自社製品のテレビショッピングかのように見えているのだ。
「νが届かないんじゃ、連邦軍、あっさり負けちゃうんじゃねぇの?」
「けど、あのアムロ・レイだぜ」
「ま、長引けば長引くほど、うちの商品は売れてくれるって訳だ!」
その発言に、ジュドーの目が瞬時に感奮するのをハマーンは見た。
664 名前:新ストーリー書き:03/01/27 17:07 ID:???
「ちょっとあんた、何言ってんのさ!」
どこまで本気なのかおどけて言うピットクルーのひとりの言葉に、
聞き流そうと努めていたジュドーの我慢の糸が切れたのだ。
「戦争が長引けばいいだと!? あんた戦争がなんだか分ってんのかよ!」
言ったクルーの方は、自分が問題発言をしたという自覚すら無いのだから、
ジュドーの怒り様に度肝を抜かれた。
「人と人が殺し合うんだぞ!それを長引けばなんて……!」
発言の主に勢い任せに詰め寄るジュドーの態度に、
他のクルーも当人も、先程までの威勢はどこへやら、青ざめてすらいる。
「あんた達、自分達の造ってるモビルスーツが、
戦いたくて戦ってるって思ってんのかよ!?」
返答次第では、すぐにも殴り掛かりそうなジュドーの眦を決した顔を前に、
相手はプルプルと頬を小刻みに振るだけだ。
「あのガンダムで戦争を終わらせようってつもりで造ってくれよ!
俺もカミーユさんも、アムロさんだって、
そのつもりでガンダムに乗ってたんだよぉ!あんた達……!」
「ジュドー!」
更に怒鳴り声を上げようとするジュドーの腕を、ハマーンは後からギュッと掴んだ。
振り向いたジュドーに、ハマーンの目は「もうそれ以上言うな」と言っている。
「だけど……!」
「企業とはそういうものだ。全ては戦争を繰り返してきた人類が悪いのだっ」
言い聞かせるようなハマーンの言葉は、ジュドーにも刺さる。
急にシュンとするジュドーの横で、ハマーンはまだ青い顔をするクルー達に言い放った。
「社のためでも名誉のためでも構わぬ、ガンダムここにありという機体を造ってみせよ。
戦場は開発を待ってはくれぬのだぞ!」
躊躇無いハマーンの言葉に連中は背筋をピンッと伸ばした。
「戯れは終わりだ。行けっ!」
その言葉をスタート合図のように、ピットクルーはドタバタと休憩室を飛び出した。
665 名前:新ストーリー書き:03/01/27 17:08 ID:???
部屋に残ったのは、ジュドーとハマーンだけになっていた。
「俺も……、戦争の残骸を漁って生活してるんだもんな……。説得力、無いよな」
力ない笑顔を向けるジュドーに、ハマーンはフッと息を洩らす。
「説得力の無さは私も同じだ。
ガンダムここにあり。などという言葉が私に似合う訳が無い」
言われてみればその通りのミスキャストだ。
「けど、やらなきゃな」
「ああ」
自分自身で割り切ってしまえば簡単な事だ。
ふたりはいつまでもネオ・ジオン軍の艦隊を映すテレビに踵を返し、持ち場へと急いだ。
683 名前:新ストーリー書き:03/01/29 17:52 ID:???
その巨体を横たえ、シートに覆われたνガンダムの傍らで資料チェックをするオクトバーは、
徹夜の作業をこなしたクルーにひと時の休息を与え、
施主である、ロンド・ベルのチェーンを待っていた。
昨夜のピットは、ネオ・ジオン軍が動き出したからなのか、
妙にいつもより緊張感が漂っていた。
もちろん、それがジュドーの力説とハマーンの発破によるものだとはオクトバーは知らない。
「サイコフレームねぇ……」
ほんの数分前に装備し終えたこのシステムに、オクトバーは引っかかるものを感じている。
材料開発部が成した仕事だとカミーユは言っていたが、
そんな情報はオクトバーの耳には入っていなかった。
しかし、納入期日が迫った今、そんな事を問題にしている時間はありはしない。
「カミーユ・ビダンか……」
開発リーダーである自分ですら押しやって、
νガンダムの開発の先頭に立つカミーユが言う限り、ミスという事は無いだろう。
オクトバーはチェーンに説明するために、もう一度サイコフレームの資料に目を落とした。
684 名前:新ストーリー書き:03/01/29 17:53 ID:???
その頭上に制服がミニスカートである事も構わずに、
作業ピットを浮遊してくるチェーンの姿があった。
「原因はなんです?重量が3キロ減った原因は」
挨拶も無しに、いきなり本題に入るチェーンの声に、オクトバーは驚いて顔を上げた。
その急いた態度からすると、昨日のうちに渡してあった資料の内容は、
既に全て頭に入っているといった風だ。
「コックピット周辺のフレームの材質を変えたんです。
強度は上がっていますから、絶対危険じゃありません」
オクトバーは内心慌てて説明を加えた。
「当たり前でしょ、弱くなったらたまらないわ。なんで事前に通知して……!」
言いながらチェーンはややぎこちなくνガンダムに取り付こうとしていた。
「納期を十日も繰り上げられれば……」
思わず出たのはオクトバーの本音だ。
しかし、そんな事はチェーンにも、ロンド・ベルにも関係無い。
「…っと」
短い拍子を付けて、チェーンはνガンダムの頭部に着地した。
「それはネオ・ジオンのシャアに言ってください。
あの人がこんなに早く隕石落としをしなければ、こんな事にはならなかったわ」
それは尤もだが、それこそ、開発会社には関係無い。
「これね?」
「はい」
オクトバーの微苦笑など気にせず、チェーンはそこにあるシートを力一杯剥ぎ取った。
「ん……!」
シートが浮遊する下に、その機体……、νガンダムが姿を現した。
(これが……、νガンダム……!)
資料の中でしか対面し得なかった実物に、チェーンは息を呑んだ。
692 名前:新ストーリー書き:03/02/01 02:01 ID:???
「ところでチェーンさん」
νガンダムに見蕩れていたチェーンは、オクトバーの問い掛けに視線を向けた。
「ジュドーたちの件、本当に報告されたんですか?」
ピットクルーは全て休ませてはいるが、オクトバーは自然に声を潜めがちに言った。
当のジュドーらにも、半ば無理やりに休息を与えている。
彼らがニュータイプという人種である事を考慮しても、
このところの根の詰めように、さすがにオクトバーも心配しての配慮だ。
それでもカミーユなどは、ギリギリまで粘って現場に残ろうとするのだから、
責任者としては頭が下がる思いだった。
「それね……」
チェーンはその身をνガンダムの頭部から降下させた。
さすがに今度はプリーツスカートが捲くれ上がるのを、
手にした資料でしっかりと押さえながら。
ストンと自分の横に降り立ったチェーンを見るオクトバーの目は、心配の色を隠せない。
693 名前:新ストーリー書き:03/02/01 02:02 ID:???
「ラーカイラムに入電後、直ぐに回答がありました。
確かに、ブライト艦長は、ハマーン・カーンの生存をご存知でした」
「そうですか!」
オクトバーはホッと息をつき、あからさまに安心した。
「もちろん、これはブライト艦長の一存での事なので、
軍の内部には引き続き極秘にという事で」
「分ってます」
この数日でよほど情が移ったのか、
オクトバーは我が事の様に、チェーンに対し初めて笑顔を見せた。
「それから……」
チェーンは、抱えた資料の中から1枚のメモを取り出した。
「ブライト艦長からの伝言です」
“あの”ブライト・ノアからの伝言に、オクトバーは背筋がピンと伸びた。
それを前に、チェーンは単調にメモを読み上げた。
「ガンダムの開発に最適な人材を選出下さり、ありがとうございます。
多少、跳ね返りな面々ですが、4人の事、よろしく頼みます」
最後に「以上です」と付け加えると、チェーンは顔を上げた。
ブライトはあくまで“4人”と言ってきた。
ハマーン・カーンも、ブライトにとってジュドー、カミーユらと同等なのだ。
アムロからのメッセージが無かったのはチェーンにとっては不満だが、
上官が認める以上、チェーンの頭の切り換えも早かった。
「シャアが動き出した以上、このνガンダム、すぐにも必要なんです」
「分っていますよ。だから彼らにはもうひと頑張りしてもらいます」
今は横たわるνガンダムも、宇宙に飛び立つ日はあと数日後に迫っていた。
694 名前:新ストーリー書き:03/02/01 02:02 ID:???
ふたりがそれぞれの思いでνガンダムを見つめているその時――、
ネオ・ジオン軍とロンド・ベル隊の戦闘は既に始まっていた。
目の前に止めるべき隕石が浮遊しているのに、
それに取り付く事も、止める事も出来ないのは、
宇宙を駆ける連邦軍のモビルスーツ乗りにとって、屈辱の他、何ものでもない。
そして、両軍の多くの兵士の目の前で、その隕石――、
5thルナの核パルスエンジンは点火され、
嫌な光の塊となって地球に向けて加速したのだった。
もうこうなっては誰も止められない。
それを諦めが早いと思うか、冷静な判断と取るかは、パイロットそれぞれの感性だが、
今回の戦闘に勝ったのがネオ・ジオン軍である事は、
核の力と重力に引かれ、地球に向けて落下する5thルナが、はっきりと示している。
この戦場で、アムロ・レイはミノフスキー粒子による電波障害の中、
あの、シャア・アズナブルと再会していた。
赤いモビルスーツ、サザビーと、自分の乗るリ・ガズィの能力の決定的差を痛感し、
シャアの吐く身勝手なエゴに苛立ちを感じながら。
732 名前:新ストーリー書き:03/02/05 01:23 ID:???
「リ・ガズィ、整備に降ろします」
「頼む、ハンナ軍曹」
着艦するや、アムロの機体に泳ぐメカニックのアンナにアムロはいつもの口調で答えた。
これ以上口を開けば、愚痴がこぼれそうな自分をアムロはよく分かっている。
(シャアの奴……、今になってモビルスーツで出るなんて……!)
5thルナで遭遇したサザビーの真っ赤な機体がアムロには腹立たしい。
総帥を名乗りながら、モビルスーツに乗る奴があるだろうか。
しかし、一方でアムロはシャアがこう出る事を予感していたのだ。
でなければ、自分が宇宙に上がった意味が無い。
モビルスーツデッキには、メカニックのチーフであるアストナージの罵声が飛んでいる。
アムロは久々に戦艦に戦いの匂いを感じながら戦闘ブリッジへと上がった。
白兵戦から艦隊戦へと移行した今、コロニーからの援護があれば、
まだ5thルナの足を止められるかもしれないという、期待を持って。
しかし、アムロがそこで目にしたのは、
ネオ・ジオン側の工作により、予定より数が少なくなったサイド2からのレーザー光線と、
当然、そんなものにはピクリとも進路を変えない5thルナの姿だった。
落ちる先に居るべく地球連邦政府はもぬけの殻。
ついでに、シャアに5thルナの推力まで進呈しているときたもんだ。
忌々しい嫌な光は、アムロを嘲笑うように地球に吸い寄せられてゆく。
それはサザビーの……、シャアの高笑いにも見える。
733 名前:新ストーリー書き:03/02/05 01:24 ID:???
アムロは思わずブリッジの壁を打ちつけた。
「情けないっ……!シャアにやられるのを見ているだけだった!」
実際には違うものの、アムロにとってはリ・ガズィでの戦闘も含め、
今回の戦闘はそんなものだった。
「月に行くっ」
「アムロ……!」
我がままっ子のようなアムロの言い方にブライトがキャプテン席から発った。
そんな事は構わずに、アムロは自分の道を行く。
「アストナージ、ゲタの用意はどうかっ?」
「外に用意してますっ」
もたつくようなら当り散らしたい気分だが、
経験を積んだアストナージのフォローは完璧だった。
仕方ないのでアムロの苛立ちは、ブライトの眉間のしわに向けられた。
「この2年間、全部のコロニーを調査したんだぞ。
なのに、なぜシャアが軍の準備をしているのが分らなかったんだ」
思わず似合わない早口になった。
「地球連邦軍は地球から宇宙を支配している。
これを嫌っているスペースのイドは山ほどいる。
ロンド・ベルが調査に行けば、一般人がガードしちまうのさ」
ブライトの言う事はアムロとて、熟知している事だ。
別にロンド・ベルが悪いわけでも、ブライトが悪いわけでもない。
「第二波は無いはずだ。行ってくる。
うまくいけば、スウィートウォーターに入る前のシャアを叩ける」
今度は少し自重して言ってみた。
ブライトと対等になった今となって、そのブライトに当り散らすのは子供染みている。
しかし、だからと言って、思った事を言わないというのとは違う。
「νガンダムに取り憑いている女狐に会ってくるさっ」
「女狐……?」
ブライトの疑問に答えるまでもなく、アムロは戦闘ブリッジを後にした。
734 名前:新ストーリー書き:03/02/05 01:25 ID:???
アムロが再びデッキに下りると、
アストナージの手配は完璧で、カタパルトデッキには火の入ったゲタ――、
モビルスーツの足の役割を果たすベースジャバが待機していた。
「すまないっ」
「あっ、大尉……」
メカニック用のノーマルスーツを着てチェックをしていたアストナージに、
パイロットスーツのアムロはバイザーを接触させて礼を言った。
男同士で気持ちのいいものではないが、声を振動で伝えてくれるので仕方が無い。
バイザーの奥にアストナージのやや垂れた、人の良さそうな目が見える。
「確か……」
「なんです?」
チェックを終えたアストナージもアムロを見た。
735 名前:新ストーリー書き:03/02/05 01:26 ID:???
「アストナージはアーガマ、ネェル・アーガマと乗艦していたよな」
「ええ。ハンナ軍曹もそうですが」
「ジュドー・アーシタって……」
アムロはチェーンからの入電にあった名前を思い出して言った。
「ZZの……?ジュドーがなんです?」
アムロとジュドーの繋がりなど想像も付かないアストナージは、
今の艦の雰囲気とは全然違う、賑やかなネェル・アーガマを思い出しながら先を急いた。
「いや、どういう子なんだろうかって思って……」
「どういう子って……、騒がしいガキでしたよ」
今頃、アムロ・レイともあろう人が何を言い出すのかと思ったが、
アストナージは素直な所感を述べた。
言い方は雑だが、別にそれが気に入らなかったという訳ではない。
「最初は個人的な理由で戦ってましたが、そのうち、何を倒すべきか、
とか、分ってきたみたいで、子供のくせによく戦ってくれましたよ」
「ハマーン・カーンと……?」
「ええ。最後は一騎打ちでした」
「一騎打ち?」
それはアムロの経験上、戦争という舞台において有りえないシチェーションだ。
「よく分からないんですがね、ハマーンの方がそれを望んだようで……。
尤も、あの時、ネェル・アーガマにはZZと百式しかぐらいしか残ってなかったんで、
こっちとしては助かったって感じもあるんですがね」
「そうか……」
アムロのこんな質問は腑に落ちないアストナージは、
バイザーの中のアムロの顔を覗き込んだ。
「大尉……?」
「いや、ありがとう。行ってくるよ」
軽く手を上げてベースジャバのコックピットに泳ぐアムロの背中を、
アストナージはやはり怪訝そうな顔のまま見送った。
(一騎打ちか……。それじゃ、ハマーンが生き残っていても誰も知らないわけだ)
アムロはジオンの紋章を背負ったハマーンの姿を頭に、ラーカイラムから飛び立った。
781 名前:新ストーリー書き:03/02/11 14:58 ID:???
装甲の最終チェックを、後輩クルーとしていたミリィは、
「アナハイムはネオ・ジオンのモビルスーツも建造してるんですよ」
という場に合わない華やいだ声に顔を上げた。
ミリィたちが登っているνガンダムの機体の下を歩く三人組の姿がある。
相方の若いクルーも、何事かと手にしていた計器から声の方向に目を向けた。
それが先日からνガンダムの受け取りにやって来ている
チェーン・アギの声である事は分っているが、
「本当か?」
と反応する声の主にふたりとも目を奪われたからだ。
「アムロ・レイ……?」
「そのようですね」
ロンドベルの制服に身を包んだ、
青年と言うには少し年を取ってしまった、大人の雰囲気の男は、
テレビや雑誌で見知っている“ニュータイプのアムロ・レイ”よりも、
だいぶ落ち着いた印象だとミリィは感じた。
とても、パイロットでもないのに当時、
連邦軍にとって最高機密だった兵器に無許可で乗り込んだ少年とは思えない。
782 名前:新ストーリー書き:03/02/11 14:59 ID:???
「隕石ひとつ、落とされたって割に余裕ですね」
「なにが?」
「いや、だから……、アムロ・レイですよね?わざわざこんな所まで来るなんて……」
アナハイムの閉鎖社会の技術者らしい考え方だ。
「分ってないわね。人に運搬させてる時間も惜しいほど、現場はコレを欲しがってるのよ」
「そうなんです?」
アナハイムの社員でありながら、現場……、
戦艦に乗った経験のあるミリィだから分る、緊張感だ。
アムロ、チェーン、オクトバーの一行はミリィの思った通り、
真っ直ぐにコックピットへ向かう。
「案外、あのチェーンって子、迎えに来ただけかもしれませんよ?」
「ええ?」
後輩の軽口に思わずムッとするミリィだが、タイミング悪く
またチェーンのはしゃいだ声が聞こえてきた。
「ふんっ、何がチャーミングよ!?」
ミリィの地獄耳には断片的にでも会話が聞こえていた。
同じ技術者なのに、この差はどういうことなのか!
「ほら!手は休めないで!仕事なさい!」
クルーの方は八つ当たりされたようなものだ。
ミリィはいつの間にか、故エマリー・オンスの口調に似てきているのだった。
783 名前:新ストーリー書き:03/02/11 15:00 ID:???
そのミリィに勇敢にも声を掛ける者がいた。
サイコミュ実験室から出てきたカミーユとジュドー、ハマーンだ。
「アムロさん、来てるんだって?」
ミリィに訊ねるカミーユの表情は、ここに来てから一番に浮いている。
「ええ。あちらよ」
不機嫌な声と目で示すミリィの視線の先は、νガンダムのコックピットだ。
「チェーンさんったら、あんなに喜んじゃってさっ」
カミーユのうしろから見るジュドーにすら、チェーンとアムロの関係が一目で分った。
のに、カミーユは「 ? 」という顔をしている。
「そんなに頭固いと、ファさんに嫌われちゃうよ」
「なっ!?」
事情も分らず、ただとにかく、バカにされたとだけ判ったカミーユが放った拳を、
笑いながらジュドーがかわしていられるのは、
今の今までで自分たちが担当したサイコミュに関する開発、実験、調整が終了したからだ。
もちろん、これでνガンダムが直ぐにも実戦に投入出来る訳ではない。
νガンダムが量産機ではない以上、
パイロットであるアムロ・レイ個人の脳波に適合させなければならないし、
実戦装備にまで携わるとなれば、例によってまた夜を徹した作業となる覚悟は出来ている。
しかし、そのアムロ・レイが直接来た以上、作業ペースが格段にアップする事は間違いない。
今はほんの一時の休息だと3人共が分っている。
784 名前:新ストーリー書き:03/02/11 15:01 ID:???
もちろん手加減はしてのパンチが何発かジュドーの体を撃った後。
「仕事が終わったからって、ジュドーとここで遊んでるつもりはないんだよ!」
最後と決めて撃ち込んだ一撃を、真正面で両手でキャッチされたカミーユは、
ふて腐れ半分で、ブンブンッと手を振ってジュドーから離れた。
「俺は、アムロさんに挨拶するんだ!」
「ちぇっ!」
いい年して遊び相手に去られてジュドーも子供のような膨れっ面を見せている。
「ジュドーもハマーンも来るだろう?」
置いてきぼりかと思いきや、振り向いて聞くカミーユに
「俺たちは後でいい!」
とジュドーは答えた。
理由は言いもしないし、カミーユも聞きはしなかった。
「アムロ・レイ……、か……」
「ハマーン?」
「いや」
ハマーンの独り言だった。
「ひと段落した事だしさ、ちょっと抜けない?」
「 ? 」
カミーユと違いアムロ・レイと面識の無いジュドーにとって、
別段、彼は急いて会わねばならないという人物ではない。
「分った。いいぞ」
アムロに会う事に対し、珍しく緊張感を覚えるハマーンもそれに同意した。
二人の影はそっとνガンダムの傍から消えた。
805 名前:新ストーリー書き:03/02/17 17:34 ID:???
「しかし、この技術、君も知らないと言ったな?」
コックピットの中、モニターを起動させたアムロが
問題にしているのは、サイコフレームの事だ。
自分のアイディアが元になっているとはいうものの、
情報源の得体が知れないのでは、乗るものにとっては気持ちが悪い。
ましてや、今のアムロにはここ、アナハイムに引っかかる存在がある。
「材料開発部門から流れてきた情報です」
「だから、部隊に帰ってもフレームのテストはしたいんです」
「分ってますよ」
「まさかこの情報――」
オクトバーとチェーンの会話に割り込むように、アムロは口を開いたが、
「――アムロさん!」
言いかけたアムロの前に現れたのは、カミーユだ。
806 名前:新ストーリー書き:03/02/17 17:34 ID:???
「カミーユ……?カミーユ・ビダン!」
「お久しぶりです!」
それは男同士……、戦友同士の再会だった。
アムロの顔を見たらホンコン・シティを……、
フォウの事をリアルに思い出し過ぎるのではないかと、
カミーユはこの再会を内心危惧したのだが、
実際にアムロの顔を見ても、カミーユの心に異常な動揺は走らなかった。
フォウの死を受け止めて既に5年が経過している。
アムロがララアを心に住まわせたように、
カミーユもまた、フォウの存在を、彼女との僅かばかりの思い出一緒に心に焼き付け、
そして、確かに自分の中に存在し続けていると感じるようになっていたのだ。
それが出来たのは、カミーユの傍らに常にファがいたからであり、
そしてそれは、同じ経験をしたアムロにとっては、
かつてのベルトーチカであり、チェーンであるのかと、カミーユは今になって思った。
(あぁ、ジュドーの言っていたの……、こういう事か……)
あんな離れた場所から、アムロとチェーンの関係を見抜くなんて、
年下のくせに、ませた奴だとカミーユは腹の中で舌打ちをした。
807 名前:新ストーリー書き:03/02/17 17:35 ID:???
「これの開発に携わってくれたそうだね」
「オクトバーさんとは元々知り合いだったんです」
アムロの口調はかつての時代の波から埋もれた雰囲気は無く、
宇宙に出て、やるべき事を見つけたからなのか、精気に満ちている。
カミーユがそう感じるのと同じように、
アムロもまた、カミーユが全ての事柄から吹っ切れていると感じ取った。
フォウの事だけではない、宇宙でカミーユの身に何があったのか、
アムロにも情報は入っていた。
「よく完治してくれた」
「つまらない戦争で、人生失うのは馬鹿げてますからね」
「そうだな」
カミーユが経験上から何気に言った言葉にアムロは少しトーンを落として同調した。
自分とシャアはつまらない戦争を舞台に、人生を賭けている。
いつ終わるとも分らずに、今まで来たが、
これで最後にするつもりがアムロには十二分にある。
そして、カミーユもアムロにはそうして欲しいと願っている。
808 名前:新ストーリー書き:03/02/17 17:36 ID:???
「サイコフレームですね?」
「ああ」
急に話題を変えるカミーユにアムロも驚きもせずに対応した。
「一応、サンプル用に脳波記録が採ってありますが、チェックされます?」
「そうだな。信用してないという訳ではないが」
「分ります」
チェーンやオクトバーと話すよりも、
カミーユの説明にアムロは絶対的な安心を得られる気がした。
同じ立場を経験した者同士のポテンシャルの高さからだろうか。
そしてもちろん、その安心を崩さぬために、
カミーユはこのシステムがシャアの手引きでもたらされたとは、一言も言及しなかった。
「サイコミュ実験室があります。そこで説明させてもらってもいいですか?」
「ああ。もちろんだ」
アムロを促がすカミーユをチェーンは疎ましそうに見た。
同じνガンダムに携わる者同士、技術者としての遅れを感じるのと、
見当違いなアムロを巡る嫉妬の両面による感情だ。
「νガンダム、すぐにも持って帰るぞ」
去り際のアムロの言葉に、オクトバーはまた青くなっている。
「実戦装備にあと3日は必要です」
「駄目だ」
「そうよ、駄目よ」
アムロに強く同調して見せる事で、チェーンは自分の存在をアピールしてみたが、
アムロの姿は既に後ろ姿になっていた。
(何よ、ニュータイプ同士だからって!)
心の中で舌を出すチェーンの目は、今度はアムロ達に近づく女の姿を見た。
「大尉!」
女性特有の神経質な部分に刺激され、チェーンは慌ててアムロの背中を追いかけた。
833 名前:新ストーリー書き:03/02/18 17:39 ID:???
アムロらと話す女は……、何の事は無い、ファ・ユイリィだった。
たまたま居合わせ、実験室にジュドーとハマーンはまだ居るのかとカミーユに聞かれ、
「あのふたりなら、リィナとセイラさんに会いに行ったわよ」
と答え、アムロを仰天させた。
「セイラさんがここに……、グラナダに来ている!?」
アムロにしてみれば寝耳に水だ。
そんなアムロの態度に、カミーユはファをジロリと睨んだ。
セイラの存在が知れれば、当然、彼女がグラナダに来た理由が問題となる。
サイコフレームの情報源をアムロに知らせるは得策ではないと判断するカミーユにとって、
ファがもたらした情報は余計なこととしか言いようが無い。
「セイラ・マス……、シャアの妹って人は、
ここでνガンダムが開発されてるって聞いて、激励に来てくれたんですよ。
大した肝の据わった人ですね」
「セイラさんが!?」
カミーユの言葉をアムロが鵜呑みにするとは思えない。
それでも、セイラがシャアを抹殺して欲しいと願っている事は伝えなければならない。
834 名前:新ストーリー書き:03/02/18 17:39 ID:???
「なぜ報告しなかった?」
アムロの視線はチェーンに向けられた。
「報告って……」
チェーンの目が宙を泳ぐ。
アムロがアナハイムに到着して以来、νガンダムの開発に関する報告ばかりで、
個人的な話などする時間は皆無に等しかった。
その状況下でも、シャアの妹であり、アムロにとっても縁のある彼女の事は、
やはり報告しておくべきだったのかもしれない。
非を自覚し、また、内容が内容なだけに、チェーンの声はますます弱まった。
「セイラさん……。彼女は地球に降りたいって……」
「地球に!?この状況でか!?」
「もちろん、私もジュドーも止めました!でも、意志は固そうで……」
まるでチェーンを責めるような勢いのアムロに、ファが慌てて言葉を挟んだ。
「だからジュドーとハマーンが、今、会いに行っているんです!
それにこんな危ない時、シャトルが出るはずは無いし大丈夫ですよ!」
ファが言うように、シャトルが飛ぶはずが無い状況ではある。
しかし、それでも意志を通すのがセイラ・マスという女性なのだ。
アムロにはそれが分っている。
しかし、同時に、今の自分が成さねばならない事も熟知している。
「……分った」
アムロの苦渋の声に、チェーンの胸はギュッと縮んだ。
「サイコフレームの解析サンプル、説明を頼む」
カミーユと再び歩き始めたアムロの背中は、いつもと変らない頼れる上官に戻っている。
が、その心の中に潜むのは寝言で言うララアだけでは無いのだろうか。
(いつも私は大尉の背中を見ている……)
チャーミングと言われ歓喜した直後のだけにチェーンの落胆は激しかった。
920 名前:新ストーリー書き:03/03/03 18:13 ID:???
アムロの来訪を知っていながら、アナハイムを抜け出そうとするジュドーとハマーンは、
真っ直ぐにカミーユの自宅へ向かうつもりでいる。
ファから鍵を渡されたリィナが、そこにセイラを留まらせているはずだった。
しかし、ジュドーはもちろんそれを願いながらも、
そこを訪ねてセイラに会えるという可能性は少ないと覚悟していた。
(あの人、意志が強そうだもんな……)
ほんの数回あっただけの人物だが、ジュドーの動物的勘がそう警告している。
「ジオンの子供ってだけで……。大変だよな」
思わず本音が零れ出た。
「スペースノイドにとって、ジオンの存在は未だ大きい。
彼女はあえてそれを遠ざけて生きようとしていたのにな」
「シャアがまた動いたから……?」
「そういう事だ」
ハマーンの表情にも影が落ちている。ハマーンもまたシャアに翻弄された女なのだ。
「後は、アムロさんに期待するしか」
「ああ」
“逢引き”というには程遠い会話をするふたりは、
ようやく辿り着いたアナハイムの正面ゲートからグラナダ市街へと続く表へと出た。
5thルナが地球に落下したという今をもってしても、
そこには何ら変化のない平穏な光景が広がっている。
同じ地球圏で戦争が起きている事など信じられないような平和がそこにはある。
そして、その平和な光景の中、何故だかリィナの姿があった。
921 名前:新ストーリー書き:03/03/03 18:14 ID:???
「リィナ!?」
「お兄ちゃん……」
アナハイム社の中に入ろうにも入れなかったのか、
それとも入る決意が出来ていなかったのか、落ち込んだ表情を浮かべるリィナは独りきり。
それがリィナの落ち込みの理由だ。
「……そうか」
ハマーンがひとり呟いた。
「ごめん。あたし、セイラさんを……」
それだけで全て分る。セイラ・マスは地球に降下したのだ。
涙目のリィナの頭をジュドーはそっと引き寄せた。
リィナもラサが壊滅的なダメージを受けた映像をどこかで見たのだろう。
ジュドーの胸の中で涙を抑え切れず震えている。
「大丈夫だよ、リィナ……。地球は広いんだ。
セイラさん、何も危ない所に降りたりなんか……」
言い掛けたジュドーの目に……、いや、脳に、不意にビジョンが浮かんだ。
「 ! 」
思わず見開いた目に、今度は実体のあるリィナの困惑した顔が映る。
「お兄ちゃん……!」
リィナにも“それ”は見えていた。
「あ、ああ……」
ふたりの感じ過ぎる感受性は、
セイラの姿をイメージの中で探し求め、その姿を捕らえていたのだ。
922 名前:新ストーリー書き:03/03/03 18:15 ID:???
少し意識をすると、ビジョンは輪郭をもハッキリと浮かび上げ、
ジュドーとリィナの心のモニターに鮮明に映し出した。
地球のどこか……。砂嵐が吹き付ける荒野で、セイラは人命救助に加わっている。
セイラは必死に負傷者を吹き荒む強風から守ろうと、実の兄が招いた異常気象と戦っている。
が、その規模は計り知れなく、セイラの目の前で力尽きる者、
子供だけはと胸に大事に抱き命尽きている母親、家族とはぐれ泣き叫ぶ幼子、
軍人でもない、兵士でもない人間が、
ただそこ――、地球連邦軍の本部のあるラサ近郊にいたというだけで、
言いようのない苦しみを感じているのだ。
「くっそぉ……」
「ジュドー」
奥歯を噛み締めるジュドーにハマーンは言葉を探した。
ハマーンにもジュドーとリィナが何を感じているのかは見えている。
が、名前を呼ぶだけで精一杯だ。
そしてそのジュドーは、何かに弾かれるようにリィナを急に引き離した。
923 名前:新ストーリー書き:03/03/03 18:15 ID:???
「お兄ちゃん……!?」
リィナが見上げたジュドーの目は強い意思を孕んでいる。
「リィナはファさんの家にこのまま世話になってろ」
「ジュドー……?」
ジュドーの言葉と強い瞳にハマーンもたじろいだ。
いつもの瞳とは明らかに違う。
「ファさんのところに……。分ったな?」
「う、うん?」
強く言うジュドーに、思わずリィナは頷いた。
ただ、兄の瞳は何か決意をしている。リィナにはそれが分った。
ジュドーはリィナの涙が乾いているのを見届けると、意を決したようにリィナに背を向けた。
そして、ジュドーの変化に慄くハマーンに短い言葉を言った。
「ごめん」
ハマーンはその一言で、ジュドーの思いの全てを理解した。
945 名前:新ストーリー書き:03/03/07 18:00 ID:???
「待て、ジュドー!お前が動いて何になる!」
ハマーンの前を力強い足取りで通過するジュドーにハマーンは声を上げた。
「ハマーンもファさんの所にでも行ってろ!」
「なっ……!?」
ハマーンはジュドーの前に回りこんだ。
そこで見えたジュドーの目は、
かつて自分を追い詰めたエゥーゴのエースパイロットの目をしている。
「バカも休み休み言え!お前はアムロ・レイに全てを託すつもりで……!」
「そうだよ!けど、あんなの見ちまったんだ、黙っていられるか!」
その体は怒りで震えている。
「シャアのバカにガツンとやってやらなきゃ、気が済まないだろ!」
「だからアムロ・レイに……!」
「俺が怒ってるのをどうして人に預けられるのさ!」
「しかし……!」
ハマーンの説得など聞く耳を持たないジュドーの足は、
元来たνガンダム開発ルームへと着実に向かっている。“それ”を使うつもりなのだ。
周りの警備も、アナハイムの社員も、気にせずに走り出すジュドーを
ハマーンは、ただただ追いかけるしか術は無い。
ジュドーの怒りは分る。
今までおとなしくしていた方が不思議だったのかもしれない。
ハマーンが暴走するかもしれない。そうしたら自分が止めなくては。
そんな思いがジュドーのストッパーになっていた。
しかし、リィナと共にセイラを通して見た、
ラサの惨憺たる光景はジュドーの使命感を再起させた。人に託してなどいられない。
「俺が……!」
この瞬間、ジュドーの頭からハマーンの存在は消えた。
「悲しみの根源は絶たなきゃいけない!」
「ジュドー!」
946 名前:新ストーリー書き:03/03/07 18:01 ID:???
追うハマーンは、自分が何のためにジュドーを引き止めようとするのか混乱している。
νガンダムはアムロの機体だからか。
一機でジオンに立ち向かっても勝ち目は無いからか。
ジュドーを危険に晒したくないからか……。いや、違う。
(私は私(ワタクシ)の理由でジュドーを手放したくはないのだ)
ハマーンは女の感情でジュドーを行かせまいと叫んでいる。
ジュドーの正義感も、シャアの犯した隕石落しも関係なく、
自分が愛しい人と離れたくはない。
ただそんな、ありふれたつまらない女の感情でジュドーの後を追っている。
それを分るから、ハマーンの足はいつまでもジュドーに追い着けない。
それを口に出来るほど、ハマーンは女に成り切れてはいない。
947 名前:新ストーリー書き:03/03/07 18:01 ID:???
「ジュドー……!」
ハマーンの何度目かの叫び声がνガンダム開発ピットに響き渡った時、
ジュドーはすでに横たわるニューガンダムのコックピットの真下にいた。
「誰か……!誰かジュドーを止めろ!」
その声に作業を進めていたピットクルーも、
サイコミュ実験室の中にいたカミーユ、ファ、チェーンそしてアムロも飛び出してきた。
「何をしている!」
最初に叫んだのはアムロだ。
「あんたに任せるつもりだった。けど、気が変った。悪いけどコレ、俺が借りるから!」
ジュドーは、手際よくコックピットの開閉装置を操作する。
モビルスーツの扱いはお手の物。もう、Zを盗もうとした時のようなドジは踏まない。
「何を言ってる!?」
「ジュドー!どういう事だ!?」
カミーユにもジュドーの奇怪な行動は理解出来ない。
さっきまでアムロのために仕事をしていたというのに。
948 名前:新ストーリー書き:03/03/07 18:04 ID:???
「待て!ジュドー!」
ハマーンの再三の叫びも虚しく、
コックピットはプシューッと短くエアを吐き出してパイロットを迎え入れた。
「カミーユさん、ハマーンの事、よろしく!」
ぬけぬけと言うジュドーにカミーユは奥歯を噛んだ。
「ハッチ、絶対に開くなよ!」
「もう!ジュドーったら!」
オクトバーとミリィは構内の開閉装置の電力供給を遮断する指示を素早く出す。
「んなことやったって、吹っ飛ばされるだけでしょうが!」
コックピットのジュドーは、運が良いのか悪いのか、
同じ構内に最終点検を終えて納入してあったライフルに、νガンダムの手を伸ばした。
「どういう子供だ!」
構内でビームライフルを構えるνガンダムの姿に駑馬したアムロは、
音もなく腰の拳銃を手にし、愕然とνガンダムを見上げるハマーンの背後に近づくと、
素早くその両手を羽交い絞め、こめかみに銃口を当てた。
「――っ何を!?」
ジュドーにも匹敵するアムロの奇行に、ハマーンは目を見開いた。
が、目の前にあるアムロ・レイは冷然たる顔で
「奴を止めろ」
と言い放った。
968 名前:新ストーリー書き:03/03/11 16:41 ID:???
その行動の異様さに、カミーユらの目もアムロとハマーンに釘付けとなる。
ガスーンガスーンッ!
ライフルを手にしたものの、本当に爆破など出来るわけ無く、
出口の無い構内を意味なく歩き回っていたνガンダムも、
ハマーンの置かれた妙な立場に気付いた。
「ハマーン!?」
ガスーンッ!
νガンダムのメインモニターがアムロとハマーンを正面に捕らえる。
「アムロさん!あんた何を……!」
コックピットの中、思わず身を乗り出すジュドーの目に、
締め上げられたハマーンの腕も、こめかみに接触する銃口も、ハッキリと見える。
「ハマーン・カーン、あなたの指示なんだろう。奴を降ろすんだ」
「 ! 」
その言葉でハマーンは、アムロの行動の意味を悟った。
そしてその低い声は、アムロの行動を凝視していた者のひとりひとりにも聞こえていた。
「大尉……!?」
この時になってチェーンは気が付いた。
ラーカイラムからの回答がアムロからではなく、ブライトからであった理由を。
アムロははじめからハマーンの事を信用してはいなかったのだ。
「お前は、この私がジュドーを利用して決起すると……?」
ハマーンの口調に動揺は見えない。
もちろんアムロも、ハマーン・カーンたる者、
銃口の存在を物ともしない態度は想像していた。だから臆せずに答える。
「あなたは5年前、ネオ・ジオンにはもはや余力が無いと分っていて、
ジュドーとの一騎打ちに出た。
そして感じやすい少年の心に入り込み、世間に戦死を見せかけて生き延びた」
「勝手な推測だな」
「そうかな?」
アムロはハマーンの腕を締め上げる力を緩めはしない。
969 名前:新ストーリー書き:03/03/11 16:41 ID:???
一方、コックピットのジュドーには、ふたりの会話は聞こえない。
「何やってんのさっ!?」
ジュドーはただモニターの倍率を上げて凝視するだけしか出来ない。
「6年前のエゥーゴ、ティターンズ、アクシズの三つ巴戦の時、
シャアを逃がしたあなたなら、考えつきそうな策だと思うが?」
「私がシャアを逃がした?」
「混乱に乗じて行方不明にさせる……。
あなたはあそこでシャアを無駄死にさせたくはなかった」
「顔に似合わず豊な想像力だな。しかし違うよ」
未だ余裕の表情のハマーンは、アムロの馬鹿げた妄想に嘲笑すら浮かべている。
(これが20歳でジオンを手中に収めた女……!)
この状況下で相手を見下すハマーンの自尊心に、アムロは驚愕した。
が、それを表に出してしまうほどアムロも子供ではない。
「シャアが動いた今、νガンダムを持参すれば迎え入れてもらえると思ったのか」
あくまでも断定的な言葉で責める。が、
「ふん。ニュータイプの先駆けと言われた者が……。
ただの戦闘マシーンに成り下がったかっ!」
逆にハマーンはアムロに威喝する。
しかしその姿が、会話の聞こえないνガンダムの中のジュドーを苛立たせた。
硬直していた巨体がジュドーの心の乱れを表すようにゴトリと動く。
ニヤリ……。僅かにアムロの口元に不敵な笑みが浮かんだ。
その笑みをハマーンは見逃しはしない。
「どうしたジュドー君!君が開発したその機体は、木偶の坊か!?」
「ジュドー!よせっ!」
ハマーンの声を畳み掛けるようにアムロの挑発は続く。
「君が生身の人間を撃てない事は知っている!」
「何をぉ~!」
「やめろジュドー!挑発に乗るな!」
ハマーンの制止に構わず、ジュドーの手足は動いていた。
11 名前:新ストーリー書き:03/03/16 01:33 ID:???
――ガチャリ。
νガンダムはライフルをアムロに向けた。
「アムロさん、あんた、ハマーンから離れろよ!」
巨体に似合わない素早い動きはジュドーだから成す技だ。
が、アムロに……、連邦軍軍人に向けたライフルが、
何を意味するかをジュドーは分っていない。
分っているハマーンは、アムロに拘束されたまま「クッ」と息にならない息を吐いた。
「なるほど。彼ならあなたの口車に乗るわけだ」
「――貴様っ!」
アムロの口振りにハマーンはその身を振り解こうとした。
向けられた銃口などに脅えるハマーンではない。
ハマーンは素早い動きでアムロの腹に膝蹴りを見舞う――!
――はずだった瞬間、構内の空気が急に流れ、ハマーンの頬に乱れた横髪が触れた。
ドズ―――――ンッ!!
アナハイム社が縦揺れの衝撃に襲われる。
初振が過ぎても余震が続き、構内のアチコチに部品やら機材が散乱している。
混乱に乗じてハマーンはアムロの腕からすり抜けた。
「っち!」
舌打ちしたアムロの目の前に、νガンダムの巨体があお向けになっている。
そして、νガンダムの足元には2台のエレカに分乗するオクトバーとミリィだ。
2台の間に張られたワイヤーでνガンダムの足を取った。実に原始的な作戦だ。
12 名前:新ストーリー書き:03/03/16 01:33 ID:???
「うわぁー!」
コックピットの中のジュドーは当然、ベルトなど付けておらず、
不意の横転に球体のコックピットの中をゴロンゴロンと転がされていた。
「同じ手に何度も引っかかるなんて……!」
Z強奪の時の事が思い出される。
「こっちは経験積んでるってのにさっ!」
思わず愚痴を叫びながら、再び体勢を整えようとペダルとレバーの操作に入ろうとした時、
コックピット内に空気の流れが生じ、正面のモニターがただのハッチに戻った。
「なんでっ!?」
言った刹那、開いた隙間からシーケンサーを手にしたカミーユの怒り顔が見える。
外部からプログラムを操作し、強制的に開放したのだ。
「もう終わりだ、ジュドー。出て来い」
「カミーユさん!」
「ハマーンを反逆者にしたくはないだろう!」
「えっ!?」
ジュドーはやっとアムロがハマーンに向けた銃口の意味を知った。
(そういう……、事……?)
慌てて残ったモニターの一部に写し続けるハマーンとアムロの位置を見た。
何故だかそこには、姿勢を立て直そうとするアムロひとりの姿しかいない。
「あれ!?」
言うとすぐにジュドーはνガンダムなど放棄し、カミーユの横から顔を表に出す。
「あぁ、ハマーン……!」
ジュドーはこちらに向かうハマーンを見つけ、子供のような声を上げた。
13 名前:新ストーリー書き:03/03/16 01:34 ID:???
ジュドーが見るハマーンの姿を、反対に後ろ姿として見るアムロがいる。
「あの女ッ!」
アムロは拳銃の照準をハマーンの背中に合わせた。
腰を低く、模範的な構えだ。アムロに迷いは無い。
――が、そのトリガーを引くことが出来ない。
「――ラ、ララァ!?」
アムロの目がロックするハマーンの後姿の手前……。
そこにアムロはララァの姿を見た。夢で会う、ララァ・スンだ。
(ダメよ。アムロ)
浮いているのか、泳いでいるのか、浮遊するララァは、
ハマーンの姿を照準に入れようとするアムロの行為を邪魔する。
(何故だ!ララァ!)
(あの子は私がシャアに……)
(――あの子っ!?)
アムロが心の中で叫ぶと、ララァの姿はふわりと消えた。
姿が消えるのと同時に、アムロの脳に直接聞こえていた声も消えていた。
「どういう事だ!」
思わず声に出た。
が、すぐにアムロは状況を思い出した。拳銃は手にしたままコックピットに向かう。
チェーンの悲しげな目は、アムロのその一連の動きを見ていた。
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