
ジュドーとハマーンがくっついてシャアの反乱に出くわしたらこうなったのその7
25 名前:新ストーリー書き:03/03/19 17:13 ID:???
νガンダム開発エリア内にあるブリーティングルーム――。
部屋のドアには鍵がかけられ、銃口こそ向けられてはいないが、
目の前にいるアムロの腰のホルダーには、相変わらずが鈍い光を放ち、
それだけが理由ではないのだが、この部屋には重苦しい空気が漂っている。
「だから俺はシャアを撃とうと思って……!」
部屋に入れられてから、一言も口を利かないハマーンとは対照的に、
ジュドーは、もう何度目かも分らない説明を声を張り上げて言った。
「ジュドーの言っている事に嘘はないですよ。
もちろん、ハマーンにも何も策略はありません」
自分から同席を願い出たカミーユも、横からジュドーを援護した。
……が、当のアムロの顔はジッと一点を見詰めたまま、話を聞く態度ではない。
26 名前:新ストーリー書き:03/03/19 17:14 ID:???
(あの子……?)
アムロの頭の中にララァの言い掛けた言葉が残っている。
『あの子は私がシャアに……』
ハマーンの背中に照準を合わせるのを妨害したララァが言った言葉だ。
(ララァは俺だけでなく、シャアの心にも……)
少年のような傷心振りにアムロは、自分自身を失笑した。
一年戦争の末期、シャアのゲルググを庇ってエルメスと共に宇宙に散ったララァは、
自分と心を通わせていたと、アムロはずっと思っていた。
幾度となくアムロはララァと夢の中で会った。
自分ひとりの心の中にララァは生き続けていると、今の今まで思っていた。
しかし……。ララァは言った。
『あの子は私がシャアに』
それは、ララァがシャアとハマーンの出会いを知っているという事だ。
ハマーンがシャアの後押しによって、地球圏の果て――、
アクシズで、ジオンの摂政に就いたのがU.C.0083。
一年戦争終結後であり、当然、ララァの肉体が消え去った後の出来事だ。
それなのにララァはシャアとハマーンの関係を知っている。
これはつまり、自分の事を選んだと思っていた女は、
実は、宇宙の距離も時間も超えて、もうひとりの男、シャアにも通っていたという事だ。
しかも、シャアは自分よりも早く、エゥーゴに参加するという形で自分の道を見つけていた。
『君を笑いに来た』
あの時、クワトロ・バジーナ――、シャアから言われた言葉は
アムロが再起するきっかけになりはしたが、
それを言ったシャアの背後にララァの存在があったと思うと、
アムロの心に怒りがふつふつと湧いた。
(俺はララァを手に入れていた訳ではなかった――!)
ドンッ――!
アムロは無意識のうちに、拳をそばにあったデスクに打ち付けていた。
27 名前:新ストーリー書き:03/03/19 17:14 ID:???
「ちょっとあんた……!人の話、聞いてんのかよ!?」
自分とカミーユの話は上の空なアムロの態度に、ジュドーが苛立ちの声を上げた。
ジュドーには、ジロリとにらみ返す無言のアムロの失意が解らない。
それはカミーユも同じだ。
「アムロさんにだって、経験があるはずだ。
ジュドーにとって、ハマーンはジオンでも戦犯でもない。
あなたにも、そういう人がいたのでしょう!」
カミーユとフォウ。アムロとララァ。
自分と同じ経験をしたアムロにならば、今のジュドーとハマーンの関係を解るはずだ。
それがカミーユの言いたい事だ。
「ああ……。そうだな」
アムロは自嘲的な笑みを口元に浮かべて初めて反応を示した。
「しかし、それは戦争という異常事態が生み出した誤解という事もあるのだよ」
「誤解……!?」
カミーユは耳を疑った。
「生きるか死ぬかの世界にいたんだ。同じ匂いを持つ者には惹かれやすいって事だ」
「ニュータイプだからって言いたいのかよ?」
「そういう例もある」
食って掛かるジュドーに、アムロは冷たく言い放った。
が、言った本人が一番それに傷付いている。
「俺とハマーンは違う!」
ムキになって言い返すジュドーをアムロは眩しいと思った。
29 名前:新ストーリー書き:03/03/28 17:24 ID:???
アムロの脳裏に、先程のジュドーとハマーンの姿が浮かぶ。
アムロが狙いを定めていると承知していながら、
ハマーンはそれでもνガンダムのコックピットに走った。
ジュドーのもとへと――。
もしも自分が言うように、ジオンに復帰する意志がハマーンにあるのなら、
混乱に乗じて逃げるのが先のはずだ。
だが、ハマーンの目はジュドーしか見ていなかった。
迎えたジュドーも同じだ。
ハマーンを想い、ハマーンを反逆者にしたくないという一心でνガンダムを降りた。
これを見せ付けられて、ハマーンとジオンを結び付ける方が無理な話だ。
そして……、ララァがハマーンを生かせと言う。
しかし……、だ。
「ハマーン・カーン」
ジュドーの若い視線を痛いと感じながら、アムロは黙するハマーンに言った。
「あなたがミネバ・ザビの摂政に就いた経緯だが……」
「私が16の時、シャアの後押しによるものだ」
それがどうした。という表情のハマーンの返答に
アムロ自身、何を聞きたいのか分らなくなっている。
何が何でもハマーンとシャアを結び付けたいと思っているのか……。
そんな、前にも先にも進めないアムロの思いに対し、
ハマーンは聞かれるより先に、閉ざしていた口を開いた。
「確かに、私はシャアの手によって摂政の地位を得、アクシズの指揮権をこの手に納めた。
しかし、私とシャアの思想は根本的に違う。それくらい、承知していよう」
無言がアムロの返事だ。
「ザビ家の再興、などという私の方便が気に食わぬシャアはアクシズを去り、
次に会った時、私と奴は敵対する立場。その時から今現在まで、その関係は変らん」
ジュドーのハマーンを労わるような目に、ハマーンは目を合わせた。
フッとジュドーの顔に静かな笑みが浮かぶ。
それに応えるように、ハマーンはアムロに対し、駄目押しをした。
30 名前:新ストーリー書き:03/03/28 17:24 ID:???
「お前の言う、ニュータイプ同士だから惹かれるというのも、
それが思い違いだというのも、私には分る」
ジュドーの目は見開き、笑みが消えた。
が、ハマーンは続ける。
「しかしそれは私とシャアとの関係においてだ」
ハマーンの視界の隅でジュドーはホッと胸を撫で下ろした。
「私はかつて、本気でシャアを撃つつもりで戦い、
今回の奴の動きにも憤りを感じている。
もしも私がこの身ひとつの立場ならば、ジュドーなどがする前に、
新型だろうと旧型であろうと駆り、奴の息の根を止めに行くだろう」
ハマーンのその勢いを静めさせたのは、ジュドーだった。
そして、いち早くシャアと対面したカミーユは、
シャアの中に、ジオンの総帥としてとは別の決着を求める気配があると言う。
シャアのそんな性分を、一度は心惹かれた相手だ。
ハマーンは悲しいかな理解出来てしまう。
ハマーンはアムロの伏せがちな目を見て言った。
「奴がこのような愚かな事をしてまで、決着を付けたがっているのは私ではない」
アムロの目がハマーンを見る。
31 名前:新ストーリー書き:03/03/28 17:25 ID:???
「奴が待っているのはアムロ・レイ、お前だ」
「そんな事……!」
分っている!と言わんばかりにアムロはハマーンに食いついた。
「シャアが全ての決着を付けようとしている事ぐらい、俺だって感じている!」
「――だからお前に託すと言っているのだよ!」
アムロの言葉を畳み込むようにハマーンは初めて声を荒げた。
「奴の……、シャアの心底にくすぶり続ける血気は、
お前が玉砕しなければならないんだよ!」
「 ! 」
ハマーンの迫力に、一瞬、躊躇するアムロに今度は横からジュドーが言う。
「勝手しようとした俺が言うのも何なんだけどさ、俺もあなたに託すしかないって思ったよ」
自分の軽率な行動を思い出し恥かしい気持ちがあるのか、ジュドーにしては控えめな言い方だ。
「それに、セイラさん……」
その名が出て、アムロはジュドーを見た。
32 名前:新ストーリー書き:03/03/28 17:26 ID:???
「あの人も、あなたにアニキを撃って欲しいって思ってる。
そう信じて、地球に降りたんだから」
「――降りたのか!?」
あんなに気にしていたセイラの事なのに、言われるまでアムロは気付かなかった。
チェーンに対し、声を上げていたというのに。
「あの人……、強い人だよね」
「ああ……」
ジュドーの主観に思わずアムロは頷いていた。
確かにセイラは強い。
しかしそれは、セイラが背負った数々の運命がそうさせているだけで、
セイラ・マスというひとりの女性の本質としては、
もっと弱く、もろい部分もあるのではないかとアムロは思っている。
何を根拠にと答える事は出来ない。
同じ戦場で生きていた者だから分る。とでもいう所だろうか。
「セイラさん……」
アムロの脳裏に浮かぶセイラは、ア・パオア・クーから脱出した時に見た、
ノーマルスーツ姿のままだった。
「兄さん!」
と叫んでいたセイラの涙声は、アムロの耳に今も残っている。
48 名前:新ストーリー書き:03/04/01 17:33 ID:???
ジュドーがセイラの話題を出した時、
セイラがここに来た理由を、アムロに知られたくないと思っているカミーユは、
ジュドーが余計な事を言い出しはしないかと内心ヒヤヒヤしていた。
しかし、幸い、ジュドーの口からサイコフレームという言葉は出はしなかった。
システム的な事など、ジュドーは忘れてしまっているのかもしれない。
なぜ、アムロにサイコフレームがシャアからもたらされた物だと伝えたくないのか。
それは当然、敵から提供されたシステムを持つ機体になど、安心して乗れるものか。
という元パイロットとしての憶測が働いたからだ。
ジュドーのような性格ならともかく、
アムロも恐らく、自分と同類の感性の持ち主だとカミーユは判断した。
(テストでは問題無かった。だから性能としては完璧だ。でも……)
この“でも”が残るからカミーユはアムロには伝えない。
(敵に情けを掛けてもらって戦うなんて、俺は絶対、嫌だから……)
しかし、当事者でない今は、それを機体に搭載する。
我ながら貪欲な行為だと思う。
だが、それでも勝たなければ明日は来ない。今、シャアを撃たなければ。
カミーユは無意識に親指の爪を噛んでいた。
49 名前:新ストーリー書き:03/04/01 17:33 ID:???
プ―――ッ!
突然の呼び出し音に、カミーユがインターカムに飛び付いた。
短い会話の後、アムロに用件を伝える。
「アムロさん、チェーンさんが表に」
「分った」
厳重な施錠のため、チェーンといえども入室する事は出来ないのだ。
アムロが掛けていた椅子から腰を上げる。
チェーンが来た理由をアムロは予想が付いている。
戦場が動き出している今、アナハイムにまで来て、
こんな部屋にこもっている暇などありはしないのだ。
前を通り過ぎながらアムロはジュドーの瞳を見た。
力強い、澄んだ目をしている。
自分にもこんな時があっただろうに……。
アムロは自由の人の心の動きよりも、疑いの心を優先していた自分を恥じた。
ジュドーとハマーンを見ていたら、あの時……、
一年戦争の最中、ララァと感じあったあの感覚は、誤解でも錯覚でもない気がしてきた。
(俺は、あの時、確かにララァを感じていたはずだ、が……)
アムロはドアのロックを解除するキーを入力する。
プシューッというエアの音と同時に開いたドアの向こうには、
“心配”を絵に描いたようなチェーンの顔があった。
「アムロ……」
搾り出したような声は、普段なら階級で呼ぶところを切なげに名前で呼んだ。
「ああ」
その姿にアムロは、チェーンをララァとは別の意味で愛していると実感する。
「心配掛けてすまなかった。もう大丈夫だ」
そっと両肩に置かれた手に、チェーンはこれまで抱いていた不安が嘘のように消えてゆく。
いつもと変らない優しいアムロだ。
50 名前:新ストーリー書き:03/04/01 17:34 ID:???
ホッとしたチェーンの顔に笑みを返したアムロは、
少し待っているようにと合図を送り、グリーティングルームに身を半分だけ入れ、
「カミーユ君は、業務に戻ってくれ。時間が無いんだ。オクトバーの指示を仰いでくれ」
と、時が止まった状態の部屋に進展をもたらした。
が、「あ、はい……」とカミーユの返事は歯切れが悪い。
ジュドーとハマーンはどうするつもりなのかと、目が語っている。
それに応えてではないが、今度はジュドーらの方にアムロは向いた。
ゴクッとジュドーは生唾を飲み込んだ。
拘束? 連行? 打ち首? 獄門? 火炙り? 島流し?
いざという時はハマーンを連れてここから脱出しなければ。
ジュドーの目がアムロと、アムロの腰の拳銃と、ドアの開閉幅を順に捕らえた。
が、アムロの口から出た言葉に、その目はアムロに釘付けとなる。
「失礼な事を言って悪かった。
今度こそシャアを撃つために、ふたりの力を貸してくれないか」
「へ?」
間の抜けた素のジュドーの表情と、
あくまでも感情を表に出さないハマーンの顔を見比べ、アムロは短く笑った。
このふたり、意外といいコンビなのかもしれない。
「ジュドー、その若さでこういう女の相手が出来るとなると、
君はいい男になれるかもな」
さっきまでとは一転、冗談を飛ばすアムロにジュドーも黙ってはいない。
「νガンダムはあんたに任せるけどさっ、ハマーンの操縦法だったら、任せておいてよ!」
「貴様らっ、私をなんだと思っている!」
言った早々、ハマーンの逆鱗に触れ、ジュドーは肩をすくめた。
51 名前:新ストーリー書き:03/04/01 17:35 ID:???
アムロはそんなふたりの光景に口元を緩めた。
ララァとの事は、今はまだよく分からない。
シャアを撃てば応えが出るのだろうか。
とにかく、今は戦場へと戻ろう。シャアが待つ戦場へ。
それが全ての答えへの近道となるはずだ。
アムロは若いニュータイプの姿に、自分も持っていた純粋なものを思い出しつつあった。
その後ろ姿をチェーンは複雑に見守る。
アムロがシャアと共有するララァという過去の女――。
時々アムロが険しい顔を見せるのは、それが原因だと傍にいて分っている。
しかし、それごとまとめてチェーンはアムロを愛そうと心に誓った。
時にこの上ないほどに優しく、時に宇宙一強いこの男には、
自分のような存在が必要なのだとチェーンは自負している。
母のように全てを無条件に愛する女が。
再びアムロに肩を抱かれ、アムロに庇護されているかのように見えるチェーンだが、
その実、アムロがチェーンの愛に守られているのだった。
78 名前:新ストーリー書き:03/04/08 17:53 ID:???
νガンダムの機体には、何本ものケーブルが接続され、調整は最終段階に入り、
その空間は、パイロットのアムロはもちろん、アナハイムのクルーの他、
作業に復帰したカミーユ、ジュドー、ハマーンの気迫に満ちている。
時々、その気負いが空回りし、データ通りに作動しないシステムにジュドーが奇声を上げると、
ハマーンがたしなめ、カミーユがすかさずフォローに回り、
修正プログラムを追加するというチームワークを、
サイコミュの受信調整のため、コックピットにこもるアムロは微笑ましく見ていた。
ジュドーがバグを見つける理論は野生の勘の領域で、
それを修正する頭脳をカミーユは持ち合わせており、
ハマーンは、その両者のバランスを保つのに一役買っている。
が、性格が性格なだけに、放っておけばすぐに痴話喧嘩が始まりそうな三人だ。
故に、いざ言い争いが勃発すれば、
どこからともなくファが現れ一括し、事なきを得るのだった。
よくよく、よく出来たチームワークだ。
そんな光景を片目に、アムロは手は休めずにホワイトベースのクルーを思い出していた。
ひねくれ者のカイ。生真面目なハヤト。まとめ役のリュウ。兄貴肌のスレッガー。
ミライはホワイトベースのお袋さん。お節介者のフラウ。凛としたセイラ。
そして、今も変らず艦の指揮を取るブライト。
ブライト以外、誰もが退役し地球に降りた。
子供を抱えてのミライ、フラウのふたりは大丈夫だろうか。
カイにはまた、今回の戦争について痛烈な記事を書かれるのだろうか。
セイラはシャアとの決別を悲しんではいないだろうか。
そして……、戦場で命を落としたリュウ、スレッガーに続き、
ハヤトもカラバでの活動の中で死んだとアムロは聞いていた。
その時、あの、ジュドーが傍にいたという事も。
(こんな時でなかったら、ゆっくりと話をしてみたい少年だな)
“少年”というには少し歳を取り過ぎたジュドーだが、
アムロの目には、純粋さを失わないジュドーは少年と呼ぶにふさわしいと思えた。
(ガンダムのパイロット同士……、か……)
この白い機体が宇宙に舞うのは、これで最後になって欲しい。
アムロの願いは、そのままサイコシステムに吸い込まれていった。
79 名前:新ストーリー書き:03/04/08 17:54 ID:???
アナハイム全体が尽力する一方で、シャアの艦隊もまた、動き始めていた。
ブライトがアムロを呼び戻すために出した暗号は、チェーンを通してアムロへと伝えられた。
「サイコミュ受信の調整終了」
ブライトからもたらされた情報に目を通すや、アムロはヘッドセットを迷い無く外した。
「出るんですか?」
その行為に目を丸くするのは、チェーンだけではない。
「でも、まだ終わっちゃぁ……!」
組んで作業をしていたアナハイムのクルーは、詳細に分っている立場だけに、
アムロの行動に驚嘆したが、
「ほらっ」
と、コックピットから追い出され、
とりあえず、自分の工具だけは持って飛び出すしかなかった。
「出るんですかっ?」
チェーンが二度目の言葉をアムロに投げた。
「火を入れる」
「無理ですよ」
間髪入れず言うが、アムロの目の勢いにチェーンは気負けした。
結局、アムロの指示の元、ブースターベッドの用意にその身を宙に泳がせるのだった。
その背中越しにアムロの声が飛んだ。
「カミーユ君!ジュドー!ハマーン!」
チェーンと入れ違うように、三人が急ぐチェーンとすれ違う。
80 名前:新ストーリー書き:03/04/08 17:55 ID:???
「緊急なんですか?」
アムロの手際にカミーユはすぐに事態を察した。
「ああ。シャアの艦隊が動き出した」
「でも、まだ調整が……」
口には出してはみたが、戦場を経験した三人には、
それでも飛び出さなければならないアムロの事情も心情も痛いほど分る。
「ここまでやってあるんだ。最終チェックのつもりで飛んで、
後はラーカイラムに戻ってからの微調整で大丈夫だろう」
「そうですか?」
カミーユのそれでも不安が残る顔にアムロは言い加えた。
「チェーンも連れて帰るんでね。彼女はあれでも優秀なメカニックなんだよ」
アムロに、自分の彼女を自慢するような口振りは似合わず、
アムロの照れたような笑顔が、カミーユを妙に安心させた。
「戦場は誰の都合も待ってはくれぬ」
「ああ、そうだったな」
ハマーンの言葉にジュドーも納得した口調で答えた。
戦場を知る者同士の連帯感がνガンダムのコックピットを包んでいた。
106 名前:新ストーリー書き:03/04/16 00:20 ID:???
と、ハマーンは急に思い出し、ジュドーのわき腹を肘で突付いた。
「ジュドー」
「えっ?あ……!」
ハマーンの指摘に、ジュドーは慌てて上着のポケットからメモ書きを取り出した。
「これ、俺たちの仲間から、さっきもらった情報なんだけど……」
手渡された紙をアムロは覗き込んだ。
あまりお上手とは言えない文字は、本人からの説明を要する。
「情報収集とネオ・ジオンに部品を回さないために、動いてた俺の仲間がさ、
サイド1の、マニア好みのモビルスーツ扱うガレージショップで聞いたんだってさ」
「ネオ・ジオンの軍人らしい人間が、ハイザックを購入した?」
何重にも円く枠を囲んだ中の文字をアムロが読み上げた。
「クラシカルスタイルで、かなりいいカスタマイドしてあったみたいなんだけど」
こういう類の話をする時、ジュドーの目はジャンク屋に戻っている。
「どうしてネオ・ジオンの人間だって分かるんだ?」
「あのね、俺たちジャンク屋は、マニアは匂いで分るんだよ。
相手が、好きでその機体を見ているのか、
それともその機体による戦果を見ているかぐらい、一目瞭然さ」
「そういう……、ものなのか?」
「らしいな」
アムロの問う目に、ハマーンも少しはジャンク屋に足を踏み込んだ者らしく答え、
カミーユもアムロも頷くしか出来ない。
107 名前:新ストーリー書き:03/04/16 00:21 ID:???
「モンドの話じゃ……、あ、モンドって言うのは、この情報をよこしてくれた俺の仲間ね。
それによると、このサイド1のマニア系ショップのオヤジって人は、
かなりの腕利きの、この道、長い人らしくってさ。
だから、そんな人の目、誤魔化せるわけ無いんじゃないかって、連絡してくれたのね」
ジュドーの相打ちもさせない勢いの合間を縫って、アムロはようやく口を開いた。
「つまり、その機体を使って……」
「そういう事」
「どこかでカモフラージュ作戦が行なわれる」
「だろうね」
ジュドーの自信に満ちた表情に、
アムロは直ちにそのメモを握りしめたままコックピットから身を泳がせた。
「シャアの艦隊の位置も気になる。ブライトに連絡を取ってみる」
「それがいいですよ」
カミーユが答え、その目はアムロの背中を見送った。
と……。
「ねえ」
いたずらっぽい声に、カミーユとハマーンは、
コックピットの中に潜り込んだジュドーに振り向いた。
「ヘヘーン」
ジュドーの笑みは、やはり、悪ガキの顔になっていた。
143 名前:新ストーリー書き:03/04/21 16:55 ID:???
「やめてください、間に合いません!」
アムロの強行的な行動に、開発担当者らしくオクトバーはただひとり声を上げた。
パイロット経験者のジュドーやカミーユらには理解出来るアムロの行動だが、
オクトバーにはアムロの行動は納得出来ない。
が、それでノーマルスーツに袖を通すアムロが思い留まるわけがない。
喧騒の中、νガンダムの発進準備は、
カミーユらの協力もあって、驚異的なスピードで整いつつある。
「アムロ大尉……!」
眉がハの字に垂れ下がったオクトバーだが、アムロに、
「オクトバーさんはじめ、ここのクルーを信じているから出来るんですよ」
と、衝動的な行動ではない事を告げられると、閉口せざるを得ない。
「納期短縮に関わらず、よくやってくれた。感謝する」
ノーマルスーツのジッパーを上げながらという無作法だが、
それでも時間が無いと分かっているアムロの謝辞に、オクトバーは、照れた笑みを見せた。
「大尉が設計されたからですよ」
アムロの顔にもつかの間の笑みが戻った。
144 名前:新ストーリー書き:03/04/21 16:55 ID:???
そんな男ふたりの光景を横をハマーンの体が横切った。
蜂の巣を突付いたような状態のピットの中、
ハマーンもまた、例外なく忙しなく動き回っている。
通り過ぎようとするその姿に気付いたアムロは、その肩を引いた。
「なんだ?」
ハマーンの対応は相変わらず味気ない。
「少しいいか?」
一瞬の無言の後、ハマーンは手にしていた資料をオクトバーに投げ、
「コックピットのカミーユに」
と指示を出す。
「分かりましたよ」
オクトバーは、わざと丁寧に答えるが、
立場が逆転している事をさほど、気にしているという訳ではない。
コックピット方向へステップしたオクトバーの背中を見て、ハマーンはアムロに向いた。
「急いでいるのでな、手短に頼むぞ」
何を急いでいるのかも、誰のために急いでいるのかも分かり切っている状況での
ハマーンの冗談を含んだ回答に、アムロは笑みを見せた。が、
「シャアに伝える事はあるか?」
という真顔に戻ったアムロの口から出た言葉に、ハマーンの陽気は消え去った。
「貴様、まだそのような事を……」
一瞬で不機嫌を顔に出したハマーンに、アムロは慌てた。
「いや、そうじゃない。あなたの気持ちは理解したつもりだ。
だがその上で、何かシャアに告げたい気持ちがあるかと……!」
あまりのハマーンの嫌悪な顔に、アムロの額には冷や汗が吹き出し、
その正直そうな態度に、ハマーンの不機嫌は水が引くように消え去った。
145 名前:新ストーリー書き:03/04/21 16:56 ID:???
「これから戦場に戻る者が、随分な余裕だな」
「いや」
パイロット用ノーマルスーツのグローブ部分に手を伸ばしたアムロには、
ハマーンやジュドーと語りたい気持ちはあっても、やはり、時間的な余裕は無い。
「あなたがシャアに抱く感情は、憎しみが大きなウエイトを占めている事は分かる。
しかし、憎む気持ちが大きいのと同じぐらい、かつては愛した男ではないのか?」
グローブをはめる所作は止めずに話すアムロを、ハマーンは努めて表情は変えずに見詰めた。
「ニュータイプ同士の共感は、愛情ではなく錯覚、誤解であったと、俺は言ったが、
あなた達を見ていて……。いや、俺自身、今は少し違う気がしている。
そうあって欲しいと……」
ハマーンは、アムロのグローブとノーマルスーツのアタッチメントを止める作業に黙って手を貸した。
「すまない」
ハマーンの気遣いにアムロは無意識に礼を言った。
元ネオ・ジオンのハマーン・カーンが、
出撃しようとする自分のノーマルスーツ着用を手伝っている。
アムロには、それは、あまりに異様な光景に思えた。
が、目の前で、器用に白く細い指でロックを止めてゆくハマーンの姿を見ると、
彼女が今、ただの女――、
ジュドーというひとりの男を愛するただの女であると再確認させられる。
「伝えたい言葉は無い」
ハマーンの所作に目を奪われていたアムロは、
ハマーンの淡々とした突然の言葉に我に返った。
「何も、無いのか?」
自分の気持ちはうまく伝えられなかったのだろうか……。
ララァとの気持ちの共感は、あの瞬間、確かに実在していたと信じたい自分の気持ちは……。
ハマーンがシャアに憎しみ以外の感情を持っていてくれたら、
自分の信じたい気持ちも確立できるのではないかという、
アムロの身勝手とも言える希望は不確立なのか……。
アムロは言葉を探した。ハマーンにこの思いを伝えられる言葉を。
が、ハマーンには言葉足らずなままの説明だけで、アムロの気持ちは伝わっていた。
146 名前:新ストーリー書き:03/04/21 16:57 ID:???
「ただひとつ……」
ノーマルスーツの装着が完了したハマーンが顔を上げた。
ハマーンの目の前には、言葉を急くアムロの目があった。
「ただひとつ、苦しませずに……」
――殺してくれ。
言葉としては発せられなかったハマーンの気持ちをアムロは理解した。
人がいる前だと……、また、ジュドーの手前、強気な発言が目立つハマーンだが、
ハマーンにもアムロと同じ感情があった事に、アムロは妙に安心する。
「分かった。そうさせてもらう」
10代の頃の淡い恋の思い出――。
そんな平凡な言葉では言えないハマーンとシャアの関係だが、
全てを憎しみだけだと断言するには、ハマーンにも女の感情が増え過ぎていた。
僅か……、ほんの僅かなだが、シャアを救いたいという気持ちも残っていたのだ。
かつて愛した男だから……。
それをアムロが触れた。
いくら気持ちを寄せ合っている相手でも……、
いや、だからこそ、ジュドーには出来ない業だ。
ララァがシャアと自分を一緒くたに抱こうとする行為に嫌悪しても、
彼女の事を、心底、憎む事など不可能だと分かるアムロだからこそ。
ジュドー以外の人間に、自分の感情を見透かされた事にハマーンは多少、たじろぎはしたが、
これがアムロ・レイという人間かと納得した。
「お前とは、ゆっくり話しをしてみたいものだな」
「ああ。ジュドーも交えて」
アムロはグローブで大きくなった手を差し出し、ハマーンはそれを握り返した。
「生きて帰れよ」
アムロの生気に満ちた瞳は大きく頷いた。
186 名前:新ストーリー書き:03/05/07 11:48 ID:???
「アムロさん……!」
いざ、別れとなると、カミーユもジュドーも言葉を詰まらせた。
自分が出撃する場面はいくつも経験してきたふたりだが、
人を送り出すとなると、幾分、勝手が違うようだ。
そんな後輩たちの気持ちにアムロは笑顔で応えた。
この機体……、ガンダムを駆る者の先駆者としての顔で……。
「世話になったな。行ってくるよ」
ちょっと隣サイトにでも行くような口調でアムロが言う。
「ふたりとも、大切なものを守り、しっかりと自分の人生を歩んでくれ」
それは、軍という組織に人生の大半を奪われた男だから出る言葉だった。
「地球の事……」
言って、アムロは少しだけハマーンに視線を向けた。
「シャアの事は俺に任せて」
「ああ。頼んだよ」
ジュドーが答える横で、ハマーンも静かに目だけで頷いた。
「それじゃあ」
アムロの力強い顔がメットの中に隠れ、コックピットに向いた。
この背中に……、この男に、地球の運命が掛かっている。
それを分かるから、ジュドーも、ハマーンも、カミーユ、ファ、
オクトバーをはじめとするアナハイムのクルーは、微動だに出来なかった。
187 名前:新ストーリー書き:03/05/07 11:49 ID:???
宇宙の闇に白い機体は何の躊躇いも持っていないかのように、
真っ直ぐに飛び出して行った。
カウントダウンの最中に、
チェーンがサイコフレームの資料を送るようにオクトバーに言った時、
カミーユの胸は若干痛みはしたが、信念を曲げるつもりはない。
さっきまでそこにあった巨大な機体が無くなった作業ピットはガランとし、
クルー全員が思い抱く喪失感をそのまま表しているようにも見える。
「行っちゃったな」
沈黙を破るジュド―の声にハマーンはただ頷いた。
「大丈夫。あの人なら、この戦いを終わらせてくれるって」
「ああ」
ハマーンの頭の中に、つい先程まで身近にあったνガンダムのビームサーベルが、
真紅の機体サザビーに斬り付ける映像が思い浮かんだ。
「やってもらわねばな」
「そうそう」
平静を装って、頭の上に腕を組んで先を歩くジュドーの後、
ハマーンは、アムロがまだ、ララァの件を脱しきれていない事を思った。
(全ての決着……、か……)
自分とジュドーの事は理解を示してくれたアムロに、
本当の意味でのシャアとの決着が付く事を、ハマーンは心から願った。
それはもちろん、シャアとジオンの滅亡という形での決着だ。
次にお会いするのはいつの日かぁ~~~。コラ!
212 名前:新ストーリー書き:03/05/20 14:34 ID:???
アムロ・レイの帰還と、新型モビルスーツνガンダムの投入は、
ロンド・ベル隊にとって喜ばしい事ではあったが、
それにより、すぐにも戦局に変化が生じる程の効果があったのかと言えば、
戦場は、決してそんなに甘いものではない。
自軍の陽動作戦の間に、シャアはロンデニオンでの偽りの和平交渉へと向かい、
ロンド・ベル隊はモビルスーツ戦の最中、地球から発射した民間シャトル天鹿を収容した。
アムロやブライトと、地球連邦政府参謀次官、アデナウア・パラヤとの出会いである。
そしてその役人の一声で、ラーカイラムはサイド1のロンデニオンに向かう事となる。
ブライトは直ぐにアムロから打診されていた情報を思い出した。
かつてのアーガマの若者――、ビーチャ、モンドらがもたらした、
ネオ・ジオンが、カモフラージュ作戦を行なう用意があるという情報だ。
直ちに軍を通して、サイド1周辺においてハイザックの民間コレクション機体を押さえるよう、
戒厳令を発令しようとするが、軍がそれに応える事はなかった。
「不確定の情報に動かせる要員はない」
というのが表向きの回答だった。
その裏でアデナウアを使い、連邦政府が何をしようとしているのかを危惧する時、
ブライトは艦長としての沈着さを失った。
「くそっ……!」
艦長席の肘掛に打ちつけた拳の痛みは、苛立った感情に消され少しも感じなかった。
いくつもの戦争を繰り返しても、改善の兆しを見せない組織というものに苦虫を噛む。
たくさんの若者と、多くの犠牲者に苦しみながら歩んで来たこの十数年は何だったのか。
正直、父親として、
偶然再会を果たした息子、ハサウェイの成長振りを見ていたい気持ちもある。
しかし、シャアに対し、唯一ともいえる対抗できる部隊を指揮する者としては、
決して愛息子に対してであろうと、愛想でも笑顔の出せない状況だ。
まだあどけない表情で、アデナウアの娘、クェスと軍艦の中ではしゃぐハサウェイ。
父として、軍人として、ラーカイラムがロンデニオンに入港しても、
決して晴れる時は訪れはしなかった。
213 名前:新ストーリー書き:03/05/20 14:35 ID:???
ロンデニオンの高級居住区では、
地球連邦政府とネオ・ジオンの和平交渉が行なわれた。
それが偽りのものであると察する能力すら逸した、アデナウアはじめとする連邦政府高官たち。
そんな腐りきった連中は、交渉の場に出向いたシャアにも嫌悪感を与えた。
『アムロ、私はあこぎな事をやっている、近くにいるのならこの私を感じてみろ』
かつての赤い彗星とはかけ離れた、
自らの邪まな行為をアムロに押し付けるようなシャアの念派だ。
しかしアムロはそれを、コロニー内の牧草地で白馬に跨ったシャアに会う事でしか受け取れなかった。
クェスとハサウェイが同乗している事も忘れ、シャアの白馬にエレカを突進させるアムロ。
互いに戯言にしか聞こえない論議を、拳を交えて戦わせても、
当然、そこに一致する答えなど出せはしない。
ここで解り合えるものならば、5thルナは地球には落ちはしなかったのだ。
「世界は人間のエゴ全部は飲み込めやしない!」
「人の知恵はそんなもんだって乗り越えられる!」
「…ならば、今すぐ愚民どもすべてに英知を授けてみせろ!」
もはやそこにネオ・ジオンの総帥の威厳はなく、また連邦のエースパイロットの顔もなかった。
ただ互いに己の信念をぶつけ合う肉体があるだけだ。
214 名前:新ストーリー書き:03/05/20 14:36 ID:???
絡まりあったシャアを放り出し、
「貴様をやってからそうさせてもらう!」
アムロは迷わず腰の銃を抜いた。
『ただひとつ、苦しませずに……』
シャアの死を望むハマーンの顔が一瞬、脳裏に浮かんだ。
(ここでケリを付けて……!)
丸腰のシャアに銃口を向ける躊躇いは少しも無かった。
が……。
「アムロ、あんたちょっとせこいよ!」
クェスの敏捷さは男たちには驚異だった。
どこからともなく走り込んできたクエスに、
アムロは呆気ないほどにシャアを撃つべく銃を奪われたのだ。
そしてそんなクェスに、
「行くかい?」
とシャアが手を引く光景は、爆風を発生し、牧草地には不似合い過ぎるハイザック以上に、
奇奇怪怪にアムロとハサウェイには見える。
(あれがジュドーの言っていた……!?)
その場になってアムロがそれを把握したところで何も始まりはしない。
「クェ―――ッス!」
ハサウェイの少女を呼ぶ叫び声は、いずれまた宇宙に響き渡る。
256 名前:新ストーリー書き:03/06/12 16:50 ID:???
大掛かりな作戦を翌日に控えた夜、
シャアはスウィート・ウォーターにある、軍が調達した瀟洒な洋館の中にいた。
最低限に留めた照明の明るさが、体に僅かに感じる疲労に丁度良い。
クェス・エアと名乗った少女はこの館の主、ナナイの手により優秀なパイロットになりつつある。
ネオ・ジオンの総帥を名乗り始めて以来、シャアは己の感情を押し殺す事を覚えた。
ララァを喪った悲しみ、キリマンジャロで見たカミーユ・ビダンとサイコガンダムの少女の悲劇。
どれも忘れた訳ではなかったが、クェスをパイロットにする事が、
それらの悲しみを繰り返す事になるであろうという、容易に付きそうな想像は、
後にも先にも引けない状態にある今のネオ・ジオン軍の現状が発する緊張感の中、
あえて触れないよう、シャアは自らの意思で切り換えた。
それは、戦場にアムロが戻り、尚且つ、
妹、アルテイシアがサイコフレームの情報をアムロに渡したと知った以上、尚更の判断だ。
(私にはもはや、何も繕わねばならぬものも無いのだよ)
バスローブに身を包んだ自分の姿を薄明かりの室内を映し出す、同じ窓ガラスに映し、
シャアは立場とは逆に己の身軽さに失笑した。
それは、無意識下、アムロ・レイに向けた思いだった。
デスクにある、“総帥”のサインを待つ書類が虚しさを増す。
総帥という立場はシャアにとり、ただの窮屈な道化席に過ぎなかった。
257 名前:新ストーリー書き:03/06/12 16:51 ID:???
「アクシズを地球にぶつけるだけで、地球は核の冬と同じ規模の被害を受けます。
それは、どんな独裁者でもやったことがない悪行ですよ」
書類をトランクに入れたシャアは、酒を運ぶナナイの声を耳にソファーに深々と身を沈めた。
「それでいいのですか? シャア大佐」
「今更、説教はないぞ、ナナイ」
同じくバスローブを纏ったナナイがソファーの肘掛に腰をひねって座るのをシャアは許す。
腑に落ちない発言をされようと、ナナイの存在が今のシャアにとって、
総帥という立場の中で唯一の我侭であることも確かなのだ。
「私は、空に出た人類の革新を信じている。
しかし、人類全体をニュータイプにする為には、誰かが人類の業を背負わなければならない」
「それでいいのですか?」
シャアはグラスの酒を口に含んだ。
独特のほろ苦さが通過する時ジリジリと喉を焼く。
「大佐はあのアムロを見返したい為に、今度の作戦を思いついたのでしょ?」
「私はそんなに小さい男か?」
ナナイの発言もまた、シャアには、この不必要に喉を焼く感覚と同じに思えた。
「アムロ・レイは、やさしさがニュータイプの武器だと勘違いしている男です。
女性ならそんな男も許せますが、大佐はそんなアムロを許せない」
ロンデニオンでアムロと再会した事はナナイには告げてはいない。
が、ギュネイあたりから報告を受けたのであろうか、今夜のナナイはいやによく喋る。
258 名前:新ストーリー書き:03/06/12 16:51 ID:???
彼女とは、シャアが艦隊の整備を始めた頃からの関係だ。
公私共にナナイはシャアのためによく働いてくれた。
それは、ナナイがシャアに自分の夢想を描いているからという理由もあったが、
最近になり、シャアはナナイがそれ以上に女であるのだと痛感させられる。
ギュネイを伴ってグラナダに乗り込んだのがいい例だ。
そこに、あの、ハマーン・カーンがいたというのは結果論だが、
ナナイはその存在を危機と感じたのであろう。
無論、それは軍人としてでなく、女としての感性でだ。
アムロの優しさを指摘するナナイの姿は、今夜もまたそれを証明している。
「なんですか?」
「いや……」
自分の質問には答えずに黙想するシャアにナナイは顔を向けた。
本来、シャアとはこの場では作戦の事もニュータイプ論も交えたくはない。
しかし、今はそれが必要と思えた。
(大佐が消えてしまいそうで……)
ナナイは降って沸いた感情を慌てて消し去った。
(こんな時に……!)
ナナイの心に不安の影が大きく広がる。
『貴様もあの男に利用されたいのか』
『私を殺したところで、あの男の全てがお前のものになるとは思えんがな』
『貴様もいつか、自分がシャアに利用されただけの人間だと気付くだろう。
あの男は、人の愛し方を知らんのだ』
ナナイが今、ララァ以上に危惧する女の言葉だ。
「少し調べてみました」
「……ん?」
いつの間にかシャアの腕はナナイの腰に回されていた。
「ハマーン・カーンが生存した理由です」
「 …… 」
「所詮、ザビ家を利用しようなどと目論む女……」
腰にあるシャアの腕が僅かに動いたのをナナイは見逃さなかった。
「あの女は、易々とジオンを捨てた。そして……!」
シャアのもう一方の手の中にあるグラスの中、音を立てて氷に亀裂が入った。
269 名前:新ストーリー書き:03/06/18 16:02 ID:???
(大佐は私の言葉を聞いているのだろうか……)
ナナイの冷静沈着な目はシャアの感情を殺したブルーの瞳の真意が読めない。
「あの女はよりにもよって……!
エゥーゴの元パイロット、ジュドー・アーシタと生活を共にしているのです」
「 …… 」
「ご存知ありませんか? ガンダムZZのパイロットです」
「 …… 」
シャアの無反応がナナイを苛立たせる。
これで……、この事実報告により、
シャアが多少でも抱くハマーンへの推測を断ち切ってくれるなら。
それがナナイに恥も外聞も無く、ハマーンの近況調査を駆り立てさせた原因である。
(口に出さなくとも分かる……。大佐はあの女に抱く思いを持っている。
いや、口に出さないからこそ……!)
ナナイのこの思いは、自分の意地と同じものをシャアに見ているからである。
――ララァ・スンの名前だけは絶対にシャアの前で口にしない。
それがナナイの覚悟である。
シャアがハマーンについて関心を示さない理由。
それは、それだけハマーンに抱くものが大きいからではないのか。
ハマーンが今の自分の思いを知ったらどう言うだろうか?
『つまらぬ嫉妬はいい迷惑だ!』
今もその声が耳に残る。
何者をも寄せ付けない強い女、ハマーン・カーン――。
行き当たり的な襲撃ではあったが、ギュネイとナナイは、
ハマーンとカミーユと、ギュネイの言うところの強力なプレッシャー……、
恐らく、ジュドー・アーシタの前に完全に敗北したのだ。
(宇宙一危険な女と言われただけの事はある……。しかし……!)
大佐は誰にも渡せない。
そう思うナナイとは別に、シャアはナナイの報告に少なからず動揺をしていた。
270 名前:新ストーリー書き:03/06/18 16:02 ID:???
(ガンダムZZのパイロット……)
それが自分が去った後、
アーガマが寄港したシャングリラから乗り込んで来たニュータイプである事は、
シャアも情報として知っている。
(あの女を殺したと思っていた人間が、逆に生かしていたとはな)
シャアの脳裏に“あの時”の情景が浮かぶ。
(ジオン独立戦争の渦中、私が目をかけていたパイロット、ララァ・スンは、
敵対するアムロの中に求めていたやさしさを見つけた。
あれがニュータイプ同士の共感だろうとはわかる)
シャアは見てしまった。
エルメスとガンダムの戦闘の最中、若いアムロとララァの肉体が惹かれあう姿を。
(ハマーン・カーンがあれと同じ経験をしたというのか)
ジュドー・アーシタというパイロットに会った事はない。
が、あのハマーンが引き込まれたと言うのならば、それ相応のニュータイプなのだろう。
しかし、ハマーンという女を知っているだけにシャアには納得し難い。
(ミネバを利用し、アクシズを地球圏にまで持って来た女が……?)
ララァとハマーンでは訳が違う。
(あの女が……)
愛くるしくピンク色のロングヘアをなびかせていた、アクシズ時代の少女とは違う。
『シャア大佐!』
そう自分を呼び、慕っていた時とは違うのだ。
(あれは喰えない女狐だぞ)
彼女をそう変えてしまったのは自分なのかもしれない。
それを、ジュドーという男が再び変えたというのか。
(敵と解り合う……。ニュータイプ同士の共感……、か)
自分に成し得なかった事をハマーンは経験したのだ。
だから、ジオンに見切りを付けれた。
(私はいつまでも私だ……)
しなやかな腰に回した腕に、ナナイが必死の想いで触れている事にすら、シャアは気付きはしなかった。
271 名前:新ストーリー書き:03/06/18 16:03 ID:???
「どうなさいました?」
「似過ぎた者同士は憎みあうということさ」
「恋しさあまって憎さ百倍ですか?」
「ふん、まあな」
努めて冷静に言葉を口にするナナイに、シャアは我ながら適当に答えた。
何が似ていると言うのだろう。
アムロと自分がか? それともハマーンとか?
いいや、自分は誰ともあのニュータイプの共感を経験していない。
「明日の作戦は頼むぞ」
言葉の温度とは裏腹にナナイの追求する目から逃れるべく、シャアは無造作にソファーから立ち、
開かれたナナイのバスローブの胸元に、結露するグラスを触れさせた。
「ん……」
「私はアクシズに先行してお前を待つよ」
その声は情事の声に似ていたが、シャアはグラスを受け取るナナイと距離を持った。
それをナナイも理解している。
いや、そう見せようという彼女の努力をシャアは知らない。
「クェス、よろしいんですね?」
「あれ以上の強化は、必要ないと思うが?」
「はい。あの子はサイコフレームを使わなくとも、
ファンネルをコントロールできるニュータイプです」
「そうだろうな」
ドアノブに手を掛けるシャアの口元に浮かぶ笑みが、ナナイを憎悪させ、
そして、その姿は消えた。
「ジオン・ダイクンの名前を受け継ぐ覚悟が大佐を変えたと思いたいが……」
グラスを握る手に力が篭る。
「くそっ……! あんな小娘にも気を取られて……ッ!」
投げつけられたグラスは、厚い絨毯の上に鈍い音を伴って転がった。
284 名前:新ストーリー書き:03/06/24 16:54 ID:???
――月。
グラナダにあるアナハイムエレクトロニクス社内の開発エリアに、ジュドーはハマーンと共にいた。
νガンダムがここから飛び立ってほんの数日だが、
充実過ぎる日々を過ごしていたふたりには、持て余す程の時間がある現実に慣れずに、
そのままこの忙しない空間に残っていた。
持て余すほどの時間と力がある。
それは、今のふたりには拷問のようなものだ。
そんな中、ロンデニオンで和平交渉が執り行われ、そして和平条約が交わされたとのテレビ報道は、
突然にスウィート・ウォーターから配信された。
「……スウィート・ウォーターの難民に一大希望を与えてくれた艦隊が、
今、連邦政府と永遠の和平を締結するために出港しました。
我がスウィート・ウォーターに、独立と勇気をもたらした艦隊の、
最後の、栄光の、船出であります」
本来、それは月では受信不可能な電波ではあったが、
そこは最先端技術を誇るアナハイムエレクトロニクス社である。
やや障害交じりの映像となったが、しっかりとキャッチしている。
情報を待っていては戦争屋は勤まりはしない。
「ボン・ボワージュ! 我が栄光のネオ・ジオン艦隊。
惜別の念は消える事がありませんが、
しかし、もうこの艦隊の姿は我々の心の中に残すだけに……」
報道キャスターでありながら、煽る口調が鼻に付くが、
配信元がスウィート・ウォーターである以上仕方が無い。
要は、これからこの艦隊が地球連邦政府に投降する。と言うのだ。
285 名前:新ストーリー書き:03/06/24 16:54 ID:???
その内容に、アナハイム社のような戦争屋が血相を変えたのは言うまでも無いが、
ジュドーとハマーンとて、別の意味でそれは同じだった。
「シャアが和平交渉……?」
訝しげな顔で声を潜めるジュドーに、ハマーンは「偽装だな」と断言した。
その背後で、放送が終了する。
「どうやら私は、連邦の俗物共の扱い方をシャアに教授してしまったようだな」
「連邦の俗物、ね」
それは言わずと知れた、ハマーンがネオ・ジオン時代、ミネバ・ザビを伴って地球降下した際、
地球連邦政府の高官たちをいかにあしらったかという事だ。
「地球の愚かな人間は、いつまで経っても変らぬ、か」
「これじゃ、アムロさん、何のために戻ったのか。って気分だろうね……」
ふたりの間に鬱結した思いが漂う。と、
「あ、そうだ……っ!」
急にジュドーが不意に思い立ったように、
その場で駆け足のつもりなのか、握りこぶしを振り、ドタバタと足踏みをし出した。
「この和平交渉、偽物だってブライト艦長に伝えなきゃ……!」
ドタバタドタバタ
「待て」
「ん?」
ピタリとジュドーの足が止まる。
「ブライト・ノアとアムロ・レイだぞ」
ジュドーは拳は握ったままハマーンを見る。
「全て分っているさ。あの男のやりそうな事など」
「え? あぁ……」
言われてみれば。と、ジュドーはすんなりと握りこぶしも下ろした。
「分っていないのは連邦の馬鹿共だけだ」
当然ながらハマーンの口調は厳しかった。
307 名前:新ストーリー書き:03/07/03 12:32 ID:???
スウィート・ウォーターに停泊する艦隊で、
ネオ・ジオンの兵士は“総帥”の演説を聞き入っていた。
艦を指揮する者、前線に出るパイロット、整備の手を休めるノ―マルスーツ姿のメカニック、
それぞれが、その男がスペースノイドに明るい未来をもたらすであろうと信じている。
ホロスコープで立体的に映し出されるシャア・アズナブルの姿は、
実際、その夢を現実のものに出来うる人物に見えるのだ。
1年戦争時の赤い彗星は仮面を着けていた。
エゥーゴでは、偽名を使い、サングラスにより表情を隠していた。
それが、今は、素顔を晒し、ジオンの名を継ぐシャアがいるのだ。
「私の父、ジオン・ダイクンが宇宙移民者、
すなわちスペースノイドの自治権を地球に要求した時、父ジオンはザビ家に暗殺された。
そしてそのザビ家一統はジオン公国を騙り、地球に独立戦争を仕掛けたのである。
その結果は諸君らが知っている通り、ザビ家の敗北に終わった。それはいい。
しかしその結果、地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、
ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった。
これが、難民を生んだ歴史である」
(ハマーン・カーン……)
生存を知って以来、シャアは初めてハマーンの名を口から発した。
(大佐……。これが大佐の本心だと思ってよろしいのですか……?)
演台の背後、ネオ・ジオン高官たちと居並ぶナナイは、
ひとり、私(わたくし)の感情でシャアを見ていた。
308 名前:新ストーリー書き:03/07/03 12:33 ID:???
「ここに至って私は、人類が今後、絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと確信したのである。
それが、アクシズを地球に落とす作戦の真の目的である。
これによって、地球圏の戦争の源である地球に居続ける人々を粛清する」
おびただしい数の兵は、シャアの熱弁に歓喜する。
やはりこの男しかいない。
それは年配の高官も同じで、兵たちと同じように拍手でシャアを称えている。
その士気に応えるべく、シャアは声を上げる。
「諸君、みずからの道を拓く為、難民の為の政治を手に入れる為に、
あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい。
そして私は、父ジオンのもとに召されるであろう!」
「おおーっ」
兵の士気は最高潮に達した。
それを見届けてシャアは演台からマントをなびかせ降りた。
握手を求める高官。
シャアはその先のナナイを目に捕え、そして反らした。
143 : 新ストーリー書き : 03/08/26 16:50 ID:???
ネオ・ジオン軍と地球連邦政府の和平交渉は偽りのものだった。
それを交渉に参加したアデナウア・パラヤは、自分の娘に殺されるという形で知った。
が、それだけで済んだのは、父としてアデナウアは幸せだったかもしれない。
娘が何故、出会ったばかりのシャアに惹かれたのか、
何故、モビルスーツの操縦を感覚的に分かるニュータイプであったのか、その真相を知る事無く、
また、デッキを直撃するモビルスーツのパイロットが娘だという事も知る事無く、
バカな交渉を行なった連邦政府の抜け作と歴史に名を残すだけで済んだ。
逆に、知らずに父を殺したクェスは、戦闘を終えムサカに帰還してからも言い様の無い不快感に苦しんだ。
反発し、身も心も離別したはずの父親だったが、
知らなかったとはいえ、己の手にかけ、その命を絶った時、
ふたりの体の中に流れる同じ血が、ザラザラとした気持ち悪さという形で、クェスに何かを訴えた。
ニュータイプであるが故に、人の死を目の当たりにして感じる不快感。
このまま戦争の道具になる愚かさをクェス自身の体が警告しているというのに、
人の革新を夢みる男は自らその芽を摘もうとしている。
それを解らず、ナナイへの反発心からクェスは先行したアクシズのシャアの元へ飛んだ。
144 : 新ストーリー書き : 03/08/26 16:51 ID:???
そしてそのシャアは……。
「アクシズか……」
アステロイド・ベルト時代、自ら建設した宇宙要塞は青い水玉のような地球をバックに、
それが今まで存在していた意味を問うかのように在る。
この巨大な隕石を地球圏に降下させたハマーンも、
よもや再びこれが歴史の表舞台に担ぎ出されるとは思ってもいなかっただろう。
「これを地球に落すぞ……、アムロ!
まさか、指を咥えて見ているわけではあるまいッ」
シャアの叫びが宇宙の闇に消え、そしてその後、シャアの待ち望んだロンド・ベルからの追撃の最中、
アクシズの核パルスエンジンには灯が入った。
「アクシズに火がつきましたッ。地球に降下開始です!」
オペレーターの報告に眉間にしわを寄せたブライトは、それでも凛として声を発する。
「第五波ミサイル、発射! 同時に回避運動用意!」
が、なんとかアクシズに取り付こうと核ミサイルを含ませたミサイル群は、
クェスと共にこの空域に入っていた強化人間、ギュネイ・ガスによって闇の花火となり散った。
「やった!」
ひとり叫ぶギュネイだが、クェスはシャアのサザビーに一直線に向かうのだった。
145 : 新ストーリー書き : 03/08/26 16:51 ID:???
真空の宇宙、生身の体でモビルスーツのコックピットから飛び出た彼女のシルエットに、
シャアは一瞬、見えないはずのものを見た。
(――ハマーン・カーン!?)
動揺しながらハッチを開いたシャアは、
「大佐ッ!」
と自分を呼ぶ浮遊してきた少女の体を抱き我に返った。
(クェスとハマーンは別物だ)
シャアは自分にそう言い聞かせる。
揺れる髪の動き、少女らしい仕種、シャアに対する一途さ。
それらがシャアにハマーンの少女時代の幻を見せている。
が、それは単なる郷愁の類ではない。
総帥として己を誇示する一方、アムロに対し抱く個人的な感情。
それと同等する、生存を知った故、ハマーンから感じるプレッシャ―が見せる幻。
ナナイが言うように、地球にアクシズを落す事がどれほどの悪行なのかシャア自身、解っている。
恐竜絶滅以来の破壊的な寒冷化は免れない。
それでもせねばならない。そうまでしてアムロと決着を付けたい。だからするのだ。
今、目の前にあるこのアクシズを――!
サザビーのコックピットの中、アクシズを目視するシャアに再び幻が見える。
このアクシズで地球圏に戻って来た女――、ハマーン・カーン。
(ええいッ、今になって私に……!)
聞知とは恐ろしいものである。
ハマーンがZZのパイロット、ジュドー・アーシタと共に居るという情報は、
シャアに必要以上にプレッシャーを与える。
戦力とは別の次元で、注意を払わねばならない存在が増えたという事だ。
146 : 新ストーリー書き : 03/08/26 16:52 ID:???
「ほんとだね? ナナイを折檻してやって」
ひとしきり喋ったクェスの無垢な眼差しがそこにある。
「ああ、本当だ」
「なら、少し働いてくる」
自分のためになるのならばモビルスーツに乗る事も、人を殺す事も厭わない。
ますますクェスの行動は14歳のハマーンに似ている。
「調子に乗るな」
「でも」
「実戦の恐さは体験しなかったようだな」
「恐さ?」
「ああ」
「気持ち悪かったわ、それだけよ。なのに、ナナイはやさしくなくって」
「それで、私の所に来たのか」
少し肩を抱く手に力を込めてやるとクェスは少女らしい笑みを顔全体に浮かべた。
「大佐ァ……!」
「その感じ方、本物のニュータイプかもしれん。いい子だ」
無重力下のコックピットの中、全身でぶつかって来るクェスをシャアは抱き留める。
シャアは、クェス――ハマーンの影をちらつかせる少女――を、
戦闘マシーンとして扱う事で、ハマーンの存在から逃れようと無意識にしているのだった。
こうしてクェス・パラヤの不運な運命は、父殺しだけに留まらず急速に加速していった。
152 : 新ストーリー書き : 03/08/28 16:31 ID:???
――月。
グラナダの市街地から離れた、ほとんどスラム街のようなエリアにジュドーはいた。
νガンダムがアナハイムエレクトロニクスから飛び立つのを見送り、
そこでネオ・ジオンと地球連邦政府が和平交渉をしたというニュースも見た。
その直後のことだった。
ジュドーとハマーンが思いがけず呼び出されたのは。
結果、ジュドーは、ほとんどの時間をこの薄汚れた室内で過ごしている。
恐らく、かつては、それなりの金持ちが個人所有のランチの格納庫にでも使っていたのであろうこの場所には、
今時珍しい裸電球の灯りの下、絶え間なく金属音とキーボードを叩く音が響いている……。
153 : 新ストーリー書き : 03/08/28 16:31 ID:???
「ジュドー、なんとか受信出来そうだ!」
構内の一角でアナクロニズムな計器類を操作していたイーノが額の汗を拭いながら声を上げた。
床に直に置かれたモニターにはかなりの画像の乱れがあるものの、
ニュース番組らしい映像が映し出され、遅れてノイズ雑じりの音声が空間に鳴り出した。
「よぉ~っし! サンキュー、イーノ!」
何かの開口部から顔を出して礼を言ったのは、スパナを握ったジュドー。
こちらもよほど暑いのか、頭に旧世紀の海賊のようにタオルを巻き、上半身は裸の格好だ。
トントントントーンと、ジュドーは身軽に複雑な形状をした物体の上を飛び、モニターに駆け寄る。
すると、どこからともなく同じようにモニターに他の面々も集まってきた。
「でかしたぞ、イーノ」
「まあね」
声を掛けたのは、やはり半裸でねじり鉢巻状のタオルで発汗で濡れた髪が額に触れるのを防ぐビーチャで、
他にモンド、エル、リィナの顔もある。
「しっかし暑いねー。今時、空調切れてる密室なんて堪んないよ」
全身から汗を噴きだすモンドに、
「文句言ったって仕方ないでしょぉ。砂漠を思い出しなさいよッ、砂が無いだけマシよ」
と答えるエルだが、言った本人もいい加減、この悪環境には参っている。
女でなければとっくにジュドーやビーチャのようにベタつくTシャツを脱いでいることだろう。
「空気のあるスペースが見つかっただけでもラッキーなんだ。我慢するしかない」
奥からポケコンのキーを叩きながらカミーユが現れた。
薄暗い中、小さな液晶画面の明かりで蒼白く顔が光っている。
実際、カミーユがエンジニア仲間の伝手からこの場所を見つけた時、ここは廃屋同然だった。
が、幸い空気の循環装置に故障はなく、遮断されていた電力を復旧させれば、
それでもなんとか、これからしようとする事の基地としては使える状態になった。
ハッチに少しガタが来ていて不安はあるが、
宇宙との連絡用通路までもを備えているというのはこの上ない魅力でもある。
「よくそんな涼しい顔してられるね」
「日頃の鍛え方が違うのさ」
モンドが言うのにと答えたカミーユだが、その首に巻かれたタオルの後頭部部分には、
保冷材が忍ばせてあることを後に続くハマーンは知っていたがあえて口にはしなかった。
代わりに、横のファがクスリと笑うのに笑みを返すのだった。
154 : 新ストーリー書き : 03/08/28 16:32 ID:???
「始まるわよ」
摘みを回し微調整を続けるイーノの横でリィナが振り向いて言った。
『……まさに、彗星……、赤い彗星の如くです。
一度は地球連邦政府にその舵を委ねたネオ・ジオン艦隊ですが、
ジオンの魂はそれに屈したわけではありませんでした。
ご覧下さい。我々スウィート・ウォーターの民はこの勇士を心から待っていました』
いつぞやに聞いた煽り口調のアナウンスに似ているのは、
やはり、発信元がスウィート・ウォーターだからだ。
ジュドーらは額の汗を拭くのも忘れ、時折揺れる画面に見入った。
何度もリプレイされるされるのは、
十数隻もの地球連邦軍のサラミス・タイプ、ラー・タイプの艦艇が次々に
ネオ・ジオン軍のモビルスーツ部隊に攻撃され、炎の塊になって宇宙の闇に消える映像だ。
「圧倒的じゃない」
「連中、シャアを従えたって浮き足立ってただろうからな」
ジュドーが呟くのにビーチャが悟ったように答えた。
そうでなければここまでコテンパンには……。そう思いたい願望もある。
「アムロさん……、ロンド・ベルの位置は?」
「シャアを追ってアクシズに向かっている。間に合ってくれればいいんだが……」
アナハイムエレクトロニクスからでも得たのであろうカミーユのもたらした情報に、
ジュドーは一応、ホッとした顔を見せはしたが、次の瞬間、
モニターに映し出される映像がライブ中継に変わった途端、全員が息を飲んだ。
『今、アクシズに灯が入りました。点火です。地球に向けてアクシズが降下を始めました』
さすがにアナウンサーの声が上ずっている。
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